第13話 クソゲーのクソつよ武器をゲットしました(後編)

「武器No.98!妖精が照準を補正してくれる『妖精の弓矢』!」

「適合率94%。弓より銃派です」

「くぅ……武器No.99!どかーんと振りおろすだけの『メガートンハンマー』!」

「適合率93%。俺が扱うには少し重すぎますね」

「ぐぬぬぬぬ……」


 数時間後。


 武器屋『バーバ・ヤーガ』はちょっとした戦場のようになっていた。


 床やカウンター一面に散らばる計測器具。

 数字を書き殴った用紙。

 倉庫から取り出された色とりどりの武器。


「ぜぇ……ぜぇ……お主、一体何者なのじゃ……?どの武器を提示しても絶対100%にならぬ……こんなことは今までなかったのに!」


 そして、少し涙目になっているソーニャ。

 時計を見てみると、時刻は17時25分を指していた。

 もう9時間もここにいることになる。 


「だから言ったじゃないですか。自分で選ぶって」

「嫌なのじゃ!この武器庫の武器は、ユリヤ・スタラヤドガ・リューリク王女にスカウトされたソーニャがスラヴァ王国各地を巡って集めたものばかり!誰にも触られたくないのじゃ〜!」

「やれやれ。それよりも次で100回目ですよ?なんでも言うこと聞くって言いましたよね?」

「ぐぬぬぬぬぬ……」


 ソーニャは疲労困憊になりながらも、最後の武器に手を伸ばす。


「ぶ、武器No.100!あらゆる場所にカギ爪を引っ掛けられる『カギ爪ロングフック』じゃ!戦闘と潜入両方に使用可能なレア武器!これで決まりじゃ!『武器鑑定ウェポン・アプレイザル』!」


 鑑定スキルを発動させ、両手で作った四角を覗き込んでいたが……


「適合率がは、80%!?こんなに低いのは初めてじゃ……」

「大分疲れてますね。そろそろ終わりにしましょう」

「ソ……ソーニャの武器庫がぁぁぁぁぁ……ぜ……ぜん…め…めつめつめつ…」


 最後の希望を絶たれ、がっくりと膝をついてしまう。

 

「ソーニャの負けじゃ……なんでも言うことを聞こう……えっちなこと以外で……」

「じゃあ、武器庫への通路を開けてください。自分で選びたい武器があるんです」

「これ以上お主にふさわしい武器があるとも思えないが……仕方あるまい。倉庫への近道を開いてやろう。特別に1つだけ無料レンタルを許してやる……」


 ソーニャがパチンと指を鳴らすと、床の一角が動きだし、地下に続く階段が生じる。




 裏クエスト『ようじょの勧めを100回断った男』。


 『転職』でソーニャの提示する武器を100回断ると発生するクエストで、とあるレア武器の入手経路が開かれる。

 このクエストを解放しないと『バーバ・ヤーガ』の倉庫には絶対に行けない。


 ただし、ゲームで100回断るのは簡単ではなかった。


 ──適合率100%なのにいらない?理由を話すのが筋じゃろ!ぷんすか!


 ソーニャ・レフスカヤはゲームの主人公ペトロ・オレクシーに100%最適な武器を絶対に当ててしまうからだ。

 それをなだめたり、ストーリーを進めないと手に入らないお菓子で懐柔したりして100回を目指すクエストなのだが……


 ──エクストラスキル『竜の血脈』はあらゆる鑑定スキルで探知されない。封印時は武器適合率の初期値が100-血統継承度となる。血統継承度が5%の場合は95%が上限。


 ゲームでレゼン・ヴォロディを倒した後に閲覧できるデータは正しかったようだ。

 

 時間も短縮できたし、早速武器を手に入れて帰るとしよう。

 

 「ぐす……やっぱりそーにゃ、てんさいじゃなかった……すきるだよりのうさみみいきりろりなんだ……」


 ……放っては置けないか。


 へたりこんで涙を流しているソーニャの頭を優しく撫でる。


「辛かったんですね。才能を妬まれて『スキル頼り』と陰口を叩かれることが。だから、自分の知識や経験だけでやり遂げたかった」

「うん……」

「でも、落ち込む必要はないと思います」

「れぜんおにいちゃん……?」

「あなたが今まで磨いてきた実力は間違いなく一流です。他の人間や獣人のやっかみなんて気にする必要はありません」

「でも……」

「それに、天才というのは誰しも1つや2つ失敗をするものです。それを乗り越えてみんな天才になっていくんですよ」


 俺も10000時間に及ぶ失敗を経てここにいる。

 最後に成功すればそれでいいんだ。


「そう、なの?そーにゃも、みんなのやくにたてるてんさいになれる?」

「はい。もちろんです」

「えへへ。れぜんおにいちゃん、やさしいんだね……」


 ソーニャは涙を拭い、勝ち気な表情を取り戻した。


「行ってくるのじゃレゼン・ヴォロディ候補生!ソーニャのしかばねを超えていけ!」

「はっ!」

「あ、あと……暇だったら『バーバ・ヤーガ』に来てもよいぞ?お主には興味があるからの……」

「承知しました!」


 俺は幼い天才武器鑑定士に敬礼し、地下に潜っていく。


 ……原作よりも仲が良くなった気がするな。

 本来なら攻略ルートのないサブヒロインなんだが。

 1人2人攻略対象が増えたりして。


 「また来るのじゃぞ~~~!」


 1人2人増えると俺が気付くのは、もう少しあとになってからの話。



 ****

 


「さて、ゲーム通りなら……ここか」


 広大な『バーバ・ヤーガ』の地下倉庫。

 薄暗く天井の高い室内に1000種に及ぶ武器が保管されている。


 が、ほとんどの武器は選択しても『適合率が足りません』という表示が出て自分のものにできない。

 持ち帰れるのはたったの1種類だけ。




 正解は倉庫に入ってすぐ右にある棚。

 下から3番目の段。

 段のちょうど中央。


 俺は目当ての武器に手を伸ばした。




 何の武器も置かれていない虚空にである。

 なぜなら……




 「ったく。VRゲーでは鬼畜すぎんだろ。前世で200時間探したわ」


 このゲーム唯一の無属性武器。


 軍神の名を戴く透明なる銃クソつよ武器『ペルーン』である。


 

 ****



 本日の更新はここまで!

 明日もサクサク更新しますので、よろしくお願いします!(^^)!

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