雪崩のように、津波のように

 さて、面倒な急展開。ひとまず目の前の巨人たち(なんか長ったらしい種族名があるらしいけど便宜上こう呼ぶわ。)と和解……というより一方的な相談をしてから、こいつらの簡易的な拠点に向かう。そもそもの出会いからして嘘から始まってるので信用はしない。ボレアスには


「こいつらが余計なことしたらアンタ暴れていいわよ。」


 と伝える。よっしゃあと張り切っていた。なんでボレアスを選んだかというと、間違って攻撃してしまってくれないかなーって。ちょっとイライラしてたから。簡易拠点の内部はこいつらには狭いにせよ、【アイオロス】にはちょうどいい感じのサイズで、アタシには巨大な建物にしか見えない。

 ガーランたちは急いで向かってくるからそれまで対応しろってことなんだけど、調査ったって……。


「俺らを襲ったやつについて詳しく教えろ……?」


「惑星解放に協力してやるけど、その分情報が必要っつってんのよ。」


 アタシは【アイオロス】に乗ったまま中に入る。内部にはなるほど、非戦闘員らしき存在もいる。それでも5、6人……数えられる程度だ。


「これだけ?」


「……あぁ、たくさん死んだ、たぶんな。」


 パワードスーツを、ステーションに預け、脱ぎながら彼らは答える。うーん、武装解除しろとは言ったけど、一応乙女としてはそんな目の前でインナーのみのおっさんはちょっとは気にして欲しいんだけど。


「黒色の波に飲まれたんだ。」


 黒色の波……【アブゾーヴ】かな?波って、相当大きいみたいね。とはいえ、農業コロニー丸ごと飲んでた時を考えると、星は丸ごと飲まれててもおかしくはないか。そう考えると資源とか取れるのかな。


「吸収されたとみて良いでしょうね。生物なら生き残る可能性は無いわ。よく生き残れたわね。」


 生存してたとしても奴らに吸収されたら、もう奴らと同じ存在になるみたいだし。


「……たまたまなんだ。ちょうど畑にいて……畑に入った瞬間奴等は迫るスピードが遅くなった。……細やかな理由はわからないが、自然そのままの場所では遅くなることを察して、うまく逃げ出した。この衛星ならほとんどが土だから……反撃の拠点になると考えたんだ。」


「……ふーん。まぁ衛星とはいえ、惑星間をそう簡単には渡ってこないのかな。……【アブゾーヴ】は吸収できるもがない場所にはこないのかなぁ。」


 ひとまずは【アブゾーヴ】の侵食率の確認が必要かな。


「ねぇ。できる限り近寄りたいんだけど、シャトルみたいなのない?乗り捨てていいやつ。」


「お、おお。あるにはあるぞ。あちらの倉庫の中だ。燃料はほとんど入っていないが、【マシンズ】では向かわないのか?」


「単騎で行って、飲まれたら終わりじゃない。【アイオロス】にシャトル取り付けていつでも逃げれるようにするのよ。」


「しかし、取り付ける技術がないぞ。」


 それはその通りだ。【アイオロス】の背中の接続ソケットは、シエラの自作のため、ユニバーサル規格にも対応していない。とはいえ、そんな時のためのとある裏技はすでに伝授されている。


「うちの子のノトスには、強力な電流で磁力を生むことができるわけ。撹乱レーダーの応用らしいわ。それで一時的に接続が可能なんだけど、その間は電力を全てそっちに回す形になるからほとんどの武装が使えないのよねぇ。」


 だからこそ、戦闘は行わない。戦うのは、みんなが来てからにしよう。一旦情報が欲しい。この場所は【コノフォーロ】で一日かからないわけだから、あと半日といったところかな。その間に行って帰ってくることは可能でしょ。


「さて、じゃあちょっと行ってくるからアンタたちはみんなを出迎えといて。ボレアスは置いていくから、変なこと考えないように。ノトス、あのシャトルを。」


『ひっつけるのねぇ〜。』


 ノトスが持ってきてくれれば、逃げる時は外部操作で行けるわけだし、なんとかなるでしょう。


「じゃあまっすぐ向かうわ。【アイオロス】なら一時間……かかんないかしら。」


 飛び出して数分後、衛星の軽い重力から離れて流れるように惑星に向かってゆく。


「……ある程度のところで様子がみれるといいけど……。エウロス、先行できる?」


『了解した。』


 エウロスとそれに従うペタルを飛ばす。彼なら何があっても大丈夫だろうし。空気の層よりも高い場所でひとまず待機して、彼らの報告を待とう。ノトスにはシャトルと一緒にさらに離れた場所に居てもらっている。エウロスたちを行かせる都合上、シャトルの制御ができなくなっちゃうからね。


「さて、こっちはそろそろ減速しておこうかしら。少なくとも大気があるのなら大気圏への突入だけはしないようにしないと。」


 あくまで情報収集。エウロスたちだけなら大気圏ギリギリまで接近しても問題なく帰って来れるだろう。安全にはできる限り配慮しつつ……。


「んー、惑星上が目視できるけど、地表がどうなってるかはわからないわけだしね。……わかりやすく黒くなってたりしたらよかったんだけど。」


 そうしてメインカメラをのぞいていると、エウロスたちが戻ってくる。


『帰還した。得た情報を送信する。』


 送られてきた写真は地上の状態、まるで文明を感じない。


「飲まれたからなくなったのかしら。それにしても自然は普通に残ってるわね。」


 【アブゾーヴ】は人工物しか飲まないとかあるのだろうか。その判断基準とかどうしてるんだろ。司令塔みたいなのがいると思っていいのかな。


「ま、見当たらないってことはどうせ潜んでいるんだろうし、一旦戻ろ。」


 まだ早いだろうが、【コノフォーロ】を迎えに行こう。

 シャトルは必要なかったけど、まぁ使わないに越したことはないわよね。……廃棄しようかなと思ったけど一応この近辺に流しておくか。エウロスたちは……ま、展開させたままでもいいでしょ。周り警戒しておいて。


「さて、あいつらと合流して、みんなで暴れるわよ!」

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