第6話 もう一発だけ主人公を殴っておきます

「ぼ、僕の負けです!すみませんでした!なんでもするから許してください!」


 ペトロはあっさり土下座した。

 優男顔を地面にこすり付け、必死に謝罪する。


「なら、ミラ・クリスを侮辱したことを取り消して謝罪しろ。それだけで命は助けてやる」

「ほ、本当か?」

「ああ」


 俺はきびすを返し、校舎へ戻ろうとする。


 


「隙ありぃぃぃぃぃぃ!」


 背後でペトロの叫び声が聞こえる。

 不意打ちをかけるつもりらしい。


 悲しいことにこれもイベント通り。


 ──戦闘終了後、意識を取り戻したレゼンは土下座で油断させてペトロを不意打ちしようとする。

 ──それでも、ペトロは彼を傷つけずに制圧。レゼンは一日入院となるのであった。


 ……そんなにペトロに勝ちたいなら『竜の血脈』を使えばいいんじゃね?とか突っ込んではいけない。

 ゲームのレゼンはを抱えているのだ。


「この僕の美しい顔に傷をつけた君は絶対に許さなぃぃぃいいい!!!『岩撃ロックビート』!『岩撃ロックビート』!『岩撃ロックビート』!」


 また魔法連打してますけど効いてませんよ?

 面倒だから適当にあしらってこのイベントを終わりにしよう。

 あまりゲームの展開に逆らうのもまずいし──、


「臆病者の獣人の存在など、僕は認めない!ミラ・クリスだって、本当に第二次ヴラス帝国との戦争になれば逃げ出すか降伏するに決まってる!だから、人間だけでいいんだぁぁぁぁ!!!」




 カチン。

 

 俺の中で、何かが弾ける音がした。


「……あ?」




 全くこの無能主人公は。

 嫌なこと思い出させるなよ。




 ──隊長……さん?来てくれたん、ですね……援軍を連れて……


 ──……すみません。負傷しちゃいました。治療スキル持ちが自分の傷も治せないぐらい傷つくなんて……恥ずかしいですよね、あはは。


 ──隊長……さ、ん。わがままを、1つ、許して……ください。


 ──ミラ、は……隊長さんのこと、が……


 


 逃げねぇんだよ。


 パターンは違えど、ミラ・クリスは絶対に逃げない。

 『キーウィ防衛戦』で必ずキーウィに残留し、壮烈な戦死を遂げる。

 一番悲惨なパターンだと遺体も残らない。


 ミラ・クリスだけじゃねえ。


 ゲームで出てくるヒロインや仲間は、誰一人逃亡したりなんてしない。

 

 大切な人のため。

 受け継いだ誇りのため。

 故郷のため。


 第二次ヴラス帝国の大軍を目の前にしても、絶対に逃げないんだ。

 最期の瞬間まで。



 ****



「……少しだけ、シナリオ変更だ」

「へ?」

「1週間は病院に入っていろ」


 再びペトロに向き直り、全力でダッシュする。


「ひいいいいいいっ!」


 俺はムカついていた。


 ペトロは勿論だが、このクソゲーを作った制作陣にもだ。

 パッケージ買いしただけの俺をここまで染め上げやがって。


 もう後戻りできねえじゃねえか。


「まっ……!」


 手加減なし+助走MAXでペトロを思い切り殴った。

 アビリティ『殴打パンチ』も発動してるし、流石に効いただろう。


 多少ゲームの展開とは違うが、構うものか。

  

 「ほげぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 再び地面とキスをするペトロを眺めながら、改めて決意した。




 抗ってやる。


 バッドエンドも死亡エンドも胸糞ストーリーも全部粉砕だ。

 制作陣の描いたシナリオを可能な限りぶち壊してやる。

 ハッピーエンドを阻むやつは容赦しない。

 

 なぜなら──、





 


 今の俺は悪役なんだから。


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