碧に目覚め、先には闇を。

最近はいつも誰かいたからほんのちょっぴりだけど緊張するわね。まぁ、【アイオロス】も新しく進化したし、どうにかはなるでしょ。


「【コノフォーロ】で一日かからない距離って聞いてたし、そろそろかしら。」


 今回依頼のあった惑星は、あまり惑星間交流の少ない辺鄙な場所。というのも、惑星自体がかなり開拓済の場所で目立った産出品も少ないので欲しがる人が少ないの。新型ブースターは【コノフォーロ】の通常航行レベルのスピードが出せるから、時間感覚がわかりやすいわね。


『へへ、ここに強い敵がいるのか!?』


『そうかなぁ?そうかもぉ。』


『ふっ、全く低俗な……。』


「ちょっと黙ってなさいよ。」


 いま喋り出したのはなんとクロス・ペタルに搭載されたAIたち。圧倒的な殲滅能力と引き換えにアタシに負担を強いていたスライス・ペタルだけど、クロス・ペタルになった時、シエラがメインとなる四機に特殊なAIを積み込んだみたいなのね。それに操作してもらうことによって負担を軽減することができるらしいの。AIにはそれぞれ

ボレアス ノトス ゼピュロス エウロス

と名前がついていて、さっき喋ってた好戦的なのがボレアス、ゆるいのがノトス、クールぶってるのがゼピュロス、あとみんなをまとめてくれるエウロスってのがいるわ。

 一気に賑やかにはなったし、まぁ嫌いじゃないけどみんなが一斉に喋り出すとそれなりにうるさいわ。


『あぁ!すまねぇな!パイロット!』


 特にボレアスはほんとにうるさい。


「まったく……肉体的な負担は減ったかもだけども……。」


 ここまで騒がしいと、精神的に疲弊しちゃうわよ。


『ネモ、目的地到着前だが。』


「?……どうしたの、エウロス。」


 エウロスがレーダーマップに点灯した場所は、進行方向からは90度違う場所。おそらく目的の惑星の衛星だ。


『生体反応。おそらく……高熱源反応。回避推奨。』


 エウロスの返答に合わせ、機体を緊急回避させる。我ながらなかなかいい反応速度だ。今までは索敵と判断も自分でやってたわけだから、かなりありがたいのかも。……ってなんなの、敵!?

 機体の横を、ビームが走る。出力はかなりあり、【マシンズ】に搭載できるレベルじゃない……と思う。んー……こういうときヴィルならすぐ判断できるんだろけどなぁ。


「……でもまって、巨大生物がどうのこうのじゃなかった……?」


 こんな強力な武装を搭載してくる奴らな訳?


『次射、準備中の可能性がある。』


『早速初陣かぁ?』


「……ノトス、いける?」


『はぁい、行ってくるねご主人!』


 背中のウイングの一機、ノトスが射出され飛び立つ。ノトスにはレーダー撹乱装置が追加で搭載されており、近づくには好都合。衛星まではそれなりに距離はあるが、【マシンズ】単騎の航行でも問題なく接近できる。


