青と緑は交わるか
次の日、調査の協力をということで格納庫で【ブルー】を使って、砂の竜を捌いていた。
持って帰ったその竜はシエラによってサンドラゴンと名付けられた。いいのかそんなんで。
また、【ブルー】のカメラに残っていた大怪鳥や他の生物に関してもこれから調査していくとのことだ。
「もらった戦闘記録も見たわ。サンドラゴンは群れで行動するのは間違いないわね……それにこの星にしては浅いところで生活してる……。ってことは、この星の生態としては小さい方の可能性が高いわね。」
そんな気はしていた。
俺たち人類からすれば大型の生物だが、ここでは捕食される側、食物連鎖のピラミッドの低いところということだ。
「あの砂の海を【ブルー】で探索はすこししんどいかな。ハイリスクローリターンだ。これきりにしてくれ。」
格納庫にある休憩用のベンチに腰掛けながら、ドリンクをもらう。サンドラゴンの解体は【ブルー】でやるしかないからな。細かい作業がなかなか面倒だった。
しかし、これで相当量の肉が取れたわけだが、食えるのは確認してるのかなこれ。
「一応、人体に影響のある毒物などは確認されなかったわ。食べても問題はない……美味しいかどうかはわからないわ。」
「美味くあってくれ……。」
とはいえ、食糧の確保は最低限できた。
作物の収穫までは待つだろうとのこと。
「さてと、ブルーについた血を洗うか……。」
捌く時に汚れてしまった。
今洗っておかないと匂ってしまうからな。
ベンチから立ち上がりながら、首を鳴らす。
なんだかんだ昨日は疲れたが、まぁこれくらいはやっておかないとな。
「整備用のドローン貸してくれよ。」
「あれはあたし専用よ。」
【マシンズ】どころか宇宙船全体の整備士が少ない状態で、【ブルー】や【アイオロス】の整備はどうしているのかと言うと、簡単なことなら遠隔で操作できる小さなドローンがある。
と言っても、全てシエラが作った物であり、シエラしか動かせないらしい。くそう。
「というかお前ほんとなんでもできるな。」
「まぁね。」
シエラは謙遜も自慢もしない。
事実だからと毎度言うが、これだけの能力をつけるには相当な努力が必要だったはずだ。
すこし尊敬してしまう。
「ところで、大剣はどうだった?」
話変わって、大剣の話になる。
「ん、いや……そんなたくさん戦ったわけではないしな……。リーチがあるのはありがたいが。あと大剣自体よりもワイヤーは助かった。」
ビーム刃も使えたけど、まぁ射撃武器でも同じ使い方はできるだろうし、なんとも。
とはいえ、もともと射撃が苦手な俺が連射が効くタイプもらってもどうもならないか。
「ワイヤーは使えると思ってつけたんだから、当然よね。まぁ、出撃前のパックのチョイスは貴方にまかせるから、遠距離用も用意しておくわ。」
「それは助かる。」
得意ではないとはいえ、近接装備だけでどうにかなる戦いばかりではないだろう。そうなった時、ネモにばかり頼ってはいられない。
「巨大な敵に対抗するには……。」
独り言を呟きながら、研究室へ向かうシエラ。
「さて、と。」
【ブルー】の清掃を行う。
サンドラゴンの血は赤黒いので、どこについてるかは分かり易い。しかし、アナログな方法で清掃するしかないと言うことを、放水を行いながら覚悟した。
「手伝うよ。」
背後から現れたのはグランさん。
洗うのは得意だから、と言いながら一緒にやってくれる。
「こないだの件、忘れてないっすよ。」
「ネモちゃんは決めたこと曲げないから……許してくれよ。」
