第21話 クール系教師と仲を深めます

「全く。『全校生徒500人中一番の危険人物』という評価は伊達ではないな、レゼン・ヴォロディ候補生」

「いや~それほどでも……」

「褒めてはないぞ。ミラ・クリスが無実を証言したので今回は特別に見逃すが、誤解されるような行為は慎むように」

「あぅぅ……先生とはいえ、恥ずかしいところを見られてしまいました」


 数分後。


 マリア先生に先導され、俺とミラは『メリホスト騎士団訓練校』の第8クラスへと向かう。

 これから約1年間キャンパスライフを送ることになる教室だ。

 ゲームでは、主人公ペトロ・オレクシーが多くの生徒と絆を結ぶ場所。


 ちなみに、古びた木の廊下や黒ずんだシャンデリアなど校内の内装は全体的に古めかしい。

 廃校となってから長年放置された建物だからな。

 多少改装はしているものの、予算は十分ではなかったらしい。


「あれが『謎の英雄』レゼン・ヴォロディ……」

「ちょっと怖い顔してるけど、あの『いじわるペトロ』に勝ったすごい力の持ち主なんだって!」

「横のミラ・クリスさんと付き合ってるって本当?」


 すれ違う学生たちは皆こちらを見てはコメントを残しては去っていく。

 人間と獣人が半々ほどの割合だが、1つだけ奇異な点があった。


 全員女性であるという点だ。


 理由は簡単、この『メリホスト騎士団訓練校』に入学した学生のほとんどが女性なのである。

 男性の学生はたったの2人、そのうちの1人ペトロ・オレクシーは入院中なので俺一人しかいない。


 ……なんでかって?

 

 ──この世界の人間、獣人共に魔力の才能があるのは全体の一割のみ。人間は魔法の行使、獣人は特定の動物への変身を得意とする。


 ──ゲーム開始時のスラヴァ王国では、魔力の才能を持つ若者が女性に偏るという現象に見舞われている。10年前『ヒューマンジー』がスラヴァ王国にまき散らした『腐素』によるものではないかという声もあるが、詳細は不明。


 ──味方サイドで魔力を持つ男性はペトロ・オレクシーおよびレゼン・ヴォロディしか登場しない。




 データベースによるとこういう設定らしい。


 『制作陣が男性受けを狙ってそういう設定にしたのでは?』は禁句だ。

 どんなクソゲーだって最初は『このゲームを売りたい』という祈りを込めて生まれてくる。

 擬人化だって元ネタの性別無視してみんな女体化する時代なわけで。


 ま、そういう意味でもペトロから『寝取る』ってわけだ。

 そのためには……


「ミラ・クリス候補生。レゼン・ヴォロディ候補生と話がしたいので、先に教室へ向かってくれないか?こちらはゆっくりと向かうと担任のラシム先生に伝えてくれ」

「は、はい」


 今後のことを考えていると、マリア先生がミラを先に行かせる。

 何か俺に聞きたいことがあるようだ。


「念のため聞いておくが、本当にユニークスキルとアビリティはあれで学校に申告するんだな?」


 マリア先生が俺に今一度確認する。


 マリア・シェレスト先生。

 主人公が通う第8クラスの副担任。

 22歳のクールな女教師ポジションだ。


 とある事情によりユニークスキルやアビリティを失っているが、軍事や戦闘技術などの知識が豊富。

 ゲームでは何度でも選択できるクエスト『戦闘訓練』の教官となっており、訓練クエストSを達成することでアビリティを増やせる。

 ちなみに武器屋『バーバ・ヤーガ』のソーニャとは知り合い。

 

 まぁサブヒロインなので攻略するルートはないのだが…… 


「もちろんです。俺はユニークスキルDランクのしがないヤンキー学生ですよ」

「ペトロ・オレクシーの決闘騒ぎや先日の『腐染獣』の群れの消滅。君には何か特別な力を持っていると噂している者もいる」

「ペトロはもやしだから肉体言語しただけ、『腐染獣』はあの日たまたま演習場に居合わせただけです。俺のランクは最低のDランク。あなたの友人であるソーニャ先生に何度も確認してもらいました。謹慎期間中にあなたを含む教師陣に何度も話したことです」

「疑わしきは罰せず、か……それを望むなら構わないが」


 マリア先生は第8クラスの教室の目の前でやってくる。

 が、そこで足を止め、ゆっくりと振り返る。


「……いや、話しておきたかったことはこれじゃないな」

「ん?」

「レゼン・ヴォロディ候補生。一言お礼をしておきたかったんだ。ペトロ・オレクシーの本性を見抜き、ミラ・クリスを守ってくれてありがとうとな」


 ふぅ、とマリア先生はため息をつく。


「開校から数日とはいえ、先生は彼の本性を見抜けなかった。教師として失格だ」


 ゲーム通り色々と苦労があるようだ。 

 副担任とはいえ獣人の立場で教師というのも、この世界観ではなかなか大変だろう。


 3年前、『スラヴァ王国内の獣人を保護する』という名目で第二次ヴラス帝国が武力侵攻を開始した時から、王国内では人間と獣人の対立が水面下で続いている。

 

 『メリホスト騎士団訓練校』も例外ではない。

 

「本当はお詫びもしたかったのだが、なかなか言えなかった。君を快く思わない教師もいる。君のような人間こそ、この学校で賞賛されるべきなのに」

「気にしないでください。ゲームでもあなたにはお世話になりましたし」

「ゲーム……?」

「いえ、こっちの話です。それより、お詫びがしたいなら、俺と食事でも行きませんか?」

「え?」

「15歳とはいえ俺だって成長した男です。大人の女性とお付き合いしたいという欲はあります。情熱的なキス、とかもね」

「なっ……!」


 マリア先生は瞳を大きく見開いた後、顔とキツネのケモ耳を赤くする。


「お、大人の先生をからかうんじゃない!そもそも、男性とキスなんて今まで誰とも……」

「ん?どうしましたか?」

「な、なんでもない!早く教室に向かうぞ!」

「了解いたしました!」


 うん。



 

 ゲームと同じくちょろいわこの先生。

 ペトロの闇堕ち以外はやはりゲーム通りだな。



 ****



 「む~……」


 廊下の曲がり角から、青い耳をした獣人の娘が顔を出す。

 先に行ったと見せかけて2人の背後に回り込んだミラ・クリスだ。


 ふくれ面をしている。


 「レゼンさん、マリア先生を食事に誘ってる……どういうことなんだろ。ソーニャ先生もレゼンさんを気に入ってると聞いたし……つまり、あの日の告白は……?」


 ミラ・クリスはむむむ、と唇を尖らせ、目を閉じて今の状況を整理しようとした。


「はっ……!まさか!」


 そして、一つの結論を導き出す。







「レゼンさんは……ひょっとしてハーレム派!?」


****


本日の更新はここまで!

明日も3話ほど更新します~



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