集めようとも届かぬ翠色
さて、会議も解散し、各自準備を始める。
俺とネモはエクスとその部下たちを格納庫へ集め、訓練を始めることを伝える。
「……ってことで、全員が戦闘に参加できるわけじゃないが、及第点までにはあげておこうなってことだ。」
「俺がお前に負けたのは性能差だ。同様の機体なら負けることはない。」
「そういうところが負けを招いたんじゃないのか?」
「……ちっ。」
エクスの近接能力は目を見張るものがある。
実際問題、あの時の【ブルー】の装備は対【マシンズ】の威力を超えていた。
だからといって近接戦闘がほぼ不可能と言って良い装備で無傷で勝ったのだから、俺の方が上なのは明白だろう。
……こういうのもよくないか。
「シミュレーションあるんだから、やりあえば良いじゃない。」
ネモが簡単に言ってくれるが、そんなことしてる時間はないってことは分かってないのか?
「あのなぁ、みんなバタバタ急いでるってのに。」
呆れながらもネモに反論しようとすると、エクスが先に立ち上がり背を向ける。
「……とにかく、俺にはお前たちの訓練とやらは必要ない。【ガホーク】の修理に集中させてもらう。」
そのまま去っていくエクス。
エクスの部下たちはそれをすこし心配そうに見るが、ついていくようなことはしなさそうだ。
ネモパワーが効いているな。
「……まぁ、俺とネモとのコンビネーションもできてないからな。」
状況対応力に優れる【ブルー】、相手を寄せ付けない【アイオロス】、両方とも単独で戦うコンセプトの機体だ。
協力して戦わなくとも戦闘力は高いが、前衛後衛をうまく分けることができれば非常に強力なタッグとなる。
「……ちょうど良いわ。シミュレーションでやりましょう。」
ニヤリと笑うネモ。
何か面倒なことを思いついたのか。
「そしたら、こいつらはどうすんだよ。」
エクスの部下たちを指して聞いてみるが、さらにニヤニヤしながら俺を蹴る。
「いいから、移動するわよ!アンタたちも、ついてきなさい!」
ネモの先導で言われるがままシミュレーション室へ移動する俺たち。
ネモが入り口で操作すると、中にある椅子が2対10くらいの並びになっている。
「おいおい、もしかしてそう言うことか?」
「むふー、そういうことよっ!」
すごく楽しそうな笑顔をしながら、2個側の椅子にどかりと座る。
「あ、姐さん……俺たちとお二人で闘うってことすか……?」
「いくらなんでも戦力差が……。」
流石に……というような反応を示す部下たち。
まぁ、全員にまともな機体があれば、流石に俺たちに勝ち目はないと判断されるか。
「んなこた、わかってんのよ。これからの戦いはどうせ戦力差がある状態での戦いが多いんだから、やれるだけやっといた方がいいでしょ。……それに、あんたら程度なら別に負けやしないわよ。勝てるまでかかってきなさい。」
不敵な笑みを崩さないまま、彼らを見つめるネモ。
煽られたわけだが、それでも動揺は隠せない部下たち。
……なるほどな、これはネモが正しい。
「よし、わかった。軽く揉んでやろう。……シミュレーションには様々な【マシンズ】が入ってるはずだから機体は好きに選べ。……まぁ、専用機は選べないし、お前らの機体みたいにいろんな武装を組み合わせることはできないが。」
わざと偉そうに上から話す。
海賊行為なんてやってた連中だ、これくらい煽られたらやる気になってくれるだろう。
ネモの煽りでは反応はなかったが、俺の言葉には随分憤慨してくれたようだ。
……あれ、俺嫌われてんな……?
というか、ちょっとまて、こいつら10人もいたのか?
俺が相手した2人とエクスを除いても残りは8人もいるぞ?
