第2話 とりあえず主人公を殴ります
「なぜ僕の言うことが聞けないんだ獣人!!」
気が付くと、住んでいるボロアパートとは別の場所にいた。
『スラヴァ王国』首都キーウィ北方にある、広大な敷地を持つ教会のような学園。
『戦場のスラヴァ』序盤の舞台『メリホスト騎士団訓練校』だ。
プレイヤーはここで『スラヴァ王国』を守護する『スラヴァ騎士団』の候補生となり、多くの人間や獣人と出会い絆を深めていく。
「ミ、ミラはこの学校で……」
「君のような獣人が本気でスラヴァ王国を守る騎士団になると?馬鹿馬鹿しい!」
2人の男女が人気のない演習場で言い争っていた。
杖を持った銀髪の美少年が、青い髪をした獣人の少女につかみかかっている。
「どうせ第二次ヴラス帝国のスパイなんだろ?君のような獣人と一緒に学ぶなんて考えられない。入学を取り消して出ていけ!」
「ひっ……」
1人はゲームのヒロインの1人、ミラ・クリス。
もう1人はゲームの主人公、のはずのペトロ・オレクシー。
奇妙な光景であった。
どうやら主人公は
ゲームで見せた正義感や、人間であれ獣人であれ分け隔てなく接する優しさはどこにもない。
そんな2人を後ろで眺めながら、俺は自分の体に目をやる。
黒髪をした人間の青年。
青年、と言っても爽やかさのカケラもない陰気な悪役顔。
両手の拳にはメリケンサック。
「参ったな……悪役転生かよ」
俺はゲーム開始5分ではじまるイベント『ミラとの出会い』に出てくる悪役兼ざまぁ役、レゼン・ヴォロディになっていた。
イベント『ミラとの出会い』。
獣人嫌いの人間レゼンがミラにつかみかかるところを、主人公であるペトロが助ける。
戦闘のチュートリアルとなっており、一通り操作した後ペトロがレゼンをぶっ飛ばしてめでたしめでたし。
のはずだが、どうやらあべこべになっているらしい。
これが
「ミラは出ていきません。国を守るためにこの学校に来ました。命だって、投げ打つ覚悟があります!」
闇堕ちした主人公に対し、涙目になりながらも自分の意志を曲げないヒロイン、ミラはゲーム通りであった。
おっとりして気弱に見えるけど、芯は強い。
戦争が起きても絶対逃げ出さず、主人公と最後まで戦い抜く。
たとえ、悲惨な結末が待ち受けていたとしても。
その身を投げ出して。
「なら、力づくで追い出しても文句はいえないね!」
「……っ」
ペトロは拳を振りかざし、ミラはぎゅっと目を閉じる。
「おい」
「なんだ?僕はこいつを……」
振り返ったペトロの鼻面を思い切り殴った。
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