砂原の櫨染
格納庫で【ブルー】を見上げる。
シエラ曰く、素材は豊富なので実物があれば同じものを作ることは可能、とのこと。どんな技術力なんだよ。
おかげさまで美しいとまで思った装甲の一つ一つが綺麗に磨かれており、四肢はちゃんと揃っている。
そして専用のバックパックにマウントされた全長が【ブルー】の体長はあろうほどの巨大な剣。
先端部はレーザー光が刃を形作るようなシステムを採用しており、実体剣だけで対応できない敵を切れるようになっている。
マウントするバックパックは、シンプルな仕様で初期のパックのように急加速ができるような形にはなっていなさそうだが。
「ワイヤーが使えるわ。」
「ワイヤー?」
大剣の柄や小型のナイフに接続できるワイヤーがあり、それを投合して使うことも可能とのこと。
速い話が、ワイヤーアクションで移動もできるし、大剣振り回すこともできる、とのことだ。
「まためちゃくちゃなことを……。」
シエラの突飛な発想にはため息が出てしまう。
にもかかわらず本人はこちらを見て満足そうだ。
「でも、使えそうでしょ?」
カッコ良さそうではあるが。
それに、こうもバックパックを充実させていくと本来のブーストモードの利用までが制限されてしまう。
「そんな博打みたいなシステムを常駐化させようなんて狂ってるわよ」
狂人に言われたくはない。
それに、ブーストモードの強さは明らかだ。
完全に追い詰められた状態だったところから生還することができたのだ。
これからどうなるかわからない戦いの中で必要になってくるはずだ。でないと、教官が命をかけて残した理由が無くなってしまう。
【異世界通信システム】が搭載された【マシンズ】である【ブルー】。
なにか鍵があるはずなんだ。
「どうにか初期のパックをいつでも使えるようにしてくれ」
仕方ないわね、といった顔をこちらに向けながら息をつくシエラ。
「わかったわよ。ただし、時間はもらうわ。【アイオロス】のこともあるしね。」
「ありがとう。」
感謝を伝えながら、【ブルー】のコクピットへ向かう。
俺の血がそれなりに飛び散っていた中も綺麗になっていてすこし嬉しくなる。
「よし、声紋認証、出撃準備。」
数秒置いた後、モニターやスイッチに光が走る。
『システム、オールグリーン。よろしくお願いします、ヴィル。』
「あぁ、今回もよろしく頼む。」
新たな装備と四肢の感覚を確認しつつ、地上射出用エレベーターに移動する。
「外に出るだけだからこう言う感じなのか……カタパルト以外は初めてだな。」
脚部を載せ、降りてくる固定用バーをマニピュレーターで掴む。
「アトラクションみたいだ。」
作動確認ランプが赤から緑へ変わる。
かなりのスピードでエレベーターが上昇していく。
数秒ののち、地上へ飛び出る。
「ここに出るのか。」
軽い重力を感じながら、周りを確認する。
岩の山の中腹、砂漠の海は見下ろせる状態だ。
「さーて、怪物とやらはどこにいるかな。」
カメラのズームと動体センサーを最大限利用し、砂の海を眺める。骨や岩が浮き出ている。
「見てる限りじゃ反応なし、近寄って威嚇してみるか。」
背部にマウントされた大剣を手に持つ。
【ブルー】が腕部のブレード以外の武器を持つのは初めてだな、似合ってるといいが。
「なんて、な。岩場に移動する、周囲の警戒を頼むぞ。」
『了解しました、ヴィル。』
俺のいた惑星に比べて、重力がかなり弱い。
【ブルー】の出力ならこの程度の山を降りるのはひとっ飛びだろう。
「……これ普通に射撃武器の方が有利に戦えたんじゃ……。」
砂の海の数少ない足場を目指しながら、大剣の活躍を期待する。
『いえ、敵が有効射程距離から目視で確認できない分、強力な近接武器の方が有用でしょう。それにこの重力下、本機であれば空中戦も容易です。』
「む……そうか。」
AIに真っ当に否定されるとちょっとやな気分になるが、新たな【ブルー】の性能を理解してるのはコイツなのだろう。
『岩場は岩山の一角のようです。問題なく着地可能。今のところ動体センサーに反応はありません。』
ピンポイントで着地を行う。
体をすこし重力が襲うが、大したことはない。
「じゃ、威嚇してみるぞ。」
大剣のレーザー光部分の刃を展開させ、砂へ突き立ててみる。
砂がレーザー光に焼かれ、溶かし、消えてゆく。
大きな音と温度が発生し、陽炎が揺れる。
「音、温度、光、振動……どんな器官を備えてたとしても、敵がここにいるってアピールには充分だが。」
群れで生きるにせよ、孤独に生きるにせよ、生き物には荒らされたくないテリトリーがある。
そこに土足で踏み込み、尚且つここにいるぞとアピールを行う。
まぁ、つまるところ煽ってるわけだ。
「これで反応してくれりゃ楽なんだがなぁ。」
『反応はありません。』
そもそも食べるため、生きるためとはいえ、罪のない生物を殺すのはすこし気が引けている。
見習い軍人とはいえ、実際に参戦していたわけではない。そこまでシリアスになりきれない。
相手側から襲ってきてくれれば、と考えていたが……。
「出向くしかないか……」
飛び込めば奴らの戦闘領域でもあるが、どうにかなるだろう……ならないか?
