第12話 クソゲーのクソつよ武器をゲットしました(中編)

「レゼン・ヴォロディ候補生にピッタリの武器は、『水霊すいれいのガントレット』じゃ!」


  30分後。


 俺の適性を調べ上げたソーニャは、ピカピカに磨き上げた青色のガントレットを店のカウンターに置いた。


「水属性の魔力を強化する魔石、アクアマリンをふんだんに盛り込んだ打撃武器じゃ。水の精霊、ヴォジャノクの加護も受けているので、装備するだけで『ウォーターバリア』を使える優れもの。サイズも調整したのですぐ使えるのじゃ」

 

 俺は『水霊すいれいのガントレット』を両腕にはめてみた。

 確かに、メリケンサックよりも手にしっくりと来るし、力が湧いてくるのを感じる。

 サイズもぴったりだ。


「なるほど。確かに素晴らしい武器です」

「いひひ!ソーニャは天才じゃからの。じゃあ早速契約を……」

「でもだめです」

「え?」


 俺はグローブを外し、カウンターに置いた。


「この武器は……俺の適性を完全に引き出せていません!!!」

「そ、そんな!?『武器鑑定ウェポン・アプレイザル』!」


 ソーニャは仕方なく鑑定アビリティの1つを発動。

 両手で四角形を作り、俺と『水霊すいれいのガントレット』をじっくり観察する。


「武器と使用者の適合率が95%。確かに、5%……最近はアビリティを使わなくても適合率100%をぴたりと当てる自信があったのじゃが……」


 このゲームには『適合率』という概念があり、100%でないと武器のポテンシャルを全て発揮できない。

 適合率100%の武器を提示するのがソーニャ・レフスカヤというキャラクターのこだわりである。


「クククク……天才武器鑑定士をもってしても、俺のを100%暴くには至らないようですね。自分で武器を選んでもいいんですよ?」

「ぐぬぬ……」


 ソーニャは頬を膨らませていたが、やがて眼光をきらりと輝かせる。


「久々に武器鑑定士としての血が騒いできた!適性を100%見極めるまでは帰さん!そこで待っておれ!100回やって成功しなければ、お主のいうことを何でも聞いてやる!」


 ウサ耳(模造品)をぴょいぴょいさせながら、奥にある倉庫に去っていった。

 姿が見えなくなるのを確認して、壁にかけられた時計を確認する。


 現時刻は8時25分だ。


 自然と邪悪な笑みがこぼれる。


「クックック……悪く思わないでください……俺たちはクソゲーの重力に魂を縛られてるんです……」




 裏技発動まで、あと99回。

 


 ****


 一人の少年がクソゲーに勤しんでいる頃。


「……あ、寝過ごしちゃった……レゼンさんは……?」


 寝間着姿の獣人の娘が目を覚ました。

 きょろきょろと辺りを見回し、テーブルに置かれた書き置きと朝食を発見する。


「ミラのために、作ってくれたんだ……」


 少し頬を赤く染めながら、木のスプーンで暖かなスープを口に含ませる。


「……おいしい」


 心と体が癒されるのを感じながら、少女は過去に思いをはせた。

 自分がまだ幼かった頃、大切な人と過ごした記憶。


「お父さん……ミラは学校で不思議な人に出会いました。ぶっきらぼうで怖い顔をしてるけど、優しい人」


 少女の独白は、誰もいない室内に人知れず響いていく。




「これまで一度も話したことがないはずなのに……すごく懐かしくて、愛おしい気分になりす。何故なのでしょうか……」

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