第4話 宗二と操 八色木と水虎 参

 宗二は女の子を家に送り届け、春が調査している場所に戻った。

 しかし、そこに春の姿はなかった。

 春が自らの意志で約束を破ることは過去に無い。

 争った形跡もない。

 水溜りから水が飛び散っているようだが、それ以外に気になる点はなかった。

「春さん。いたら返事をしてください」

 返事はない。

 木々が風でさわさわと揺れる音や鳥の鳴き声が聞こえるだけだった。

「――――そッ」

 様々な音の中に人の声―かなり小さい―が聞こえた。

 宗二は山で育ったためか五感が鋭い。

 音のする方に向かって走る。

「――が――――くそッ」

 春ではないようだ、と宗二は落胆したが、何か知っているかもしないと思いそのまま向かう。

「あの使えねぇ虎がッ。失敗しやがった糞がッ」

 宗二は声の主を見つけた。

 なにやら荒れているようだった。

 声の主―細身の青年は木に八つ当たりをしていた。

「あの、すいません」

「あぁッ?なんだてめぇ」

「この辺りで白髪の女性を見かけませんでしたか?」

「知らねえよ、俺は忙しいんだ。どけッ」

 男はその場を後にした。

 宗二は春を探す方法を考える。

 だがその必要はなかった。

「宗二君」

 春の呼ぶ声がする。

 声がする場所に向かうと、春がいた。

「春さん。何処にいって―ってどうしたんですか?ずぶ濡れですよ」

 髪や着物―全身が水に濡れていた。

「川で戦ったから濡れただけよ」

「戦ったって犯人とですか?」

「そうですね。まぁ犯人というよりは犯獣とでも云えば良いのかしら。とにかく捕まえたわ。この子よ」

「がぅ」

 春の肩に小さい虎がちょこんといる。

「その猫みたいな生き物が今回の事件を起こしたんですか?というか何故そんなに懐いているんですか?」

 春は頬を赤くして

「まぁそれはその…とにかくこの子に誘拐した人達の溜まり場に連れて行ってもらうから。いきましょう」

 すると、虎が霊能力を発動する。

 宗二と春は地下水を通って川に出る。

 さらに進むと、川の中に洞窟があり中に入ると水の無い広場に出た。

 そこには八人の人がいた。

 誘拐された人達だった。

 全員少しやつれてはいるが外傷はなく、無事だった。

 こうして宗二と春は任務を無事にこなした。

 運良く死傷者も出ずに終えることができた。

 ただ―

「明らかに人間が関わっていますよね」

 誘拐された人達の洞窟には人が何日か生活できるだけの食事が用意されていた。

 恐らく虎は誘拐するために用意されたのだろう。

 誘拐した人を犯人はどうするつもりだったのか―それはわからない。

 宗二達は洞窟を後に集落に戻り、皆を送り届けた。

 詳しい話しは被害者の回復したのち、他の祓い屋に聴いてもらうことになる。

 宗二達は皮切村を後にし、帰路についた。

 

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