いくら急拵えの改造機体とはいえ、全部捌いて無傷だったんすかネモさん。
「あにみてんのよ。」
おっと、睨まれてしまった。
誤魔化すように、隣に座る。
「今回はコンビネーションだからな。バックパックはノーマルで行く。」
「そうやって色々切り替えれるの羨ましいわね。」
「状況対応力が自慢だからな。……お前の妹の魔改造のおかげでもある。」
「あの子は天才だからね!」
自慢げな姉の顔を無視しつつ、準備を進める。
部下たちも相談を終えて席について機体を選び出しているからな。
「アンタから振っておいて、無視すんのやめなさいよ。」
左手で突かれる。
いや、せめて右で頼む。痛すぎる。
「義手はやめろぉ。」
「アンタにはこっちの方がいいでしょ。」
「俺をなんだと思ってやがる。」
ネモの手を押し除け、画面を見つめる。
シミュレーションは古いタイプだが、練習には丁度いい。
……こう言うこと言ってると、シエラがなんかしそうではあるな。
「なんかダイブタイプ考えてるって言ってたわよ。」
「ダイブ?」
「なんか脳波で、精神だけシミュレーション内に入り込むんだって。脳波を利用するのは【スライス・ペタル】の応用らしいから、教えてくれたの。」
なるほど、それは臨場感も凄そうだ。
……入り込むって大丈夫なのか?
まぁ、その辺りの技術は俺はよくわからんし、シエラなら危ない真似は……まぁさせないだろうし。
ん?でもあれか?
【スライス・ペタル】の応用ってことは、【アイオロス】は脳波を使っていたのか?
あ、だから【スライス・ペタル】の数を限定していたのか、負担を減らすために。
「お前結構無茶してんだな。」
「アンタも大概よ。」
2人して顔を見合わせる。
なんだその顔。
「何よその顔。」
お互いにニヤッと笑いながら、画面に集中する。
さて、始めますか。
【ブルー】はノーマルパックを装備して、シミュレーションスタート。
戦闘場所としてはネモとやり合った時と同じデブリが大量に浮いている宇宙空間を選択することにした。
「まずは相手のレベルを測りたい。」
というのも、あいつらの実力も知らない上、奴らは複数の量産機から【マシンズ】を選択してきている。本来ならありえない戦法を取ることも可能なのだ。
「よし、ひとまず俺が作戦を指示する形でいいか?」
ネモは数秒悩み、答えを返してくる。
「どうするつもり?」
「まずは、スライス・ペタルを飛ばしてくれるか?敵側の方向に、こっちの位置がバレないよう角度を変えながらで頼む。」
「ふぅん?……まぁいいけど。……行きなさい、スライス・ペタル!」
いつもはテンションあがっちゃってるのかと思ってたが、脳波でコントロールなら声出した方がやりやすいのかね。
スライス・ペタルはジグザグと稲妻形に切り込んでゆく。
単体でのスピードはかなりものだ。なんたって人体への影響を考える必要がない。
「ていうか、ほんとにどうする気よ。いくらあの下手くそたちだって、ステルスもしてないスライス・ペタルのカメラに映り込むなんてことするわけないじゃない。アタシが疲れるだけだわ。」
ネモからため息が漏れるが、これは釣りだ。
もう少しだけ我慢していれば……。
「……っ!?……ちょっと、スライス・ペタルが撃ち落とされたわ!」
「ビンゴだ。……奴らの中に【オール】がいる。」
「【オール】?」
「以前大型のセンサーを【ブルー】に載せてたことあったろう?あの元機体だよ。【オール】は巨大なセンサーと超大型の狙撃銃を備える俺が知ってる限り最強格の遠距離機体だ。奴らのサーチ範囲で動くものは狙撃される。」
俺は一応専門の学校出てるからな。
【マシンズ】についての知識はそれなりにある。
当然、【ブルー】に搭載されていたデータも入れられているため、このシミュレーターに入ってる機体は全て知っている。
「うええ……面倒な機体ね……。」
苦虫を噛み潰したような顔をしながら、まさにそのままの言葉を口にするネモ。
「最低一機はいれてくるとは思っていたが、あの段階で打ち落とせたのなら複数機いる可能性あるな。」
この辺はデブリ……いわゆる宇宙ゴミとか言われる隕石の破片や、コロニーから排出されたゴミが大量に浮いている設定となっている。
【オール】のセンサーで捉えたとしても、射線が通ってなければ狙撃はできない。