「まぁ、手伝ってもらえるんで。」
しかし、【ブルー】はここの救世主なのだからもっとたくさんの人が協力してくれたっていいのでは。
「他のみんなは君が取ってくれたサンドラゴンの調理や保存に必死だよ。」
調理人や栄養士のような人材が不足している我らの基地は、食事に関しては皆で頑張るしかない。
ガーランが主導して、どうにか美味しく食べれるようにしているようだ。
「……晩飯には期待かね。」
数時間はかかったが、なんとか2人で清掃と塗装を終わらせる。
肩の緑、桃、紫の三色塗装はこだわりだ。
異世界の女神を表すかのように丁寧に塗った。
「随分時間をかけたね。」
「【マシンズ】乗りは、ゲン担ぎってのも大事なのさ。」
俺の命を救ってくれたあの歌声がまた聴きたい。
あれさえ聴けたらなんでもできそうなそんな気がするんだ。異世界通信システム様様だ。
その後、2人で食堂へ向かう途中、行先から随分と騒いでいるような声が聞こえてくる。
「何してんだ……?」
食堂を覗くと、たくさんの人が集まり宴会をしていた。
「……えぇ……。」
「おぉ、きたかお前ら。サンドラゴンがかなり美味しく調理できることがわかってな……あとはヴィル、お前の歓迎会だ。」
「だったら先に食うなや!」
世迷言をくっちゃべるガーランの腹に一発蹴りを入れて、そのままグランさんと席に向かう。
ガーランは笑っていた。どうなってんだその体。
「美味しいなら嬉しいね。」
「まぁ、ありがたいことだな。」
グランさんと対面に座り、食事の配給を受け取る。サンドラゴンのステーキだ。
その命、ありがたく頂こう。
「本当に美味しいな……。」
「この子達の胃袋を見たんだけど、主食は砂上に咲く花や草ね。だから美味しく食べれるのかも。」
食べてると隣にコーヒー片手に座ってくるシエラ。
「お前は食ったのか。」
「まぁね、それよりも……。」
シエラが後ろに顔を向ける。
訝しみながらも、そちらの方を向くとなんとネモがたくさんの皿を積み上げていた。
びっくりして少し眺めてしまうと、こちらを睨み返してくる。
「もぐもぐ……あによ。」
「口に物入れたまましゃべるな。」
ネモの隣にいたグレイグが静かに怒る。
罰が悪そうに口を動かすことに集中するネモ。
俺は姿勢を戻し、食事に戻る。
「俺は見なかった。」
見ないふりを許さないようにシエラが話を続ける。
「姉さん、ストレス発散するかのように食欲爆発してるの……。元気ならいいんだけども……ねぇ。」
おいおい、サンドラゴン一体で本当に足りるのかよ。
そんな微妙な不安を抱きながら、それでも美味しいステーキを味わうのだった。
「おかわり!」
まだ食うのかあいつ。
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さて、訓練だ。
訓練。それはいつか必ずくる災厄に備え、日々繰り返すもの。
特に【マシンズ】の操縦に関する訓練として、必ず存在するものがある。
「にぎゃぁぁぉぁぁぁぁぁ!」
無重力条件下での高速機動訓練だ。
縦横無尽に駆け巡る座椅子に座り、そこから周囲のターゲットをレーザーライトで正確に狙い撃つのである。
まだ戦闘に慣れてないネモを乗せて外から見ているのだが、情けない叫び声が部屋を埋め尽くす。
「まぁ、初めてはあんな感じだしな……。」
「そうなんだぁ。」
途中休憩の差し入れにとクッキーとお茶を持って来たルリィと一緒に、ベンチに座り眺める。
俺もいただこうと手を伸ばしたら、なんかすでにお茶請けクッキーがない。ルリィちゃん?
