臆病な焦茶色と夢

あれから数日が経った。

身体の痛みはかなり引いたので、彼らがレジスタンスと呼んでいるこの工業コロニー跡らしき場所を見て回っていた。

メンバーは20人弱程度の人数しかおらず、かなりの面積を持て余しているようだ。

どうやら、過去の大戦でよくない実験をしてたところみたいで、周辺からではここにコロニーがあることすら簡単にはわからないようになっているみたいだ。奴らについてはわからないことの方が多そうだが、ガーランによると奴らは取り込んだものと同じように物体を知覚するらしいので【マシンズ】を乗っ取った奴らはこちらを簡単に探し当てることはできないだろう。

工業用らしいとはいえ、居住区も存在している。避難民などを迎え入れることもできるかもしれない。食料やエネルギーなどに目星がつけば、になるが。

そうこうしていると、腕に巻くタイプのデバイスにガーランからの呼び出しが来ていた。

緊急ではなさそうだから、コーヒーでも飲みながらゆっくり向かおうか。


「護衛をして欲しい」


「はい」


二人きりになった部屋で強面のガーランが真面目な顔して迫ってくるもんだから、二つ返事でOKを返してしまった。

協力関係とはいえ、これではなぁ。


「そうか!ありがとう!」


真面目な顔はすぐに笑顔になる。

こいつ、感情が顔に出過ぎだろ。ポーカーとか苦手か?

訝しむ顔をわざとしてやると、すぐに真面目な顔に戻す。


「……詳しい内容を教えてくれ」


こうなっては仕方ない。

面倒ごとだとしても引き受けるしかないだろう。

ガーランは手に持った簡易デバイスから、立体スクリーンでデータを出しながら話す。


「知っての通り、俺たちの目的は奴らの殲滅もしくは鹵獲による弱点の発見になるわけだが、俺たちが生きていかないことには何にもならんわけだ。」


「食料か?エネルギーか?」


ここ最近、1日2回ありがたく頂戴している食事が、お世辞にもろくなもんじゃなくなっていってることは気づいてはいた。

腹が減っては何とやらだ。


「いや……それよりも大事なことがある」


それを否定するように首を横に振るガーラン。


「水だ。」


立体スクリーンには、近くの農業用コロニーに備え付けられた浄化水を作成する装置が映る。


「ここの浄化装置はいくつか壊れているし今いる人数を賄うことがギリギリ限界だ。大型の農業用であれば、作物などを育てることもできる。」


「後につながる……ってわけね。」


コーヒーを飲み干し、ダストシュートに紙コップを投げる。外す。


「そうだ。……ネモにもでてもらうが、ポイントまでの距離が離れすぎている。あいつの専用機はまだ完成してないし、奴らがいた時お前と【ブルー】がいなければ。」


「そりゃ数日で完成するものでもないしな……。あいつが作業してる間見張ってりゃいいんだろ。」


変な言い方されずとも、生活に関わることならちゃんとやるさ。俺だってコーヒーは飲みたい。


「よろしく頼む。」


ガーランは改めて俺に頭を下げてきた。本当に真面目なやつだ。

俺の生活にも関わるのだから、仕事しろ〜くらいな言い方でも良さそうなもんだが。


「作戦決行は明日だ。」


訂正、こいつ俺が断らない前提でスケジュール組んでやがる。

こいつの強面をこれ以上見てるのも嫌なので、気のない返事を返しながら部屋を出る。

その足で格納庫に赴く訳だが、実はシエラとは【ブルー】の改造ですこし揉めたので足取りは必然的に重くなる。

というのも、馬鹿みたいに大きいドリルを搭載してみたり、でかいスコップつけてみたりと、どこぞの勇者ロボかと言わんばかりの改造を施すもんだから、それはまた違う。【ブルー】はリアルロボット寄りだと言う話をしたら、リアルロボットにこそスーパーな武器がアンバランスによく似合うんだという説を力説され、とはいえ俺が使うのだからということでそれが無かったことになったから奴は詰まるところ拗ねているのだ。


「拗ねとらんわ!」


どうやら声が出てたらしい。


「アンタね……まぁいいわ。ちゃんと希望通りに治しといたわよ。でも背部の装備は【オール】って機体の索敵用の大型センサーにさせてもらったわよ。おっきなリボンみたいで可愛いわぁ。」


……ん、まぁ、理由があってだから今回は見逃そう。技術は認めるが、暴走しがちなのが傷だ。

【ブルー】に乗り込み、AIに装備の確認をさせる。


『各部【ハミード】のパーツを認識しました。運動性の低下を確認。また、背部に【オール】の大型センサーを確認。専用リアクターブースター以外ではブーストモードの使用はできませんのでご注意ください。』