「複数機で見張られてるんなら、下手に動かない方がいいだろう。【オール】の狙撃銃はそれしか武装がない分、連射も効くし威力も高い。【ブルー】にも【アイオロス】にも、あれに有利に働く武装はない。」
「スライス・ペタルのカメラじゃあ避けらんないし……有視界での戦闘に限っちゃうわね。」
「あぁ、それに……他の機体との交戦を始めてしまえばこちらはいい的だ。早めに潰しておきたい。」
「でも場所もわかんないんでしょ。」
「そうでもないさ。」
この辺を漂うのは大小差異があるデブリだ。
となると、アンブッシュ、いわゆる待ち伏せができる場所は限られる。そこを決め打ちで動こう。
「その前に他の機体に出会ったら?」
「逃げる。」
【オール】の狙撃は直撃したらその時点で動けないどころか撃破の可能性、それくらいの威力はある。
それに他にも特異なポテンシャルがある機体が存在する。
そういうのに知識もなく出会えば撃破は免れない。
一度退くのも作戦だ。
「はーっ……まぁいいわ。そのかわり圧倒的に勝つわよ。」
「へいへい。」
アンブッシュ可能想定箇所を選定し、ネモに送る。
あくまで想定だ。慎重に行くべきだろうが……。
「一箇所、とりあえず俺が突っ込む。【ブルー】の突撃スピードなら、狙撃不可能のはずだ。もしそこにいたら、暴れて他の機体を釣ってくれ。」
「いなかったら?」
「俺を狙って狙撃が来るだろうから、位置を探ってくれ。」
「なるほどね。……じゃ、頑張って生き残って。」
「あいよ。」
言ってすぐ、【ブルー】を加速させる。
【オール】以外からならロックされればAIが通知してくれる。
そうすればむしろ助かる。
『お任せください。』
「おう、よろしく。」
ひとまずなんの反応もなく、到着。
しかし、悲しいかな、見つからない。
そして飛んでくる複数回の狙撃と、鳴り響くアラート。
【マシンズ】の性能に頼ったピンポイントで正確な射撃だ。くるとわかっていれば、何発こようと避けられないことはない。
「ネモ、見つけた?」
「想定位置、CとEね。」
「了解。Cが近い、Eに牽制でスライス・ペタルを頼んでいいか?」
狙撃の悪い点は直線でしか撃てないところだ。
二発見れば位置が特定できる。
【オール】連射が効く分、実力がないものが使うと足がつきやすい。
『Cへの直線上に3機の適正個体を確認。』
「敵機を盾にしつつ、直線で向かう。」
相手が【アブゾーヴ】ならば使わない戦法だが、奴らは仲間意識が強い。
それに3機もいるならば【ダーチョス】が選択されているだろう。
あの機体はでかく、装甲は並の攻撃が通用しない。
「スライス・ペタル、3機展開したわ。向かわせるわね。」
「了解。」
また【ブルー】を加速させる。みるみるうちに現れる3機の機体。
【ダーチョス】に【ハミード】が2機。組み合わせもあんまり考えなかったのか。
「【ダーチョス】に突っ込んでそのまま押すぞ。」
【ダーチョス】は巨大な機体であり、大量の射撃武装が搭載されている。当然近接でも射撃可能なものも存在するが、肉薄してしまえば話は変わってくる。
「なんだ、こいつ……くそ、反応が遅れた!武装が使用できない!」
「おうおう、接触回線が通じまったなぁ!そのまま盾になってもらうぜ!」
装甲をオープンさせて発射するタイプは当然使えないし、爆発する武装もこの距離では自滅に繋がる。
本来なら周辺機体が対応できるようにしてるんだが、【ハミード】では無理だ。
【ハミード】には近接用のビームスピアか、小型のバルカンしかない。
いくら大型機を押しているとはいえ【ブルー】の出力には追いつけぬだろう。
「くっ……狙撃機体に向かってるぞ!逃げろ!」
「つまり正解ってことだな。教えてくれてサンキュー!」
当然だが、測定位置はほぼ間違いないとはいえ想定に過ぎなかった。
これで確定だ。情報をありがとう。
「こんな勢いの作戦で……!」
「お宅と違って、うちの姫さんはじっとしてるのが苦手でね……ネモ!暴れていいぞ!」
まもなくたどり着く。
腕部ブレードで【ダーチョス】のコクピットのみ貫き、そのまま大型のデブリにぶつかってやる。
「いたな!」
その背後で吹き飛ばされる【オール】を見つけ、接近して撃破。
寄ってしまえばなんのこともない。もう一機はE地点だったか。
「【オール】撃破だ。ついでに【ダーチョス】もな。」
「こっちも【オール】撃破したわよ。」
おお、それは随分と仕事が早い。
抵抗はなかったのだろうか?
「仕事が早いな?」
「アンタを狙ってたからスライス・ペタルで簡単に行けたわ。」
あのアホども……レーダーを常に見る癖をつけさせる必要があるな……。
「了解。【ハミード】が2機こちらにきているし、ひとまずそちらに合流する。敵機警戒を怠るな。」
「アンタも油断しないでよね。」
これで3機……。残りの7機でどう攻めてくるかな?
「残りの機体は大体わかってるの?」
ひとまずネモと合流し、体勢を整える。
そうしてる間に攻撃が来ることはなかった。
「だいたいは、な。」
と、いうのも、登録されている機体はある程度把握済みであるし、その中に興味深い機体を見つけていたからだ。
「【グレイ・ナイト】は間違いなくあるだろう。警戒しなきゃならん。」
「【グレイ・ナイト】?」
【グレイ・ナイト】は偵察を極めた【マシンズ】だ。
周りの景色と同化するステルス用の装甲と、音の鳴らないエンジンで敵機に気付かれずに近づき、ナイフ等で急所を攻撃する。
「……普通ならそのままコクピットを狙われて終わりだ。」
「なるほど、それは危険ね……。」
「だが、【ブルー】には熱感知センサーがある。大まかにいる場所さえわかれば、勝てない相手じゃない。」
「アタシは相手にしたくないわねえ。……あとは?」
二人の機体がアラートを鳴らす。
おそらく、残った機体で特攻を仕掛け、その機に乗じて【グレイ・ナイト】で取ろうとしているのだろう。
【アイオロス】がデブリの陰に隠れながら後方へ離れていく。
「……多分だが、奴らが選ぶなら……【ガホーク】。」
言うや否や、四機の【ガホーク】と二機と【ハミード】が現れる。
「言った通りになったわね。」
「一番信頼できる機体だろうからな。それに、【マシンズ】同士の戦闘はさんざ習ったから、対人での挙動は大抵読めるのさ。」
突撃してくる【ガホーク】を捌きながら、昔の授業を思い出す。真っ直ぐ拳を繰り出してくる格闘技など、【ブルー】にとってはものの数ではない。
「アタシはこのままひいて大丈夫?」
戦術に関してはまだ一日の長がある俺に乗っかってくれるのは、非常にありがたい。
まぁ多分一人で大暴れしても何とかなりそうなんだけどな、ネモは。
「あぁ、遠距離からのサポート頼む。」
自分の位置が知られずに攻撃できるのは、スライス・ペタルの圧倒的アドバンテージだ。
「アンタごとやってやるわよ。」
「それは勘弁。」
敵機との戦闘中に死角から飛んでくるスライス・ペタルなんて、それは死刑宣告だろう。
軽口を叩く余裕をお互いに感じながら、俺は周囲を警戒しつつ【ガホーク】を撃破していく。
【ガホーク】はそもそも近接格闘しか戦闘方法がないピーキーな機体だ。
慣れが必要な上、本人の格闘技術が直接戦闘力に反映される。そんなのを見てたからと言う理由でまともに乗りこなせるわけがない。
「もっとシンプルな機体に乗るべきだったな。」
【ハミード】のランスを誘導し、【ガホーク】に突き刺す。
それで慌ててる奴らを打尽。
【ハミード】に関しても、警戒すべきは大型ランスだけだ。それに俺から距離を取ろうとするとネモのスライス・ペタルの餌食になる。
こいつらの腕程度なら余裕だな。
【ガホーク】最後の一機をサラリと片づける。
「よし、片付いた。ネモ、そっちは大丈夫か?」
「んぇ!?……あーうん。そうね。終わった……終わったわよ?」
なんか歯気味の悪い返事だ。お前は隠れていただけだろ。
終わったとはどう言うことだ?
「それがさぁ……そんな気はなかったんだけどね。」
と、話すと一枚の写真が送られてくる。
どうやら、【アイオロス】のメインカメラのようだが。
「これは……。」
「当てちゃった。」
半壊した【グレイ・ナイト】が、そこには写っている。
ステルス機能を失った偵察機など戦力にならない。
「……いや、そっちに飛ばそうとしただけなの……。そしたらどうやらこっちに近づいてきてたみたいで……。」
「いや……いい、お前のせいじゃない。」
全くこいつらは。
これは長めの説教が必要だな。
あと、今回合わせて戦ってくれたネモには、なにか奢ってやろう。
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