第3話 ヒロインのおっぱい気持ち良すぎだろ!

「ほげぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 ペトロ・オレクシーが地面とキスするのを眺めながら、俺は状況を整理する。


 イベント『ミラとの出会い』が発生するのは、ゲーム開始直後にあたる新生暦21年4月3日。


 それから約1年経過した新生暦22年2月24日、獣人が支配する帝国『第二次ヴラス帝国』が『スラヴァ王国』の併呑へいどんをもくろみ、大軍で首都キーウィを攻撃する。


 特別クエスト『キーウィ防衛戦』の開始だ。


 プレイヤーはそれまで『メリホスト騎士団訓練校』で多くの時間を過ごすことになる。


 クエストクリアやイベント解放に勤しみ、多くの人間や獣人と絆を結んで戦いに備えるわけだが……


「ぐぅぅぅ……レゼン・ヴォロディが何故ここに?僕は汚らわしい獣人をこの学園から排除するんだ。邪魔をするなぁ!」


 この世界のペトロにはどうやら荷が重い役割らしい。

 殴られた鼻を抑えて涙目になりながらも、獣人に対する憎しみはさらに燃え盛っている。


 ストーリーを進めるための必須条件に『特定の獣人の好感度を上げる』が含まれるため、このままではバッドエンドルート直行だ。


 主人公が無能すぎて辛いね。


 ひとまず震えているミラに駆け寄る。


「大丈夫か?」

「レ、レゼンさん!?どうしてここに……」

「別に大したことじゃない。学友を助けるのは当然のことだ」

「学、友……?」


(ミラ・クリス、キャラデザのまんまじゃん!)


 平静を装っているが、心の中はかなりざわついてた。


 サファイアのように光り輝く青色の髪と瞳。

 シミ一つない、透き通るような白い肌。

 狼の特徴を持つピンと立ったケモ耳。


 大学のすぐ近くにある中古ゲーム屋でパッケージ買いした時の高揚感を思い出す。

 クソゲーは音楽やキャラデザ秀逸だったりするもんな……


「ありがとう、ございます……ぁ」


 なんて過去を回想していると、恐怖から解放された安心からか、ミラがバランスを崩した。

 

 地面に倒れ込もうとする彼女を正面から慌てて支えるも──、




 でっっっっっっっ!


 白い制服越しからも分かる、丸くふくよかな胸。


 自分の胸板にゆっくりと押し付けられ、年齢=童貞の脳裏に電撃を走らせた。


「ん……」


 気絶したミラは唇からかすかな吐息を漏らし、俺の鼻腔びこうを女の子特有の甘い香りでくすぐる。

 10000時間ゲームをプレイして追い求めたヒロインの無防備な横顔。

 首を少し伸ばせば、桜色の唇までもうすぐ。

   


 やばい。

 

 これはVRでは体験できない奴だ。  


 ヒロイン勢のブラチラやパンチラを求めてカメラワークをいじりまくってた俺には刺激が強すぎるよちくしょう!

 

 もうこのまま別のエクストラモードR18禁展開行っちゃう!?


「レゼン・ヴォロディ!!!こっちを向け!」


 めくるめく想いは、いつの間にか立ち上がったペトロの声にさえぎられる。

 そういやイベントの途中だったな。


「待っててくれ。奴をもう一発シバいてくる」


 ミラを地面にそっと下ろし、俺はペトロの元へ向かった。


「さっきはよくも不意打ちしてくれたな!」

「不意打ちは立派な戦術だ。そもそも、敵意のない女の子に暴力を振るう方がよほどクズだろうに」

「なっ……!」


 わなわなと怒りで震えながらペトロは叫んだ。


「『決闘の掟』に従い、君に一騎討ちを申し込む!負けた方が土下座だ!」


 あべこべ状態をのぞけばこれもストーリー通り。

 この学校は、一度廃校になってるとはいえ元々数百年の歴史を持つ超名門校。


 揉め事を決闘タイマンで白黒付ける伝統はそのまま残っているのだ。


「いいぜ。どの道、もう一発シバくつもりだった」

「後悔するなよ!」

 

 ペトロは武器である『セマルグルの杖』を構えた。

 俺も自らの武器、『市販のメリケンサック』でファイティングポーズを取る。


(さぁて、どうしますかね)


 こう見えても結構真剣だ。

 理由は2つ。

 



 理由1つ目。

 ミラ・クリスはゲームの進行に大きな影響を与える。


 このクソゲー進行に必要な必須条件『特定の獣人の好感度を上げる』の一人目が、他ならぬ彼女だからだ。

 

 イベント『ミラとの出会い』で発生する決闘で勝利できなかった場合、ミラは人間の陰湿ないじめに耐えかねて退学し行方不明になる。


 その後は人間と獣人の学生同士で対立が激化し、3ヶ月後にバッドエンドルート126『メリホスト2度目の廃校』に突入。

 スラヴァ王国の守護者を育成する機関は失われ、なすすべなく第二次ヴラス帝国に攻め滅ぼされるしかない。


 この小さな決闘に王国の命運が握られてるなんて、俺以外は誰も知らないだろう。


 理由2つ目。


「潔さだけは認めてやる。だが!僕のユニークスキルのランクはA!Dランクの君に叶うはずがない!瞬殺してやるから覚悟しろ!」

「さぁて本当にそうかな……?」

「なんだって!?」

「なんでもない。さっさと来い」


 俺はペトロをいなしながら脳内で念じる。


 ──ステータス画面を閲覧。

 

 目の前にステータス画面が現れる。

 この辺はゲームと同じだな。




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 レゼン・ヴォロディ(覚醒前)


 種族:人間

 魔力属性:水

 ユニークスキル:『腕力強化』

 ユニークスキルランク:D

 格闘適正:C

 魔法適正:D

 支援適正:D

 武器:『市販のメリケンサック』

 アビリティ:『殴打パンチ

 補足:主人公が最初に戦うエネミー。苦戦する要素はないように見える。


 ====================




 さて。




 元主人公はここでしちゃってもゲーム的に大丈夫だろうか。

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