第二章 武器を入手しました

第8話 助けたヒロインとのひと時は格別です

 朝。


 『メリホスト騎士団訓練校』にある学生寮、3階の一室。


「レ、レゼンさん。あーん……」


 ベッドに横たわる俺の口に差し伸べられる手。

 人差し指と親指に支えられた、木のスプーン。


 緊張した表情でこちらを見つめる青髪の獣人娘、ミラ・クリスだ。

 耳と同じくらいモフモフとした尻尾をパタパタと動かしている。


「……あーん」


 無言の圧力に負け、俺も彼女が求めていたワードを口にした。

 口いっぱいに広がる刻んだ野菜、香辛料、にんにくの香り。

 暖かい紅色の野菜スープだ。

 

 体の調子が悪い時はこういうシンプルな食べ物に限る。

 

「ど、どうですか?食堂の食材をいくつかもらって作ってきたのですが……」

「おいしい。キーウィの名物居酒屋『なべかま亭』の看板娘の名前は伊達じゃないな」

「ありがとうございます……!ボルシュって料理なんですけど、自分で作るのは初めてなんです。大分熱も下がってきましたし、もう少しで授業に出られますね」

「あぁ。しかし、こう、なんだ。俺も一応15歳って設定なんで、あーんはだな……」

「嫌、ですか?お父さんにはずっとやってもらってたのですが……」


 そんなうるうるとした瞳で見つめられたら断れませんっ!


「いや全然!何度でもいける!」

「ふふふ。レゼンさんってぶっきらぼうに見えて本当は優しいんですね。ではもう一度!あーん、です。次はパンも」

「あ、あーん……」

 

 そろそろ「このリア充、いや、リアじゅうどもめ!」と言う声が聞こえそうなので解説しておこう。


 例の決闘騒ぎの後、ペトロ・オレクシーは一時入院、俺は直後に発生した体調不良を治療するために療養になった。

 喧嘩両成敗による謹慎処分を兼ねている。


 とはいえ、俺ははじめて『竜の血脈』を使った反動からか数日間マジで体調不良だった。


 ──レゼンさん!しっかりしてください!


 ──うーん……プレイヤーをリアルで体調不良にするとは……クソゲー、恐る、べし……!


 ──……くそげー?と、とにかく『治癒ヒール』をかけなきゃ!


 2人部屋の相方として立候補したミラが付きっきりで看病したおかげか、最終的には良くなった。


 残り3日で謹慎は終了。

 俺は晴れて『メリホスト騎士団訓練校』の一員としてクラスに復帰する。


 獣人の生徒をいじめていたと判明したは1ヶ月謹慎なので、奴がいない間に好き放題やらせてもらおう。


 両名に対する正式な処分は、互いの謹慎処分があけてから下されるそうだ。


 カーン……カーン……カーン。


 遠くで授業のはじまりを告げる鐘が鳴る。


「あ、もう授業に行かなくては。もう少しご一緒したかったのですが……」

「こちらに気を使う必要はない。騒ぎに巻き込んだのに看病までしてもらって悪いな」

「レゼンさんが気に病む必要はありません。あなたは、ミラの恩人、そして英雄ヒーローですから!」


 ミラの曇りのない笑顔で言われ、思わず赤面してしまう。

 ゲームより破壊力がやばい。


「そ、それではまた夜に」

「はい!」


 ミラは元気よく部屋から出ようとした。


 が、途中で足を止めてこちらを振り返る。

 なんだか顔が赤いような。


「その……ずっと気になってるんですが……」

「ん?」

「この前の……す……」

「す?」

「す……すぅ……ぃ……」


 ミラは口から謎の言葉を謎の言葉を発した後──、




「す、ステーキでも食べませんか?元気になったら!『なべかま亭』のステーキはおいしいって近所でも評判なんです!レゼンさんも紹介したいですし」

「ああ。ぜひ同席させていただおこう」

「お義母かあさんにも伝えておきますね!じゃあ!あはははは……」


 妙に煮え切らない態度をして去っていった。


 なんだったのだろう?


 

 ****



 本日は1時間ごとに13話まで公開します!

 サクサク読めますのでよかったらどうぞ!(^^)!



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