第18話 悪役が帰還したようです

 ──恐れを捨て、秘めたる力を解放せよ。


 エクストラスキルを発動し、目に見えない無属性のオーラを身にまとう。


 この前よりも力があふれ、子供のころのような万能感に包まれた。 

 『守るべき女がいる男は強くなる』ってやつかもしれない。


 ──軍神よ。最小限の力で最大の戦果をもたらせ。




 ====================


 殲滅対象:『腐染獣』×50

 射程:100メートル

 使用後の魔力残量:70%

 備考:周囲の腐素ごと消滅させる


====================

 



 『ペルーン』が俺の望みを読み取り、目の前に情報を表示してくれた。 

 軽く目を閉じた後、迫りくる『腐染獣』の群れに透明の銃を向ける。


 「グルルァァァァァ!」


 先頭の『腐染獣』のうなり声で鼓膜がピリピリと震え、目玉がはっきりと見える位置まで接近した時──、


 


 『殲滅アナイアレイション!』


 叫びと共に撃鉄を引き起こし、無属性魔法を発動させた。



 

 体の周囲に漂っていたオーラが形を変える。

 前回のような巨大な円ではない。


 49個の小さな矢だ。


 前回より形成も早く、スピードも早い。 

 音もなく正確に『腐染獣』の中心に飛び込んでいき──、



 消滅。

 消滅。

 消滅。


 文字通りいなくなる。

 再生させる時間すら与えず。

 噴き出していた『腐素』ごと。

 一瞬で。


 「キッ……!」


 唯一声をあげられたのは、空中を飛んでいた内の一匹。

 無属性魔法を察知していたからではない。


 他の個体と距離を取って飛行しており、コンマ数秒のタイムラグがあったため、わずかな叫び声をあげる時間が残されていただけ。 


 それもすぐに消え──、


 


 演習場には静寂が戻った。

 わずかにえぐられた地面だけが『腐染獣』がいた痕跡を世にとどめている。

 巻き添えになった者はいない。


 小鳥の囀りさえずが聞こえた。

 見上げると、木の枝の上に一羽の小鳥が留まっている。


 ゲームでは動物の方が『腐素』に敏感という設定だったし、汚染も最小限に留まっているようだ。

 力を使った瞬間に感じていた倦怠感けんたいかんもかなり軽いので、連発も問題なさそうだ。




 罪なき者を巻き込まず、大地を汚さず、殲滅すべき対象だけを静かに葬り去る。


 無差別な破壊と殺戮を好むヴラス帝国軍とは違い、『ペルーン』は慈悲深き軍神だった。


 

 ****



 『メリホスト騎士団訓練校』に戻ると、生徒たちの人だかりが出来ていた。

 全校生徒数百名。

 今年できたばかりなので全員同じ1学年である。


 避難命令が解除されて集合しているのだろう。


 俺の姿を見かけると、わっと駆け寄ってくる。


「すごい!あなたが『腐染獣』を消滅させたの?どうやって?」

「武器もなしで……あなた実はすごい人?」

「この国を救う英雄だ!」


 ありとあらゆる賛辞をもって、俺に認知してもらおうとする。


 でも、この人じゃない。

 この獣人でもない。


 俺が会いたいのは──、




「レゼンさん!」


 人だかりをかきわけて、青い髪と瞳が色鮮やかな獣人の娘が走ってくる。


 瞳が少し腫れているが、表情は明るい。

 両手を広げて彼女を迎え、お互いに抱き合う。


「悪い。今回は怪我も病気もなさそうだ。『治癒ヒール』を受けられそうにない」

「いいんです。無事なら……無事でいてくれたら……それだけで幸せです」


 ミラ・クリスは、華のような笑顔で笑った。


「おかえりなさい、レゼンさん」

「ああ。帰ったよ、ミラ」




 人目をはばからずに抱き合ったことで学校中に色々な噂が広まるのは、また後の話。



 ****


 ここから第三章です!


 明日からは3話前後のペースで更新しますので、よろしくお願いします!(^^)!

 コメント、☆、要望、なんでもお待ちしております。


 第三章予告

 

「俺が望むのは人間でも獣人でもない……ハーレムだ!」


 晴れて学園に復帰した主人公を待ち受けるのはケモ耳と人間の美少女が混在するハーレムだった!

 次回をお楽しみに~

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