風は若芽を呼び起こし

 みんな久しぶり、アタシよ、ネモよ。礫が来てから数日たったわけだけど、アタシには特に影響なかったわ。お手合わせしたいなあと思ってたんだけど、ひとまずはヴィルと訓練してるらしいのね。あいつ、意外と教えるのうまいし、もっと強くなってくるかも!

 とある日の朝、アタシはいつも通り義手のメンテと髪の手入れを終え、そのまま訓練室に向かうところだったんだけど艦内放送でガーランに呼び出されたってワケ。


 「さて、呼び出された理由はわかってるな?」


 座ったまま威厳を出しているガーラン。別にそれはあんまり気にしないし、そんなもの知らないわよと一蹴してしまいたかったけど、ガーランはこちらを見て微動だにしない。理由はわからないけど、怒らせてしまったのかしら。


 「……全然わからないわ。」


 実際、心当たりはいくつかある。大きいので言えば食べ過ぎ、とかだろうか。いまだに困窮状態は続いてはいるわけなので節制は大事といわれているけど、ほかにもシミュレーション室独占してることとか(とはいえヴィルのやつは礫ちゃんと体力方面の訓練してるんだから、仕方ないじゃん。)もしくはあれかな、シエラに【ブルー】より【アイオロス】の改造を急がせてる件かも。


 「言いたいことはたくさんあるんだが、お前、仕事しとらんな?」

 

 「しごと?」


 仕事とは、働いて対価を得ることだ。ここでのアタシの仕事は【マシンズ】で戦うことではないか?


 「あのなあ、お前は前からいたからわかっていると思っていたがな、【コノフォーロ】はかなり大きな宇宙船なんだ。人が増えたからと言ってサボっていいわけじゃないんだぞ。」


 「ちょ、ちょっとまってよ、人が少ないのはわかってるけど、サボってるのアタシだけなわけ?」


 「俺が認知してる中ではな。」


 そんな馬鹿な!したいことだけやっていたのはアタシだけではなかったのか!だ、だってほらなんか部下みたいなやつが増えたから、そういう感じなのかなあって!


 「わ、わかったわよ!すぐ働くわ!前みたいに【マシンズ】で整備とかの作業手伝ったらいいのよね!」


 「いや、それはもう間に合ってる。」


 ガーランは書類を数枚まとめ、こちらに渡してくる。なによこれ、辺境の星じゃない。大量の巨大生物が人の生息地を脅かしてる、ふむ……いや、まさか。


 「ちょっと。」


 「シエラの報告で知っているんだが、【アイオロス】の改造がすでに終わっているんだ、誰かさんが急かしていたそうだ。おかげでほかの【マシンズ】の作業が遅れてしまっているが。……そのシエラも徹夜で作業してたらしくて今寝ているが。」


 「へにゃ!?」


 その話を聞いて頭をよぎったのは、まずはシエラの体調を心配する心。ああ、よかった、アタシはまだ正常だ。その次は【アイオロス】の改造が終わったという朗報。なんということだ、さすがはアタシの愛する妹だ。いったいどのようになったのだろうか、気になる。せかしてごめんね。そして、最後はガーランがそれを知っていたこと。やられた、いや確かにシエラにはガーランに話は通してあるって言ったかもしれない。これはもしや自滅かもしれない。結果、完成したからいっかあ。うんうん。そうよね。


 「よくないって話をしているんだぞ、聞いているか、ネモ。」


 どうやら、何を考えていたのかよくわかるような顔をしていたようだ。


 「ま、まあ【アイオロス】が新調されたのなら、巨大生物の相手とやらも楽しみってもんよ!ね!」


 「……行くのならいいが。今回は一人での作戦行動になるから、最大限注意するんだぞ。」


 「え!?ヴィルは!?礫ちゃんとかも、く、訓練だったりとかさあ!」


 「ヴィルの判断だ。」


 詳しく話を聞くと、ヴィルのやつが一度手合わせを行って、礫ちゃんにはセンスはあるが【マシンズ】を扱ううえでの体力が足りていないということになったらしく、今は健康的に食べて動いてを訓練としているそうなのだ。


 「……アタシもそっちがいいなあ。」


 「サボった罰だ。近辺の別の星に寄港しておくから、なにかあれば緊急信号を出してくれ。【ブルー】は出れるように整備を頼んでおく。」


 「シエラに無理はさせないでね。あの子、ほっといたら倒れるまで【マシンズ】触ってるんだから。」


 そう言い残し、ガーランの部屋を出る。シエラのもとへ向かいたいところだが、寝ているのを邪魔するのもよくないだろうし、仕方ないので格納庫へ向かう。【アイオロス】のもとへ向かうと、輝く緑の装甲が見えてきた。今までの金色の関節や装甲はそのままに、細部の金色が増えており、機動性がかなり改善されているのだろうと見て取れる。頭部の形状も変わっておりかなりスマートな印象を受ける、もしやスライス・ペタルの駆動数は増えたのだろうか。背部の装備はあからさまに機械的な翼と巨大なブースターがついており、その翼の各部にスライス・ペタルが搭載されているのだろう。本機唯一の武装だったショットガンはそのままに、グリップの部分に飛び出す刃が収納されている。かっこよくて好きだわ。


 「さすがはアタシのシエラ!さすがはアタシの【アイオロス】!」


 ああ、テンションが上がる。すぐにでも乗り込みたい。すぐにでも目的地に行って暴れてやりたい。シミュレーションくらいはやりたいけどシエラがいないんではデータが入っていないだろう。


 「とりあえず乗り込んでみよう!」


 思い立ったが吉日、吉時、吉タイミング。早速行動する。

 格納庫内は無重力であるので、ささっとコックピットへ取り付き、内部へ。シートに腰かけ、起動スイッチを入れていく。そのまま義手も差し込む。


 「なるほど、操作系にはまったく手を入れてないのね。覚えなおす必要がないから助かるわ……。」


 宙に浮かぶモニタには各武装の名前が。


 「スライス・ペタルはクロス・ペタルに変わってるのかあ。礫ちゃんの【マシンズ】から発想を得たのかしら。シュリケン……みたいなやつあったわよね確か。」


 シエラは【マシンズ】が好きだから、新しい機体を隅々まで調べたのね。ショットガンの刃は【ブルー】のブレードをリスペクトしたのかしらね。

 そうやって各武装の使用方法を確認していったところで、外部カメラにふらふらと漂ってくるシエラが映っていた。無理して出てきちゃったのね、すぐに飛び出して近くへ向かいすぐに支える。


 「あ、姉さん……どうだった?」


 無理させちゃったのはアタシのほうだったか、本当にいい子なんだから。

 

 「ふふっ、安心なさい。この機体なら負ける気がしないわ。しっかり稼いでほかの機体の素材も調達できるようにするから、あんたはちゃんと備えて休んでおくのよ。」


 シエラは安心したのかゆっくりと寝てしまったわ。心配して追いかけてきてたグレイグにシエラを頼んで再度【アイオロス】に乗り込む。超高速起動が可能になった後部ブースターのおかげで目的地までひとっとび!


 「さあて、行くわよ【アイオロス】……いや、【アイオロス・アネモイ】!」


 一人旅は初めてだけど一人のお仕事は初めてだなー。


 

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