第14話 作戦会議は男のロマンです

「すー……レゼンさん……昨日のボルシュ、おいしかったれす……」


 『バーバ・ヤーガ』から寮に帰った日の深夜。


 俺は寝息を立てるミラを起こさないよう注意しながら、『ペルーン』の触り心地を確かめていた。


「やはりハンドガンサイズの古い銃か。表面に装飾が掘られてるみたいだし、中世の貴族が使ってそうな派手な奴かな?」


 俺が購入したVRコントローラーじゃ触覚は体験できないので、ゲームで知っている武器を『触れる』のは結構感慨深いものがある。


いくら触っても艶々つやつやとしていて気持ちがいい。


「しっかしよぉ……透明な銃なんてかっちょいい武器をなんで使んだ制作陣は……」


 倉庫に安置されていた謎の武器、スラヴァ王国の軍神の名が付けられた短銃『ペルーン』。

 どこから紛れ込んだのかソーニャ・レフスカヤすら知らない。


 ゲームのデータベースではこのように記載されていた。


 ──無属性の魔力を弾丸とする無色透明の銃。『殲滅アナイアレイション』など制御の難しい無属性魔法に指向性を与え、連発を可能とする。ゲーム中最強の武器。


 裏クエスト『ようじょの勧めを100回断った男』を偶然発見し、ノーヒントで広大な倉庫を駆けずり回るなどして気がつけば合計200時間。

 ゲームでようやく『ペルーン』を手に入れた時の喜びは格別だったね。


 ──ただしペトロ・オレクシーは使用不可能。無属性魔力を帯びている者だけが使用できる。


 ……制作陣が課したクソッタレな制限を目にするまでは。


 それともエクストラモードを最初から前提にしてたのか?

 未来人か超能力者か知らんが暇人なことだ。


 

 

 さて、武器も手に入ったことだし、俺が望むハッピーエンドを今一度整理してみよう。


 ──第二次ヴラス帝国の侵略軍を撃退する。

 ──ただし『ハルマゲドン』エンドを起こさせない程度に抑え、『竜の血脈』の力はなるべく隠匿する。

 ──ヒロイン含むスラヴァ王国の民を可能な限り生存させる。


 そのためにはまず特別クエスト『キーウィ防衛戦』をクリアする必要があるが、作戦はある程度決まっている。


 第二次ヴラス帝国本土からスラヴァ王国首都キーウィへ至るまでの侵攻ルート。

 参加する将兵。

 使用する武器や兵器。

 基地の設営場所。

 キーウィへの道中で必ず陥落させようとする都市。

 補給隊の動き。

 戦況の変化への対応。


 特別クエスト『キーウィ防衛戦』を飽きるほど繰り返す中で、第二次ヴラス帝国軍がどのように動くかある程度掴んでいるからだ。


 ただし、俺1人で全てをさばききれるはずもないので、この1年で可能な限り信頼できる仲間を集め、作戦の多くを委ねたい。


 活動限界のある俺自身は、作戦のうち最も得意な分野を担当する。






 すなわち、敵後方に忍び込んでの殴り込みだ。


 敵の司令部や仮設基地を襲撃し、ヴラス連邦軍の将軍や佐官を暗殺。

 後方でのんびりと物資や兵器を運んでいる補給隊の破壊。 

 味方があまりにも苦戦していれば最前線でフォローに回り、最前線の100人程度を手早く処理して戦況を改善する。


 このうち、将官の暗殺は最もコストパフォーマンスの高い行為だ。

 指揮系統が乱れた軍は烏合の衆に過ぎないからな。

 それに、暗殺なら『竜の血脈』も露見しにくくなる。


 短時間の戦闘で敵のウィークポイントをひたすら破壊し、ヴラス帝国軍全体を機能不全にさせるのが最優先目標である。


 敵を皆殺しにする必要はない。

 敵の急所だけをついていけばいいのだ。

 昔のエロい人もそう言ってたし。

  

 短期的には、ヴラス帝国軍が『竜の血脈』に気づかぬまま壊滅してキーウィから撤退するまで。 


 長期的には、疲弊した第二次ヴラス帝国がスラヴァ王国侵略を完全に断念するまで。


 3年前に発生した第二次ヴラス帝国との紛争で一部領土を奪われているので、奪還できればなおよし。


「とまぁ廃ゲーマーの妄想ではこんな感じだが……問題は要員が俺1人だけではないという点か」


 最終的には俺が『ペルーン』で手を下すわけだが、活動限界の都合上ゴ〇ゴ13やスネー〇のような一匹狼と言うわけにはいかない。


 道中でサポートや支援を行ってくれる人物が必要だ。

 敵後方への浸透や暗殺に有用なユニークスキル、アビリティを保有しているのが望ましい。

 スラヴァ王国を敵の侵略から守り抜く覚悟があり、俺と生死を共にしてくれる人物なら万々歳。

 ゲームで行動を共にする機会が多かったキャラクターなら文句なしだ。




 ……いや、すでに人選自体は決まってる。

 ゲーム通りなら、この条件100%合致する人物は3人しかいない。


 ──ミラが血路を開きます!その間にお逃げください!

 ミラ・クリス。


 ──敵と砲弾の数が10倍?燃えるわねぇ、英雄になれるチャンスじゃない!

 アナスタシア・コザーク。


 ──敵が王宮から3キロの地点まで迫ってきましたか……誰か銃を!私も戦います!

 ユリヤ・スタラヤドガ・リューリク。


 ゲームではこの3人とチームを組んでずっとプレイしてきた。

 多少戦術は変わるものの、チームを組むとしたら彼女たち以外ありえない。


 まだミラとしか接触できてないが、頃合いを見て全員を暗殺チームにスカウトするつもりだ。

 もちろんこの世界の3人が100%協力してくれる保証はないが……その時はその時だな。


 なんにせよ俺は1人でも戦う。


 スラヴァ王国をハッピーエンドに導ける可能性を少しでも上げるため。


 何より……




 10000時間かけても死の運命から救えなかった彼女たちを守り切るため。


 それが、俺がクソゲーのエクストラモード異世界転生をプレイし続ける最大の理由なのだから。


  ****


  本日は1時間ごとに18話まで更新します!

  気に入った方は☆やコメントお願いします!(^^)! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る