「もごもご。」
「いや、なんで持ってきたんだよ。」
「……もご。」
「……ちゃんと噛めよ。」
お菓子には目がないのはわかるけど一応限りある資源なんだからさぁ……。
「……ごくん……あっもう終わりそうですよ。」
ブザーがなり、椅子が止まる。記録はゼロ。
初めてでは的を視界に捉えるのも厳しいからな。
「……うぷ……はきそ。」
吐くなよ。
「……アンタ……アンタはできるわけ……?」
「もう慣れきってる。特に【ブルー】はこれ以上の高速軌道ができるからな。出来なきゃ乗れてないよ。」
逆に【アイオロス】は無理に高速で動く必要はない……出来た方がいいのは間違いないが。
「……アタシ……無理……おぇ。」
嗚咽を吐きながら床に転がるネモを横目に見ながら、座椅子に向かう。
授業の訓練でもこれはよくあった。
一番好きな訓練で、一番【マシンズ】に乗ってるような感覚になれるのだ。
訓練を開始し、的をレーザーライトでしっかりと射抜いていく。
ここでの射撃はうまくいくのに、【マシンズ】からの射撃や平時の射撃が当たらないのはなんなんだろうな。
俺や記録はパーフェクト。高速機動はお手の物だ。
「……ふぅ……おっと。」
投げつけられるような勢いで飛んでくるドリンクボトルをキャッチする。
「自慢げなのムカツク。」
ベンチに座るネモが投げたようだ。
ありがたくいただきながら、ベンチに向かう。
「慣れればこんなもんよ。」
「慣れるわけないって言ってるのよ。」
「やらなきゃわからんさ。」
どうやらルリィはブリッジに戻ったらしくいなくなっていたので、空いているネモの隣に座る。
「あーあー、もっと脳波の訓練とかでいいんじゃないの、アタシは。」
「ソレもありだろうけど、シエラとグレイグ先生が監修の元だぞ。」
「グェー、それはヤダなー。」
まるで溶けるように床に転がってゆくネモ。
なんなんだお前は。猫か。
「ねー、模擬戦とかしないー?模擬戦〜。【マシンズ】乗りは2人だけなんだしー。」
ダラダラと喋るのやめなさい。
「無理だ。【ブルー】と【アイオロス】だと相性が悪すぎる。俺が手加減しなきゃならんのは訓練にならん。」
開始距離にもよるが【ブルー】の機動力なら、スライス・ペタルが動き出す前に接近ができる。
接近さえして仕舞えば、今の【アイオロス】に勝ち目はほぼない。それくらいネモと俺には差がある。……そのはずだ。いや待ってくれ、なんかフラグっぽいぞ。
「ぶーぶー。」
「……そんな言われても。」
めんどくさいやつの相手をしていると、扉が開く。そこにはいつもの白衣を油汚れだらけにしたシエラが立っていた。
「姉さん、体調はどう?」
「いつも言ってると思いますが!」
「体調って毎日聞くものなのよ。」
シエラのため息が聞こえてくる。
ネモさん、貴女そんなにバカでした?
「うるさいわね、いい加減溜まってんのよ。早く【アイオロス】に乗りたいの!」
地団駄を踏むネモ。
それを見て、仕方ないとばかりにもひとつため息をつくシエラ。
「検査でも問題はないし、ずっとダメというわけにはいかないから一応オッケー出すよ。でも、こちら側からリミッターだけつけさせてもらったよ。」
バインダーをネモに渡し、俺の隣に座る。
「解除方法は【コノフォーロ】からの許可のみ。じゃないと無茶しちゃうからね。戦闘においてはヴィルさんも信用ならないし。」
「……返す言葉はないです。」
機体にパイロットに無茶させすぎということで散々怒られたわけだから反省してますって。
「……ま、仕方ないわ。動かせる量は何機?」
「4。」
それを聞いたネモはすごい嫌そうに聞き返す。
「4?少なすぎるわよ。4分の1じゃない!せめて8!」
「ダメよ。ロックした相手にオートで取り付くとか脳に負担かからない方法考えてるけど、まだ無理。」
「アタシなら大丈夫だって!」
「ダメです。それ以上文句言うなら出撃もグレイグ先生に頼んでドクターストップかけさせてもらうわよ。」
「4機で問題ないです!」
まぁそういうことには俺たちパイロットは弱い。というのも、医者に出撃ダメと言われて仕舞えばもしなんかあった時かなり恥ずかしいどころか、言い訳ができない。いや、死んだら言い訳もクソもないけどね?
この【マシンズ】が台頭する時代において俺たちパイロットの存在は資源なんだ。
俺たちの一存で消費するわけにはいかない。
「よろしい。じゃ、格納庫で調整するよ。ヴィルさんも一緒に。」
「あいあいさー。」
新武器ができたとかそういうのじゃないとやはり気分は乗らないが、有事の際の準備は大事だ。
戦闘中に現状の装備でできることを考えるのも、俺たちパイロットの仕事だ。
どうせすぐそこだと、歩いて向かうとグランさんや数人の整備士さんとすれ違う。
これから昼休憩らしい。
「んー、そうなると【マシンズ】動かすのも一苦労ね。」
ん?動かすつもりだったのか?
「そうね、模擬戦でもしてもらおっかなって。」
おいおい、まじかよ、【アイオロス】と【ブルー】の模擬戦か?
フラグ回収早すぎるって。
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