手探りの橙


「おぉ来たかお前ら、なんとか調理は終えれたぜ。」


俺とネモ、シエラはある程度の整備を終え、残りをグランさんたちに任せ、食事をすることにした。もう完全にキッチン背景が板についてきたグレイグが、普段はあまり感情を出さない顔を輝かせこちらに声をかける。

グレイグがそんな反応をするってことは。


「味は期待できそうね!」


ネモが目を輝かせる。

相当お腹すいてたな?


「おお、強力な生物だし、あの水域帯での食物には毒性もないみたいでな。生でもいけそうだ。」


あんな淡水の魚類を生食か。

それは大丈夫なのかほんとに。


「まぁ流石に火は通すが……それにしても、だ。」


グレイグが、顔を近づけてくる。


「あの【マシンズ】……何者なんだ?」


気になるよな、わかるよ。


「俺たちもよくわかってないというのが実状だ。食糧を分けて欲しいから協力させてくれということだったから招待して、いまはガーランが対応してる。」


あの【マシンズ】、オレンジ色にペイントされていたが、スマートな機体に輝く装甲、そして軽武装。かなり【 グレイ・ナイト】に酷似はしていた。……しかし、リビルド機体によくあるパーツごとの違和感が全くなく、おそらくワンオフ機……。


「あの機体……多分なんだけど【グレイ・ナイト】同様の技術が使われてるわね。同じ惑星の機体の可能性が高いわ。」


さすがの【マシンズ】オタク。


「俺もそう思ってたところだ。」


「ねぇ、いいから食べましょ?アタシもう限界よ。」


シエラと二人で考え込んでしまうと、二人ともパワーで引っ張られてしまう。さすがの腕力。

そうこうしつつ、とりあえず席につき食事を食べる。

料理としての名前はわからないが、とりあえず衣を付けてあげましたと言ったところか。


「美味しい!美味しいわ!」


確かに美味い。それに身がずっしりしてるのでかなり腹持ちが良い。

今の俺たちには嬉しい食材だ。


「これなら当分持ちそうか?」


「楽観視もできないけど、またどこかの惑星に辿り着くまでは余裕そうね。」


それならありがたい。危険を冒して巨大な原生物に挑む必要は無くなったってこった。


「まぁ、あっちの姫さんとネモが食い過ぎなけりゃって話ではあるか。」


食事を終え、休憩がわりに三人で談笑していると、食堂にガーランとルリィ、そしてローブに身を包んだ子供が入ってきた。


「おお、ちょうどいたな。聞いてくれるか。」


「嫌だ。」「嫌ね。」「嫌ですね。」


まず間違いなく面倒ごとだ。三人ともそれがわかっているからこそ、必ず断る。とは言え無駄なのだが。


「いつも助かるよ。お願いしたいことがあってな。」


そう言いつつ、ローブの子供を前に出す。

ローブのフード部分で顔を隠したまま、おどおどと話し始める。


「……あ、あの、【シーク・ナイト】のパイロットして……ます……。こ、この度は……ありがとうございます……いいとこだけとったみたいで……。」


「君がいなかったら失敗していたかもしれないと何度も言ったのだがな……。遠慮がちだったのでまぁどうせなら巻き込んでしまおうかと。」


ガーランは結構悪いやつだ。

目的を果たすために真顔で悪いことをできるやつ……それが悪いとは言わないが。


「彼女も一人きりで星から逃げてきたそうだ。なぁ、ヴィル、お前とおんなじだ?」


「そうだとして仲間意識持たせようとするな。……彼女?」


おや、少年かと思ったら少女だったか。

女性で【マシンズ】を使うってのは珍しいんだがな。


「あぁ、隠してたそうだが、まだ小さなレディだよ。」


惑星では上位の人間たちが唯一守った人間と見るか、俺のように戦える人間がたまたま残ったと見るかと言われれば、前者だろう。戦力としてはそこまで期待できない……こともないか、【マシンズ】が使えるだけで重要だ。


「尚更俺だとまずいだろ。」


女の子なら女性に任せた方がいいだろう。


「まだ子供だぞ。」


一人で旅してたんならある程度はしっかりしてるだろ。


「本人が嫌だろって。」


「あ、私は大丈夫……です!置いてもらえるだけでも……ありがたい……です!」


頑張って丁寧な言葉を使ってる子供を見ると優しい気持ちになれるな……じゃなくて。


「部屋くらい余ってんだろって。」


「そりゃあな。……寝る場所の話じゃなくて、仕事的な話だ。【マシンズ】乗りには【マシンズ】乗りの方が話がしやすいだろう。今後ともな。」


なるほどな。まぁそういうことなら……。

こちらの負担とか考えるのは野暮というやつか。

……ネモには子分たちを任せてるわけだしな。


「……あぁ……わかったよ。……俺はヴィル。……名前は?」


彼女は深く被ったフードをそろりと外しながら、こちらを向く。身長はネモよりも低く、落ち着いた茶色の髪をふわりと伸ばしていて、お嬢様の様相を感じる。

くりりとした目はハイライトを感じない、疲れた目をしていた。

……一人で逃げてきた、それに唯一守られたのなら精神的にもかなり辛かっただろう。


「……礫(つぶて)……です。」


「じゃあとりあえず俺には遠慮せず喋っていいよ。面倒だろ。礼儀とか苦手でな。」


まぁ、そういうことは割と叩き込まれた方だが、今はあまり関係ないしな。それに、まだ子供だ。


「……あ……はい……。」


世話をするというわけではないが、気にはかけてやろう。

彼女も彼女なりの理由があって戦うのだろうしな。


「は、アンタお兄さんみたいね。」


「姉経験者には色々聞かせてもらおうかな。……そろそろ食べ終われよ。」


他のメンバーが食事を終えているのに、ここ最近随分と満足に食べきれてなかったからか、しっかり満腹まで食べようとしてるネモ。いいから、皮肉とか言う前にそろそろ食器片づけなさい。


「私も色々聞きたいことあるわ。特に……【マシンズ】……【シーク・ナイト】ちゃんですって?」


さすが聞き漏らさないな、シエラ。

俺もちょっと気になってる。


「あ、はい……いい……えっと、なら今から……。」


「いいわね!なら行きましょ!」


礫の肩をがっしりと掴むシエラ。

興奮すると姉によく似てるなぁ……はは。


「アタシは部屋で寝るわ……模擬戦とかするなら呼んでね?」


「全くお前は……。ガーラン、こいつは何も手伝わなくていいのかよ。」


「ネモやルリィに書類整理が任せられると思っているのか。」


「言い返せないこと言うなぁ。」


「本人の目の前で話すってことは殴られたいわけね?」


しっかり二人ともネモから叩かれはしたが、間違ったこと言ってないしな。

……ん?俺は巻き込まれただけでは?



-------------


「さて。」


白衣を翻し、【シーク・ナイト】の前に立つはシエラ。

その横に俺と礫。


「出来ること、色々教えてほしいわね!」


携帯端末をさっと構えて礫を見つめるシエラ。


「あ……【シーク・ナイト】は、えっと【グレイ・ナイト】の発展系で、一撃必殺を求めた【グレイ・ナイト】よりも継戦能力を重視した特殊な武装を各パーツに搭載してるっす。」


礫は小さな端末をローブのポケットから取り出し、空間に画面を映し出す。


「あの時使ったのは電磁ネット……。何度も使いまわせるのでメインで使ってるっす。いまはまともに補給もできなかったので……。移動に使ってた輸送機にも装備がある程度はあるんすけど、緊急で……逃げてきたので……何も積めなくて……。」


話しててテンションが上がっていたのか、素の礫がでていたが、内容が星のことになるにつれだんだんとクールダウンしていく。


「……そうね。ごめんね、ありがとう、話してくれて。」


「……いや……、大丈夫っす。」


逃げてからも辛いことがたくさんあったろう。

このままここでなんとか、楽しいことも経験できるといいんだが。

……とはいえ、【アブゾーヴ】。

アレの対処をしないことには、俺たち人類には平和は来ないのだろう。

また気合を入れていかなければ。

泣かないよう唇を噛んでいる礫を見つめて、俺はそんなことを思ったのだった。

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