あまのじゃくの祓い屋

多々良礼次郎

第1話 盗族と祓い屋

 とある山中で盗賊が商人の馬車を襲っていた。

「お頭、荷物積み終わりました」

「遅えよ莫迦。どんだけ時間かけてんだよ」

 大柄の毛深い男―盗賊の頭―は苛立ちながら云う。

 部下たちはすいませんと口を揃えて云う。

「お頭、こいつらどうします?」

 部下の一人が商人たちを指差す。

「男だけだろ?この男と同じようにしてやれ」

 盗賊の頭は、足下に転がっている剣士の死体を踏んだ。

 商人を守るために雇われた剣士は、盗賊に真っ先に襲われ命を落とした。

 部下たちはそれぞれ凶器を手にする。

「お願いです。命だけは助けてください」

 商人の一人が命乞いをする。

「それはできない。お前たちを生かして返したら俺達の仕事がやり辛くなる」

「そんな―」

「お前たち、やれ」

 どんッ「ぐへ」

 部下の一人が変な声を出した。

「おいどうし―」どんッ

「おい、敵だッ」

 部下の一人が叫ぶ。

 視線の先には、白髪の少女がいた。

 絹のような髪は後ろで一つに結われている。

 桜色の着物に赤色の袴、腰には鞘を差している。

 着物には組織を表す刺繍されている。

「おい、こいつ出羽組の祓い屋だ」

「白髪に刀ー間違いない。こいつは月華のお春だッ」

「月華のお春って言やぁ、切り裂き魔の子五郎や巨人の弥助を一人で捕らえた、あの月華のお春か?」

「糞。なんでこんなところにいやがるッ」

 盗賊の頭は風呂敷を広げ臨戦体制をとる。

 月華のお春こと八色木春は盗賊達をばったばったと刀で殴り倒している。

 刀身は剥き出しだが殴っている。その事実に盗賊達は気付いていない。

 盗賊の半数以上を春はものの数秒で片付けた。

 すると、盗賊の頭が奇妙な行動に出た。

 部下の一人を風呂敷で包み始めた。

「頭、何を」

 盗賊の頭は部下を風呂敷で包むとそれを軽々と片手で持ち上げ、春に向けて叩きつける。

 春は刀で受け流す。風呂敷は地面に叩きつけられ、地面には痕が残っていた。

 風呂敷がもぞもぞと動く。風呂敷には血が滲んでいるのか、赤く染まっている。

「貴方、仲間を―」

「あ?部下をどう使おうが俺の勝手だろうが」

「―下衆が」

 春が斬りかかる。

 盗賊の頭は、春を近づけさせないために風呂敷を振り回す。

 約六十瓩の重さになった風呂敷は、当たったら先程の地面のようになってしまう。

 恐ろしい威力だ。

「それが貴方の霊能力ですか」

 ああそうだ、と盗賊の頭が応える。

「『袋貉』それが俺の能力だ」

 『袋貉』は、風呂敷で包んだ物の重さを無視する霊能力だ。

 この力は、盗賊の頭本人にしか作用しない。

 そのため六十瓩の物でも、片手で持ち上げることができる。

 ただし盗賊の頭以外には、六十瓩の物体でしかない。

 まるで手拭いを振り回すように、鈍器を振り回す。

 霊能力は、使う人次第で凶器になる。

 このような危険な霊能力者を捕縛するのが、祓い屋の仕事だ。

 いつも通りに春は集中する。

 自身の霊力を刀にも流す。霊力は揺らぐことなく静かに、それでいて素早く流れる。

 あまりに洗練されていた。

 春が真正面から六十瓩の嵐に斬り込む。

 「そのまま潰れてしまえッ」

 盗賊の頭が叫ぶ。

 春に六十瓩の塊が迫る。

 それでも春は眉ひとつ動かさない。

 

 一閃―

 

 風呂敷が斬られる。


 一閃―


 それで勝負は決した。

 盗賊の頭が刀で殴られ、背後の木に衝突する。

 盗賊の頭は気を失った。

「お頭ッ」

「おとなしく投降してください。手荒な真似はしたくありません」

「くそッ」

 部下の一人があたりを見渡し、突破口を探す。

 商人と目が合う。

 部下の一人は商人のもとに駆け出す。

 商人を人質にして、この場を切り抜ける気だ。

 しかし―

「ぐはっ」

 部下の一人の頭上から少年が落ちてきた。

 その少年は部下の一人を地面に叩きつけ、意識を奪う。

 少年の藍色の髪がなびく。

「遅いです」

 すいません、と少年は応える。

「それで、これ以上続けますか?」

 盗賊達は全員おとなしく投降した。

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