赤い瞳に映る風

【マシンズ】が動かせないし、お互いの武装が壊し合う前提だから模擬戦は難しいとシエラに伝えると、ならば仕方ない私がなんとかしようとばかりに【ブルー】と【アイオロス】からAIを引っ張り出し、それをシミュレーションマシンに入れ少しカタカタとキーボードを叩くと、どうやら機体データが入力されたらしい。


「そんな簡単に入れれるもんなのか、ほぼデータのない機体なんだぞ。」


「武装と機動力のデータさえ入ればあとはパイロットの能力だし。私には朝飯前ね〜。」


才能爆発だな。

いや、頼りにしてるよ、ほんと。

ところでそのお相手さんはどこいったのよ。


「お姉ちゃんはなんか叫びながらご飯食べに行ったわよ。絶対に勝つとかなんとか……すっごい気合い入ってるみたい。貴方なんか言った?」


【アイオロス】は【ブルー】には勝てないって言ったが、それが原因だろうな。


「なるほど、知ってると思うけど、お姉ちゃんいじっぱりで負けず嫌いだからね。スライス・ペタルの数ちゃんとロックかけとこ。貴方はどのパックにするの?」


「大剣でいい。」


「はいはい、アズライトブレードね。」


あの剣、そんな名前だったのか。


「そういえば、そのアズライトブレードのレーザー刃部分なんだけど、どうやら現状発動中はエネルギーが流れ続けちゃうみたいなのね。【ブルー】ちゃんの起動限界が基本パックに比べて短くなっちゃうかも。」


「ビーム刃を局所的に使えばとりあえずは問題ないってことだな。」


「まぁそうなんだけど、【マシンズ】研究者のプライド的に嫌だなぁとね。また考えとくわ。」


手をひらひらさせながら、部屋を出て行こうとするシエラ。


「見ていかないのか?」


「寝てないのよ〜。」


振り返ることもなく出て行く。

俺はベンチに腰掛け、ネモを待つことにする。


「ふぅ。」


ボトルから水を飲む。

シミュレーターによる模擬戦自体は何度もやっている。

しかし、今回はワンオフ機同士での対戦だ。何があるかわかったもんじゃない。

油断は禁物、万全を期さないとな。


「さて、あいつがくるまで寝ようかね。」


昼食の時間ではあるが、朝が遅くなったりすると昼はよく抜く。

睡眠の方が優先だ。

ベンチに寝転がり、目を瞑ろうとしたその瞬間に扉が開く。タイミングが悪すぎる。


「やるわよ!ヴィル!」


飯食うの早すぎる。


「……ゆっくりさせてくれないか。」


「アタシ、もうやりたいのよ。」


聞いてないの笑うわ。

自己中にもほどがあるぞ。


「ギャラリーが集まる前にやりたいじゃない。アンタ、負けて泣いてるところ、見られたくないでしょ?」


なぜ俺が負けることになってるのか。

悪いが負けてやる気はない。


「さっきも言ったはずだ。相性はこっちのが良いってな。」


「あら?相性が悪いからって実戦で逃げ出したりするのかしら。随分と仲間想いなのね。」


数日前の俺ならイラッときていたかもしれないが、残念。それくらいでは動じんぞ。


「女神さんとやらのお力ってやつですぅ?女性に頼らないと何にもできないのね。」


あっ、腹立つ。よし、コイツコテンパンにしてやる。

お互いがシミュレーターに座る。


「じゃあ始めるわよ。」


「お前が仕切るな。」


「あら、じゃあアナタのタイミングでもよろしくてよ。」


「なんだそれ。すぐに意見変えるなんて、妹の影に隠れてたやつは随分と自分がないんだな。」


「!?、アンタなんでそれ知ってんのよ!」


「シエラに聞いた。」


「ーーーっ!!……始めるわよ……。」


顔を真っ赤にして黙ってしまった。よし、勝った。


「子供の喧嘩だな。」


グレイグ先生、参戦かい?

三台目四台目があるぞ。座るかい、今の聴いてただろうネモがそっちを熱烈な視線で見てるから、二対一になるだろうけどな。


「観戦だけにさせてくれ。」


嫌そうな顔をしながら、ベンチに座るグレイグ。そのまま、水のボトルを飲む。

おい、それ俺のだぞ。


「……じゃ、いいか。エネルギー切れか重大な損傷、もしくはコックピットにダメージを負った時点で負けな。」


「わかってるわよ。設定は?」


「目視可能地点からの戦闘開始、それでいいか?」


「都合よい距離にしてない?」


こちらも睨みつけるネモ。

まぁ、そうなるよなぁ。


「模擬戦では基本さ。」


そういうものなのよ。怒んないで。


「どうせ、そっちに寄せて離れるよって言ってもキレるだろうに。」


メニューを開く。

おお、ちゃんと【ブルー】入ってんな。


「よぉし、ならやるか。」


準備を終える。

フルダイブ型だ、周りの全天モニターが宇宙に変わる。

細部は違うが、見慣れた【ブルー】のコックピットだ。仮想格納庫から出撃し、高速で飛ばしてゆく。


『システムオールグリーン、おはようございます、パイロットヴィル。30秒後に目視可能距離に到達します。ご準備を。』


「了解……。さて、どうやってくるかな。」


そうしていると、【アイオロス】が見えてくる前にアラートが鳴り響く。


「!?どうした【ブルー】!?」


『周囲を取り囲む物体を確認。』


やってくれたな、おてんば娘!


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なんかよくわからなかったけど、カメラで見えたら攻撃して良いってことよね?

慌ててる様子の【ブルー】を見てるとちょっと気分がいい。

でも、慌ててるってことは間違ったのかしら?

