第3話 八色木と水虎 弐
春は調査を続ける。
春はそこでふと気づいた。
ここ数日は晴天だったが、小さな水溜りがあった。
地面から水が湧き出ているためそこに小さな水溜りができているようだ。
―別におかしなところはないか…
しゃがみこんで観察するがただの水溜りだと春は感じた。
春が観察を終え立った瞬間、景色が変わった。
春は移動していた。
何者かに引っ張られている。
暗く細い道を移動していることだけはわかった。
―これはいったいッ?
次の瞬間明るい開けた場所に出た。
そこは水の中だった。
景色から川の中だと知った。
後方に引っ張られる。
身体に何か巻き付いていた。
それは春が今まで見たことの無い、黄色と黒の縞模様の尻尾だった。
春は振り向く。
そこには猫を大きくしたような、尻尾と同じ黄色と黒の縞模様の動物が水の中を進んでいた。
春の見たことのない生き物だった。
春が知らないのも無理は無い。この動物は海外に生息している虎という生物だからだ。
春は刀を抜こうとするが、身体に尻尾が巻き付いているため腕を動かすことができない。
しかも水中のため呼吸もできない。
時が経つほど苦しくなっていく。
―『照らせ 卯ノ花の月』
春が霊能力を発動させる
『卯ノ花の月』は春が認識し触れた力に干渉する能力だ。
春は水中で水圧を自身の周りに固定する。
春の身体はその場に固定される。
すると虎はつんのめり、急停止を余儀なくされる。
その衝撃で虎は春に巻き付いている尻尾を緩める。
その隙を見逃さず春は身体を固定した力を解除し、尻尾を振り解き上へと逃げる。
春はそこで足元の水圧を固定し、足場として崖を跳ねて登る鹿のように一気に駆け上がる。
「ぷはッ」
春は呼吸をする。
そしてすぐに臨戦態勢をとる。
水面の表面張力を固定し、足場にして水面に立つ。
刀を抜く。
虎が真下から春に飛びかかる。
春はそれを横に飛び躱す。
虎も春と同じように水面に立つ。
明らかに虎も霊能力を発動している。
両者睨み合い間合いを測る。
先に虎が仕掛ける。
単純な正面から飛びかかる。
春にとって合わせることなど造作でも無い。
刀を振り斬る。
だが虎は水になって刀を躱し川の中に消える。
どうやら水に関係する霊能力のようだ、と春は当たりをつける。
虎は背後から春を襲う。
春は振り向き刀で牙と爪を受け止める。
春は刀に力を込め虎を弾く。
そのまま切り掛かるが先程と同じように虎は水になって川の中に逃げていく。
―なるほどこの霊能力なら水さえあれば何処にでも行ける。誰にも見られずに地下の水脈を通って襲うことだって可能だ。さらに私を引きずり込んだところから、無機物や有機物関係なく水にすることができる。
―連れ去られた人達はどうなったのだろうか?見たところ肉食な気がするが…食べられていないことを祈ろう。
春の中で様々な思考が巡る。
―だが今は目の前の相手に集中しよう。
春は思考を虎に集中させる。
また虎が背後から襲い掛かる。
春はゆったりとした動きで躱す。
そして『卯ノ花の月』を発動させる。
「ガゥ」
虎は川の中に身を隠そうとしたが川の表面にぶつかり空中に弾かれる。
春は『卯ノ花の月』で川の表面を固定してたため虎は川に戻れなくなった。
春は空中に投げ出された虎に剣撃を浴びせる。
春の『卯ノ花の月』は霊力にも干渉できる。
だから相手が如何に水になろうとも斬ることができる。
一呼吸の間に十等分にされた水の塊の中に一つだけ動くものがあった。それは元の虎の姿に戻った。
ただし、元の虎の大きさより十分の一の大きさだった。
両手に乗りそうなくらいの可愛い姿になった。
虎は怯えたのか震えて威嚇している。
もう戦う力は残っていないのだろう。霊力もかなり消耗しているようだ。
春は刀をしまう。
そして懐から小さな袋を取り出す。
その袋から出てきたのは小魚だった。
実は春は猫や犬が大好きで、好きすぎるあまり常に餌を携帯している。
小さくなった虎の姿が春の琴線に触れたようで、春にはもう戦う意志はないようだ。
小魚を虎の前にゆっくりと置く。
虎は初めは警戒していたが、危険は無いと感じたのか、小魚を食べ始める。
春は誰にも見せたことのない優しい顔で虎を撫でる。
こうして春と虎は仲良くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます