第5話 ノーダメージでフィニッシュです

 獣人嫌いのレゼン・ヴォロディは、実は獣人だった。


 しかもただの獣人ではない。


 ──太古の昔、最強の無属性魔法で世界を蹂躙した竜の血を受け継ぐ竜人の末裔。

 ──竜人の力で自らを強化し、無属性魔法を使用可能とするエクストラスキル『竜の血脈』を行使できる。

 ──ただし受け継いだ竜人の血統は5%のみ。

 ──そのためスキルの使用時間は数分間に限定されている。

 ──本人は竜人であると露見するのを恐れほとんど封印していた。




 という設定が明かされるのは特別クエスト『キーウィ防衛戦』の直前。


 第二次ヴラス帝国の決戦に備えている主人公勢の前に、これまで悪役として散々ざまぁされてきたレゼンが立ちふさがることで明らかとなる。


 ……なんだか主人公よりキャラ設定が濃くない?



 ****



「な、なんで効かないんだ……?」

「お前の『万能魔力』を知らずに喧嘩を売るはずがないだろう!俺は独自に肉体を鍛錬し、お前の魔法攻撃に対する耐性を獲得したのだぁ!」


 もちろんである。


 実際には、目に見えないオーラ──無属性の防御魔法『無効インバリッド』が俺の周囲に張り巡らされており、ペトロの『岩塊ロックビート』を防いだのだ。


 設定上レゼンはこのエクストラスキルをほとんど封印しているので、今のところ技は1つだけ。

 適正は全て∞でも、引き出せるパワーはまだ少ないってわけだ。


 これは少しずつ強化していけばいい。


 『キーウィ防衛戦』直前で戦うレゼンは『無効インバリッド』以外にもを行使してたし、不可能ではないだろう。


 この決闘に勝つ主人公をシバく分には充分だ。


「く、くそっ!『岩撃ロックビート』!『岩撃ロックビート』!『岩撃ロックビート』!」


 焦ったペトロが魔法を乱射するが、全てが『無効』の壁に阻まれ消えていく。

  

「本当は水属性じゃないのか?ならば……『火嵐ファイアストーム』!『水渦ウォーターボルテックス』!『風圧ウィンドプレッシャー』!」


 属性を切り替えても同じことだ。


「ククク……無駄な攻撃、ご苦労さん。もう一発シバくまでそこで待ってろ」


 しかし悪役側からのプレイというのもなかなか楽しいものだな。

 ゲームのペトロは正統派主人公だったので、非の打ちどころがない聖人だが面白味にかけるところがあったし。


「くっ……なんなんだこいつ……こうなったら!『四重奏カルテット』!!!」


 ペトロは後ずさりながらもついに最強の攻撃魔法を繰り出す。


 火、水、風、土。


 4つの攻撃魔法が絡み合い、1つの奔流となって殺到する。

 見た目通り4つの魔法属性を持ち、ほとんどの敵に大ダメージを与えられる上級技。


 視界が色鮮やかな魔法で埋め尽くされ、大爆発を起こした。

 もうもうと立ち上る煙。

 遠くから決闘を目撃した生徒のものと思われる悲鳴。


「やったか……!」

「言わなかったか?無駄だと」

「……え?」


 もちろん、ノーダメージ。


 『無効インバリッド』:無属性の防御魔法。無属性以外のあらゆる物理攻撃、魔法攻撃、精神攻撃、その他アビリティを無効化する。


 『無効インバリッド』の結界は魔法を防いだ、と言うより接触した瞬間に消し飛ばして消滅させた。

 魔法だろうが砲弾だろうが結果は同じ。


 からこそ無属性なのである。


 しっかし無属性便利だな弱点属性もないし。

 『万能魔力』持ってるペトロはともかく、ヒロインや仲間はアンチ属性攻撃ですぐ死亡するから調整が大変だった……

  

「ひ、ひいっ!」


 なんてことを考えていると、怖気ついたペトロが戦意を失い腰を抜かした。


 一応勝負ありか。

 大体クエスト通りに進んでいる。




 問題はどうするかだ。

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