まぁいいわ、間違ってんなら後で謝ればいいわ。


「行きなさい!アタシの花弁たちよ!あの調子乗りのお馬鹿さんに痛い目見せてやるのよ!」


スライス・ペタルが背部のパックから3機飛んでいく。

あれ、もっと飛ばしたつもりなのに……あ、まさか。


「ちょっと!ロックかけたでしょ、シエラ!」


向こうの声は聞こえないが、こっちの声は聞こえるはずなので恨み言を伝えておこう。

しかし、4機が限界か……【ブルー】にはできれば寄りたくないものね、装備は接近戦用だし……うまく姿を隠す必要がありそう。【アイオロス】からも見えないかもしれないけど。

でも、そこは問題なし。


「スライス・ペタルにカメラを取り付けたのよね〜!」


これはヴィルの奴には話してない、シエラと2人で相談し取り付けたものだ。

数が少なくなる分、多角的な情報を手に入れるため取り付けた。だからこそ、【ブルー】より早く目視ができ、早めに仕掛けられた。


「これ便利なのよ……監視カメラみたいでさぁっ!」


なんかストーカーみたいよね、とはシエラとの言葉だけど、都合よく無視させてもらったわ。

四つの目が敵を監視する。そしてそれは……。


「当然!攻撃にもなんのよねっ!」


花弁のように回転する刃が、【ブルー】を襲う。

消耗するまで、削り切ってやるわ!


-----------------------


「ふざけんなよっ!」


あの野郎!完全に近づけさせない気だ!

襲いくるスライス・ペタルに対応しようとアズライトブレードを構えるが、四方から迫ってくる刃に大剣では分が悪い。

スライス・ペタルはアズライトブレードほどではないが、なかなかの硬度の刃だ。

あんなもので機体を攻撃されたら溜まったもんじゃない。


「ちぃぃぃぃっ!」


判断を誤るわけにはいかない。

ワイヤーを接続させたアズライトブレードを手放し、両腕のブレードを回転させ、飛び交う刃を弾く。

しかし、何度も何度も襲いくる。制御は完璧ってか?


「ならば、走る!」


ブースターを吹かせ、スライス・ペタルの包囲網を飛び出す。

止まったらまた囲まれる……。

このスピードで走り回って、本体を見つけ出すしかない。


「見える距離にいるはずだ……。」


--------------


「ん……?」


見当違いの方向に加速しだしたわね?

スライス・ペタルが追いつけないスピード……、カメラにも収まらなくなると面倒ね。


「大剣は手放したようだけど……今行くのは不味いわよね。」


ダメージを与えられてない。

……本当ならもっと突っ込んでいきたいところだけど、あいつの言う通りタイマンだと負けそうよね。

このショットガンの威力もよくわかってないし。


「とりあえずスライス・ペタルを回収して……」


スライス・ペタルは真っ直ぐに帰ってくる。

ほんとにいい子達ね。


「【アイオロス】は周辺用の超音波サーチにしかリソースが割けなかったらしいから、【ブルー】がどこに行ったかわからないけども……大体の方向はわかってるわけだし、とりあえずデブリで姿隠しながら……。」


周辺をサーチしながら、そろりそろりと移動する。

非常に性格には向いてないことは理解する。

しかし、アイツの裏をかくには仕方ないのだ。

勝てたら思いっきりバカにしてやるのだ、そして、肩で揉んでもらおう。


「ふふふ、ははははは!!」


あぁ、楽しくなってきた。

お互いの位置はわからない状態ではあるが、分は明らかにこちらにある。

サーチ範囲に入れば、スライス・ペタルで先制攻撃。消耗したところをショットガンでズドンだ。

さぁて、どこにいるやら……鬼ごっこの開始ね!


--------------


動体センサーにも熱量センサーにも引っかからない。

見える範囲にはいないようだ。

そもそも【ブルー】は目視範囲以外の敵を見つけ出すことには非常に向いていない。

一定の場所に存在する複数の敵を各個撃破していくことが一番得意であるタイプなのだ。


「見つけだしさえすれば……だが、スライス・ペタルすらいなくなったな……。」


あれがいるなら、目視範囲だと考えてる俺にとって、あれすらいなくなるのは問題だ。

しかし、その後AIが放った言葉に俺はニヤリとしてしまう。


「なるほど……その作戦で行こう。」


--------------


「んー……そろそろ見つかってもいいと思うんだけど……。」


交戦位置からは結構移動したはずだが、それでもまだ見つかる気配はない。

なんというか、緊張感が薄れてしまう。


「スライス・ペタルの展開はしておきましょ。何があるかわからないし。」


向こうが先にこちらの位置を把握することはあり得ないとはいえ、一応警戒はしておこう。

4機を機体の周囲に展開、停滞させる。

これなら緊急事態でも対応できるだろう。

しかし、ここでアラート。

機体の後方のサーチに【ブルー】がかかる。


「んんっ!?……うしろ!?なんで!?」


奴はまっすぐこちらに向かってくる。

完全に見つけられた……!


「スライス・ペタル!」


スライス・ペタルを盾のように展開し、大剣を受け止める……大剣!?


「それ、手放してたじゃない……!?なんで……!」


大剣から光が放たれる。

おそらくビーム刃だろう。スライス・ペタルは耐えられない。


「なんで……なんで!」


狙いが定まらないが、ショットガンを構え放つ。

【ブルー】の足を吹き飛ばせたようだが、もう止まらない。

【アイオロス】はそのまま真っ二つとなった。


「何でよぉ!!」


表示されるYOU LOSTの文字に、アタシは負けを認識したのだった。


 

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