第7話 勢いあまって告白してしまいました

「ごばぁ……」


 ペトロは今度こそ気絶し、動かなくなった。

 後悔はしていない。

 

 俺が自分なりにエクストラモード異世界転生に取り組むための儀式だ。


「クソ制作陣め、見てろよ!俺に何をさせたいのか知らんが、10000時間プレイした経験と、悪役のチートスキルでほえ面かかせてやる!ククククク……あーはっはっはっはっはっは!……うっぷ」


 突然、目の前がチカチカとしはじめ、焦点が合わなくなってきた。

 胸も痛い。


 体を支えきれず、地面に転がってしまう。

 

 どうやらエクストラスキルの活動限界が来たらしい。


 おそらく余裕を持って活動できるのが5分、限界まで引き伸ばしても10分。

 竜人とはいえ血統継承度は5%。

 95%は『殴打パンチ』しかできないDランク相当の血統だからな。


 だが、対策は可能なはず。

 俺はレゼン関係のイベントを整理してみた。




 ──俺が望むは『永遠の眠り』。この世界から人間も、獣人も、『竜の遺骸いがい』も……全て消し去ってやる!


 特別クエスト『キーウィ防衛戦』の直前、レゼン・ヴォロディは90年代RPGのラスボスのような電波発言をしてこちらに襲い掛かってくる。


 ──貴様らのあがきなど無意味だ!『無効インバリッド』!


 即死攻撃連発、こちら側のアビリティを100%無効にするというクソゲーらしいクソボスだったが、一つだけ勝利方法があった。




 それが『1時間逃げ回ること』。

 プレイヤーはランニングや腹筋といったこれまでの地味な訓練クエストで鍛えた肉体を生かし、ひたすら逃げ続ける。


 VRゴーグルがズレないように。


 ──ドタバタうるせーぞ!警察呼ばれてーのか!


 ──すんません!あと26分ぐらいで終わりますんで!本当にすんません!


 床を鳴らしすぎて下の階の住人から苦情が出ないように。


 ──限界だと……?まだだ、まだ、『永遠の眠り』、を……


 こうして1時間経過するとレゼンは活動限界を超えて苦しみだし、こちらの勝利となる。

 つまり、レゼン・ヴォロディとなった俺にも、最低1時間まで活動限界を伸ばすチャンスがあるはずだ。


「ククク……メインヒロインも……サブヒロインも……全部、俺の、ものだ……ガクッ」


 意識が混濁し始める。

 空は青く澄んでいて、1羽の鳥が上空を旋回していた。


 完全に眠りにつこうとしたとき──、


「レゼンさん!」


 10000時間かけて守りたかったヒロインの一人。

 ミラ・クリスの顔が飛び込んできた。



 ****



「しっかりしてください!ミラの声が聞こえますか?」


 ケモ耳がこれまで以上にピンとなっている。

 青い瞳が少し潤んでいた。


 可愛いなぁ。


 大丈夫と答えてあげたいけど、口が動かない。


「今から治癒魔法をかけます。獣人なので威力は弱いかもしれませんが、救護班が来るまでは……『治癒ヒール』!」


 ミラは地属性の初級魔法を発動し、俺の額にそっと手を当てた。


 胸の痛みが取れていき、少しだけ意識がクリアになる。

 治癒魔法ってリアルだとこんな感じなのか……


「……ありがとう。結構回復した」

「レゼンさん!良かった……!本当に、良かった……!」

「こっちは、もう大丈夫だ。それより怪我はないか?」

「は、はい。あの……」

「ん?」

「……ありがとうございます。ミラ、学校で友達がいなくて、攻撃アビリティを使えないせいかペトロさんにもいじめられて……だから、レゼンさんが『学友』と呼んでくれたのが本当に嬉しかった……」


 ぎゅっ。


「うおっ……」


 感極まったミラがこちらを抱きしめる。

 そうなるとどうなるか分かるかな?




 そうだね、おっぱいだね!


 胸板の次は顔中に柔らかい感触が伝わる。

 ぷにぷにの二の腕の感触もおまけ付きだ。

 ミラの心臓がどくん、どくんと鼓動する振動も心地よい。


 やべぇ……


 この感触を再現していたら、『戦場のスラヴァ』も10000本は売れてたのに。

 もったいないことをしやがる。


「でも、どうしてミラを助けてくれたんですか?」

「どう、して?」

「はい。これまで、ミラとほとんど話したこともなかったのに……」


 至極もっとも疑問だ。


 答えようと思った時、また意識が遠くなるのを感じだ。

 力を使い果たすことによる意識のシャットダウンは既定路線らしい。


 それよりも、質問に答えなければ。


「……それは」


 朦朧とする意識と戦いながら、これまでの記憶を辿って答えを絞り出す。




「君のことが……好き、だ」

「……え?」

「君のことはずっと好きで……助けたいと思ってた。10000時間かけても。それじゃ、ダメ、かな……」

「え、えっと……ミラのことが……ええ!?」


 ミラの真っ白な頬が朱色に染まり、青い瞳が見開かれるのを眺めながら、俺は完全に意識を失った。


「ちょ、ちょっと待ってください!ミラのことが……す、すすす好きってどういうことですか!?」


 というか、この時に言ったことを忘れた。

 2日酔いを経た朝に何も覚えてないのと同じだ。

 


「あわわ、どうしよう……」


 というわけで──、




「は、初めて男の人に告白されました……!」


 しばらく微妙に噛み合わない関係を築くことになる。

  

 

 ****


 本日はここまで!

 今日の公開分で1章完結です! 

 明日もサクサク更新していきますので、よろしくお願いします。

 

 第二章予告


 「レ、レゼンさん……あーん」

 アホ主人公を殴り倒した先にあったのは、モフモフ獣人娘とのハラハラドキドキ密室生活!?


 次回をお楽しみに~!




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