第23話 転校したクラスは荒れ気味のようです

 俺がレゼン・ヴォロディに転生する以前、この学校の第8クラスはペトロ・オレクシーによる独裁政権であった。


 ──この教室、いや、この学校に獣人の学生はいらない!いずれ僕が全員追い出してやる!


 入学初日から、マリア先生含む教師たちの見えないところでペトロは暗躍を開始。

 ミラ含む獣人の女学生たちに嫌がらせを行っていた。


 あまりに過激な考え方で人間側も内心辟易していたのだが、Aランクのユニークスキル『万能魔力』を持つペトロに表立って逆らえなかったらしい。




 この状況が、俺がペトロをシバいたことにより一変する。


 人間と獣人間のバランスは崩れて勢力図が変化した。

 正確に言うと、獣人側が巻き返しをはかったわけだ。

 

 ──これまでペトロに好き勝手された以上、今度はこっちの番だ。

 ──少しはあいつらの肩身を狭くする権利が我々にはある。


 まぁ気持ちはわかる。

 『いじめられた人は他人の痛みに敏感となり優しくなる』なんてリア充の戯言だ。

 やられたらやり返したいと思うのが人のサガである。


 だが、ペトロが離脱して動揺していた人間側も、おとなしくざまぁされるわけにはいかない。

 ペトロのように露骨ではないものの、獣人に対し多少のわだかまりを持つ者もいるしな。


 そんなこんなでお互いに微妙な緊張感のまま数日が経過。

 緊張状態はストレスを生むので、手っ取り早い解決方法が欲しい。


 


 というわけで、両勢力とも俺を担ぎ出したいというわけだ。


 ペトロを圧倒する力を持ち、『腐染獣』の群れを消し去ったと噂されるレゼン・ヴォロディを。 


 獣人は『無力なミラ・クリスを救い、人間に懲罰を与えた救世主』として。

 人間は『やりすぎたペトロを懲罰し、獣人の報復から人間を守る裁定者』として。

 

 ……やれやれ、モテる身分ってのは辛いね。

  

 ゲームでも多少対立した状態からのスタートになるが、ここまで酷くはなかった。

 もし闇堕ちペトロの横暴でこうなってるのだとしたら、決闘騒ぎの時にもっとシバいておくべきだったな。


 そういえば、担任のラシムはどこへ行ったんだろう。

 この争いを鎮めるべき立場のはずだが……


「ラシム先生!このままでは収拾がつきません!警備隊を呼ばなくては!」

「そう言われましても……大事になれば我々の査定にも響きますぞ」


 あ、いたいた。

 

 マリア先生の横にいるでっぷりと太った人間の男。

 大荒れの教室を見ても何もせず、事態を静観し、クロスで丸眼鏡を手入れしている。


「学生たちにもしものことがあったらどうするのですか!」

「まぁじきに落ち着きますよ。それに、獣人と人間の学生が争うなら早い方がいい。どうせお互いの団結なんて実現するはずがなかったんです」

「そんな……!」

「いずれにしろ、朝一番の授業はマリア先生の担当だ。後は頼みましたよ。では、屋内訓練場の点検に行きますのでこれで」


 こう言い放ってさっさも教室を出てしまった。


 ゲームの設定通り無能な人物である。

 作中でもいつの間にかいなくなっている人物だが……ま、今は置いておこう。


 何にせよ、教室は大荒れ状態ってわけだ。

 

 この状況を沈められるのは、たった1人だけ。

 荒療治が必要だ。

 第二次ヴラス帝国の侵略まで時間もないしさっさとまとめないと手遅れになる。


 原作のペトロのように、人間と獣人の融和を地道に達成していく時間はない。


「こうなりゃタイマンだ!決闘でその縦ロールをむしり取られてもほえ面かくなよ!3年前の戦争の英雄、『魔弾のイレーナ』みたいに容赦しねえぞ!」

「望むところかしら!あなたこそ、羽の毛をむしり取って手羽先にしてあげても良くってよ?」

「ああ!?これまで喧嘩でオレに勝ったことがない癖に!」

「おほほほほほほ!いつまで昔の話を蒸し返すのかしら!ボコボコにされて泣いても同情しませんわよ!」


 アビリティを発動せんと全身からオーラを放ち始めたレーフとルースの元へ、ゆっくりと歩く。


 懐から『ペルーン』を取り出し、心の中で唱えた。






 ──恐れを捨て、秘めたる力を解放せよ。


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