『俺は!』


 ボレアスが相変わらずうるさいが、ボレアスの性能は従来のスライス・ペタルを単純強化したような大きな回転刃が特徴で、位置も特定できてない敵には不利すぎる。


「役割よ、いうこと聞きなさい。ゼピュロス、機体の周囲に展開。」


『了解、マスター。』


 ゼピュロスは刃をビームに変え、高速回転する事で攻守を兼ね備えたバランスの良い性能。これで突発な攻撃にも対応できるでしょ。


「さぁて、まずは敵さんの姿を確認しちゃおうかしら。」


 レーダーのジャミングは出来ているとはいえ、有視界宙域である。極力バレぬようデブリに身を隠しつつ惑星に近づく。


『むー、結構やるよアイツら!』


 目視での攻撃に耐えかねたノトスからの通信が来る頃には、こちらも衛星の地上にいるであろう機体を捉えた。


「見たことない【マシンズ】……じゃなくてもしかして巨大なスーツってわけ!?」


 背中に搭載された巨大なボンベと見受けられるそれは、明らかに生物用の酸素ボンベだ。


「巨人ってことかぁ。意思疎通はできないのかしら。ねぇ、エウロス。」


『警告なしの攻撃をしたということは話し合う気はないという認識で問題ないだろう。』


「やっぱそうよね。……出番よ、ボレアス。」


 いうや否や、ボレアスが放たれてゆく。


『ようやくデビューってわけだ!』


「調子に乗らないでよ。」


 ボレアスは他の非AI搭載機を引き連れて先陣を切ってゆく。高速で飛び回る回転刃らの対処に巨人たちは混乱。


「便利ねー。……突入するわ。」


 二丁のブレード付きショットガンを、まるで双剣のようにばつ印に構えながら、突撃していく。かなり重力は緩いようで、ほとんど宇宙空間で戦っているようなものであり、そんな中での【マシンズ】は、特に乱戦ではあまりにも有利だ。


「巨人たちはあまり近接での武装は持ってなかったのね。巨大なスコップとか、そんなの振り回されても。」


 スーツがかなり頑丈で、直接の斬撃では有効なダメージを与えられないわね……。ボンベのコードを狙うわ。


「流石に酸素供給がなくなれば撤退……武器を取り回すだけあってそれなりに知性はあるようねっ!」


 ボレアスの方の斬撃は武装を集中して狙っているようで、巨大兵器は鎮圧したみたい。さっきからうるさい。そうやって制圧行動していると、残った3体ほどの巨人がこちらに対して武器を投げてきた。


「?」


 爆発でもするのかと思ったけど、どうやら降参ってことかしら。なんだかんだ、一つも命を奪わなかったわね。


「流石に接触回線は使えないし……。ノトス、帰っておいで。ボレアスとゼピュロスはそのまま。」


 一度ジャミングを消すことで、オープン回線を利用できるようにする。


「あんたたちが暴れてる生物ってやつ?答えによっては全員死ぬことになるから。不要な発言は謹んで。」


「……な、何者だあんた……。」


 ショットガンを地面に向けて放つ。


「こちらの質問に答えなさい。」


「ぐ……我々はその惑星に住んでいたものだ……。今では現住生物が暴走化していて、惑星に行くことすら困難になっている。」


「アタシを攻撃した理由は?」


「……元々、依頼した理由が物資の補給のため……初めから奪うつもりだったのだ……。それが、きたのは【マシンズ】一機だったから……。」


「あーなるほど、奪えはしなかったけど、脅しに使えると踏んだのね。最低ね、そりゃ住むところも奪われるわ。普通に助けを呼んだらよかったのに。」


 今回の件、それなりの報酬があったはずだ。あれならば別にそれなりの惑星の軍を動かすことも可能だろうに……ってまさか。


「依頼の報酬なんて、今の俺たちには払いようがないんだ……。」


「はぁ!?報酬がそもそもないのに依頼を出してるわけ?この近辺のスペースギルドはどうなってるのよ。……はー騙されたってわけね。ガーラン殴ろ。」


流石にこれ以上ここにいても仕方ない、無駄足だったわねぇ。ボレアス、ゼピュロスを回収し、飛び立とうとした時。


「ま、待ってくれ!あんた相当腕が立つ!星を取り戻すの協力して欲しいんだ!」


「そ、そうだ!頼むよ!」


 呆れてため息が出る。


「……アホなのアンタら。無警告で殺そうとしてきた相手に協力するわけないでしょ。」


 それでも彼らは必死でこちらに訴えかける。戦闘前なら呑んでたかも。


「惑星さえ取り戻せれば、かなりの資源が手に入るはずなんだ!俺たちは住む場所さえ取り戻せればいい!」


「……はぁ。じゃあそうやってスペースギルドに頼みなさいよ。」


「頼む……生まれたばかりの子供がいるんだ。」


 地面に伏す巨人。流石にちょっと哀れにも感じるけどいくらなんでもここから協力します、とはならないわよ。


「詐欺師の泣き落としほど聞いてて無様なものはないわね。……?……通信?【コノフォーロ】から?」


 なにかしら、嫌な予感しかしないけど。


「はい、【アイオロス】。」


「ネモか、ガーランだ。惑星にはついた頃だろうが、実はその惑星では【アブゾーヴ】の発見報告があるようなんだ。俺たちもこれから向かうから、事前調査を頼みたい。」


「えぇ……。」


 目の前には項垂れる巨人たちに、画面に映る真剣な顔するハゲ。

 嫌な予感が的中じゃないのよ、もう。


 

 

 

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