『ならないと判断します。砂の中へ入って仕舞えば動体センサーも意味をなしません。近くの動きならば熱センサーが利用できますが、目的もなく飛び込むわけにはいかないかと』
だよなぁ……。
「じゃあ、ま。ゆったり待ちますか。」
根気比べだろう、釣りみたいなものだ。
「……地上に生きる生物もいるんだな。」
モニターを見るとカメラに映る四足で走っていく小動物が見える。
あぁいうのではダメなのか?と一瞬考えがよぎるが、デカいのを倒せた方がなにかと都合はいいのだろう。それに、
「俺には可愛くて殺せそうにないな。」
ネモなら躊躇いなくやりそうだ。
あいつは俺よりも精神的には強いからな。
だから、あんな脳波で操るような遠隔武器も扱えるのかね。
あれがあれば今回楽だったろうに。
「そういえば、未発見の惑星を発表せず開拓したら条約で罰則だっけか。緊急事態でもなければ、違反で裁かれてるだろうな。」
生態系を狂わせる行為が許されてるわけじゃない。
だけど、今は生きるためだ。許せよ。
考えていると、AIがアラートを鳴らす。
『周囲に動体反応あり。3体です。』
「おっと、勝った気になっていた。油断大敵……っと。」
大剣を構える。
すると、まるで人3人分くらいのサイズの魚のようなヒレを持つ竜のような怪物がこちらを囲って威嚇をしてきた。
「戦闘開始だ、いくぜ【ブルー】!」
砂の竜は飛び出すようにしてこちらに体当たりを仕掛けてくる。
人10人分くらいの大きさである【マシンズ】よりは小さい体だ。受け止めても問題ないと判断、捕まえることにし、左手を前に出す。
「片手でも!」
想定とは違い、体に似合わぬ勢いに乗せて、飛びかかる竜はまるで弾丸のようだった。
受け止めることは諦め、そのまま受け流す。
「ぐっ……!」
直撃ではなくとも、衝撃がコックピットを襲う。
しかし、俺も何戦か戦ってきた男だ。
受け流した勢いで、回転。
右手の大剣で次に飛んできた竜を狙う。
「ぶっ叩く感じで……!」
叩きつけるように地面にお帰りいただく。
しかし、三体目。
今度は正面から、腹で思い切り受けてしまう。
「連携ができてんな!」
ブーストを強めに吹かせるが、その勢いのまま砂の中へ落ちてしまう。
「まずいっ!」
バックパックからナイフに取り付けたワイヤーを伸ばし、岩へ突き刺す。
こうすれば、砂の中へ落ちても戻ってくることができる、はず。
「しかし、奴らの領域だ。」
カメラのモニタはすべて砂の流れで埋まる。
目視が無理なら熱センサーを信じるしかない。
「流れに持ってかれないようにしないと。」
流動する砂に機体を持っていかれそうになるが、ブースターとワイヤーで何とか保ってるような状態だ。
「……また来た!」
センサーに突撃してくる三体が写る。
次は全てに対応するため、レーザー刃を展開した大剣を両手に構える。砂が焼かれる音が聞こえる。
「そのままの勢いで……来な!」
先ほどと同じくぶつかれば良いと考えてたのかもしれない、しかし今度は高熱の刃だ。
先頭の一体が縦に一閃、焼かれながらも真っ二つに切れてゆく。
「次!」
迫る二体目、ワイヤーを引き戻し、【ブルー】の機体を上昇させる。
それと同時に引き摺るかのように大剣を滑らし、刃を当てる。綺麗に二枚になる竜。
「ラスト!」
上昇した機体に合わせ下からこちらに迫る三体目を、ワイヤーを今度は伸ばし下に降りながら大剣を突き刺す。
「……よぉし!」
突き刺したまま、ワイヤーを戻す。
少し重いが、竜を地上に引き出す。
「持って帰るぞ!」
砂から飛び出した勢いで、ブーストを吹かす。
着地先はしっかりとした岩だ。
本当はぶった斬った二体も持っていきたいが、砂の中だ。取りに行くのはなかなか難しいだろう。
「……終わりだな。」
大剣をバックパックにマウントする。
砂で塗装が結構削れてしまったが、これくらいなら怒られないだろう。……怒られないかな。
『動体センサーに反応あり。』
AIに警告され、モニタを見る。
先ほどのやつよりもかなり大きい……しかし、奴らは奴らで成体だったように見えたが、別の生命体だろうか。
「これ以上は戦う必要はない。急いで離れ……?」
この岩、何かおかしい。
砂の海に浮いているかのように揺れている。
なのに、【マシンズ】を支えられるなどあり得ない。
「……何か繋がって……!?」
モニタに何十倍はある影が映る。
これは非常にまずい。
ブーストを吹かせ、空へ飛び上がる。
「あれは【擬似餌】か!」
巨大な口が砂や岩ごと先ほどまで【ブルー】がいた場所を食う。
「あぶねぇ!」
ここの生態系は俺たちが思うよりかなりやばいことになってやがる。
あのタイプの擬似餌を使うということはあれを足場にするサイズの生物が砂の海の上にいるということだ。よし、これ以上の長居は控えた方が良さそうだ。
「逃げっぞ!」
軽い重力の中、ブーストとワイヤーをうまく利用しながら逃走をする。
待ち伏せて狩りをするなら、足の遅さは間違いない。追っては来れないだろう。
しかし、さらにモニタに警告。
「!?」
戦闘音を聞きつけてきたのか、たくさんの棘を生やした【ブルー】の数倍は巨大な鳥のような生物がこちらに接近してくる。大怪鳥といったところか。
「急になんなんだよ!」
改めてナイフをワイヤーに取り付け、投合する。
大怪鳥の腹部にうまく刺さったが、ダメージはあまりなさそうだ。しかし、それを引っ張り【ブルー】を更に上昇させる。
「ぬおおおお!ぶった斬れろ!!」
大剣を構えビーム刃を展開し、腹に突き立てる。
勢いのまま、掻っ捌く。
「ギャァァァァァァァ」
衝撃を伴う激音と共に、大怪鳥は落下してゆく。
周りに潜んでいたのだろう他の小さな生物や先程の竜のような生物までが大怪鳥に集まる。
喰らいにきたのだろう。大怪鳥もまだ死んではいないらしく叫びながら暴れている。
「すまねぇな……逃げさせてもらうぜ。」
食物連鎖を目の当たりにしたところで、そそくさと逃げる。
『出入り口です。』
【マシンズ】用の入口を作ってもらえたようで、小さな建物がある。
「開口の連絡を頼む。」
『了解。』
数秒後、扉が開きエレベーターが見える。
そこへまず竜もどきを投げ入れ、【ブルー】を動かし、きた時と同じように下へ戻っていく。
「これ一匹でかなりの量にはなるだろ。食えるかどうかはわからんが。」
食えるかどうかの研究はお任せだ。
ひとまず俺は仕事をうまくこなせたことへの安堵と、あんな化け物たちがいる星での生活への恐怖でいろいろ疲れ
「……はぁ……。」
大きめのため息をついてしまった。
「シャワー浴びて寝よ……。」
竜もどきを見にきたガーランや、塗装が剥げてることへ文句をいうシエラを横目で見ながら俺は部屋へ戻っていった。
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