そうなのか。

とはいえ、あのレベルの緊急事態は起きないだろう。

というか、戦闘になる前にこちらが反応ができるのだから、姿を隠す方が優先だな。


「アタシたちの惑星の【ハミード】は綺麗な青色だから、【ブルー】ちゃんによく似合うわね。」


モニターに映るシエラはかなり満足げな目をしている。


「最終調整は任せなさい。アンタは早めに休むこと。……ネモちゃんのこと、頼んだわよ。」


「出撃準備おっけーよ。」


操縦席のハッチを閉め、メインモニターの立ち上げを終えた後こちらに通じるよう回線を繋げてきた。


「……こっちじゃなく、司令室に送れよ。」


「いいのよ。そう言う訓練受けてるわけでもないし、どうせ大した返答も来ないんだから。」


何だってそうだが、ホウレンソウを怠ってはいつか足元掬われるぞ。

とはいえ、別に本気でどうでもいいと感じてるわけではなく相手が有人だから揶揄っているみたいだ。


「ちょっとネモちゃん〜、ヴィルさんの言う通りよ〜ちゃんとこっちに教えて〜」


ほんわかした雰囲気で金髪をサイドで結んだ彼女はルリィ。ネモと同い年くらいの少女だ。

そんな彼女がなぜナビゲーターを務めているかと言うと、まぁ人手不足だ。

もともと作業用の【マシンズ】が一機しかないのでそんなにやることもなかったようで。


「ヴィルさんはご準備どうですか〜!?」


こんなに緩い出撃準備は初めてだよ。

一つ息をつきながら、正面モニターを確認する。

優しい笑顔の整備員、グランさんが赤い誘導灯を降ってくれている。

グランさんは優しい人でシエラによる【ブルー】の改造も共に反対してくれた人だ。整備の腕もそれなりに良いらしい。

そんな彼はここに逃げ延びる際の戦闘で奥さんと逸れてしまったらしい。まだ生きてると信じているみたいで、俺がきたことにより捜索に力を入れることができると喜んでいた。

できれば期待に応えたい。でも今はできることからだ。そうして気を引き締める。


「こちらは問題ない。周辺の警戒も怠らないでくれよ。……パイロットはヴィル、【ブルー】出撃する。」


少し錆びついた出撃バンカーから金属が擦れる派手な音を立てて、【ブルー】が飛び出す。

制動用のブースターを逆噴射し、勢いを殺しできる限り離れぬよう留まる。


「【ブルー】に異常はありませんか〜?」


ルリィのゆったりとした声を聞きながら、【ブルー】の状態を確認しつつ、大型センサーを起動する。


「操作感は異常ないようだ。センサーを起動する。」


背部に搭載された大型センサーが回転を始める。

そうしてるうちにメインモニターに現在宙域のマップが示される。しかし、目的位置が示されない。


「ルリィ、そちらから目的位置の座標は転送できるか?」


AI自体は俺の権限がないと弄れないので【ブルー】用の座標のデータを事前にスタンバイできなかったようだな。俺に相談なく決めるからだ。仕方なくルリィに要求する。

画面上左上に映し出されたルリィは少し困った顔をしながら、すこしコンソールをいじったが、こちらに送られてくることはなかった。


「ごめんなさい〜、わからないのでネモちゃんからもらってください〜。」


これはひどい。

仕方ない、とか言ってる場合じゃないんだぞ。

帰ったら教えてあげるしかないか。


「……ネモ、あとで接触通信で転送頼む。」


後ろから出撃してきた作業用【マシンズ】、その名も【ロースター】。

焦茶色のカラーリングは作業用感バッチリ。

四本のマニピュレーターでどんな細やかな作業もしっかりこなす優れものだ。


「了解、あの子は後で叱っとくわ。」


サイズは小さく、【ブルー】の半分ほどの【ロースター】が制動用のブースターを吐きながら、こちらに近づいてくる。

押される感覚を感じながら、データの転送を確認する。


「転送完了。どう?マップに載った?」


「あぁ、バッチリだ。では、目的地に向かう。作戦通り、こちらが先導を。」


【ハミード】の大型ランサーを構えつつ、ゆっくりとブースターを吐く。

【ロースター】はかなり遅いのでちゃんとネモと通信を取り合い、ついて来れるように動かねばならんのだ。

センサーさえ気を付ければ、とりあえずは移動時間。目的地までは2時間といったところか。


「【ブルー】にマーキングを済ませたならオートで追従するだろうし、周りの警戒は俺がするから。寝ててもいいぞ。」


「んぅ……そうねぇ……。ま、でもちょっと話につきあいなさいよ。」


音声のみ接続した状態で、ぐだりとネモが話す。

まぁ、そりゃいいけども。一拍置いた後、ネモが話し出す。


「アンタはさ……なんで【マシンズ】に乗ってるわけ?」


「どう言う意味?」


モニターからは目を離さずに、機外カメラ映像も同時に展開する。常識外の奴らだからな、センサーに映らない可能性も考えておかないと。


「軍属になってまで【マシンズ】乗ろうなんてそう簡単なもんでもないでしょ。夢でもないと……やってらんないじゃない。」


「そりゃ自己紹介か?腕まで失って、続けられる奴なんて半端な気持ちじゃ無理だ。」


「今はアンタの話をしてんのよ。」


む、そらそうとしたのにバレたか。


「……ガキみたいな理由さ。」


「話しなさいよ。」


「えぇ……やだよ。」


「話しなさいよ。」


「……ったく。」


頑固な奴め。宇宙の色がどうのなんて面白い話じゃないし、散々揶揄われた話だ。命をかけるほどじゃないってな。

【マシンズ】の操縦は命懸け。だいたい目指す理由なんて、愛する祖国を守る為か、愛する人を守る為か、金か。


「……今度な。」


突然話す気はない。ネモから抗議が来そうだったので、強制的に通信を閉じる。


「わかった時にでも話すよ。」


【ブルー】の駆動音だけが響く中、ポツリとつぶやいた。

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