第2話 八色木と水虎
春と宗ニ―藍色の髪の少年―は盗賊達を捕まえ、身柄を奉行所に引き渡し終えると、そのまま屋敷に戻った。
「春ちゃん、宗ちゃんおつかれさま」
宗ニ達を出迎えたのは、珍しい白衣を見に纏った美女だ。
名は薬師小夜子と云う。
白い肌にすらりと伸びた手足。長い黒髪は風が吹くたびふわりとなびく。その姿は優艶で、彼女を好いている男性は掃いて捨てるほどいる。
「相変わらず仕事が早いわね」
「春さんのお陰で早く片付きました。僕はついていくのがやっとでしたけど…」
「春ちゃんについていけるだけで凄いわよ」
春は史上最年少―当時十三歳―で祓い屋になり、その次の年には史上最年少で甲の位―甲、乙、丙、丁の順で、甲が一番位が上―になっている。
ちなみに宗二は丁の位だ。
「小夜子さん。宗ニ君を甘やかすのはやめてください」
「私は本当の事を云っているだけ。春ちゃんは厳しすぎよ」
そんなことありません、と春は答える。
「あ、そういえばあなた達。千歳ちゃんが呼んでいてわよ。今千歳ちゃんは部屋にいるわ」
それじゃあ伝えたからと、云って薬師はその場を後にする。
宗二達は千歳の部屋に向かう。
千歳の部屋は屋敷の奥にある。
長い廊下を春はすたすたと歩き、宗二はそれについていく。
やがて千歳の部屋に着く。
「失礼します」
「おお。春、宗二帰ったか。二人ともご苦労じゃった」
千歳は西洋風の椅子から、ひょいっと降りる。
宗二はいつ見ても千歳は幼女にしか見えなかった。
百四十糎あるか無いかの身長。腰まで伸びた黒髪はくせっ毛でくるっくるっとしている。
華奢な身体に少し大きめの赤い牡丹の刺繍の入った着物を身につけ、とことこと歩く。
これで宗二の倍以上生きているのだから驚きだ。
しかも宗二と春が所属する祓い屋、出羽組の組頭でもある。
「早速じゃが、お主たちには行方不明者の調査を頼みたい」
「なんでも皮切村―東にある小さな村―で行方不明者が八人でたらしい。一週間でだ」
その数字は余りに不自然な数字だった。
了解しました、と宗二と春は応える。
さらに話しをした結果、明日の早朝に出発することになった。
次の日―宗二と春は皮切村に来て早速調査を開始した。
「調査書は頭に入っているわよね?」
はい、と宗二は応える。
「八人とも年齢、職業、身体的特徴にこれといった共通点は無さそうですね」
「そうね…住んでいる場所も皮切村という所を除けばばらばらみたいね」
「特定の人物を狙っている訳では無さそうですね。ということは無差別な誘拐かそれとも獣か何かでしょうか?」
「獣だとするとあまりに痕跡が少ないわ。だけど霊能力が目覚めた獣なら可能性はあると思う」
霊力はあらゆる生物の中に存在していて、その中には霊能力を持つ生物も必然的にいる。
獣が霊能力に目覚めると統計上、他の生物を襲う確率が格段に上がる。
「誘拐の可能性も否定できないけど、どちらにせよやることは変わらないわ」
そうですね、と宗二は頷く。
「それぞれの最後に目撃された場所と目撃した人物に話しを聴きましょう」
調査書をもとに話を聴いてまわる。
一、二、三人目は有益な情報は得られなかった。
だが、四人目は違った。
「突然消えたの」
その女の子は宗二達の質問にそう答えた。
「ごめんね、最初から話して貰えるかな?」
「あのね、山で太郎くんと遊んでいたの。そしたらね、いつの間にかいなくなってたの」
行方不明者が消えた直前まで一緒にいた人物の貴重な証言だった。
「実際にいなくなった場所を教えてくれるかな?」
うん、と云って女の子は歩き出す。
ついてきて、ということらしい。
しばらく歩く。すると山の小道で止まる。
「ここだよ」
そこは木漏れ日が降りそそぐ杉の木に囲まれた小道だった。
近くに川があるのか水の流れる音がする。
特にこれといった異変は感じられなかった。
女の子を宗二が家に送るため春は一人現場に残った。
―霊力を探知しても効果無し…
一体太郎はどのようにして消えたのだろうか?
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