第5話 MRグラウンド
ミリアがそのグラウンドに立ち、首を回す周囲には、同じようなデザインのトレーニングウェアを着た人たちが集まってきている。
彼らは思い思いの様子で過ごし、先に集まった人たちを追うように歩きながら、友人と話したり、ゆっくりとした足取りの人はなんだか、だるそうだ。
そんな彼らから、ミリアはまた誰かに目を留めて、その彼らがいる様子を観察していた。
ミリアも着ている上下のウェアは研究所のリプクマから用意されたものだ。
セパレートタイプの白いインナーウェアは気にすると、少しだけ身体に張り付いてるような感覚がちょっとあるが、ストレッチをしても気にならないぐらい着心地は良い。
間違いなく多機能な高級なもので、そのインナーの上から少しゆったりとした動きやすいシャツとハーフパンツ、他の人たちも着ていて、おそらく違うのは色と男性用と女性用の多少のデザインくらいだ。
動きやすくて快適で『センサー』が付いたこれらは、運動中のデータを採るためにこのトレーニングホールの中では常に
このウェアを着ている、この場にいる全員、50人は軽くいる彼らがみんなそうなっている筈だ。
この広大なトレーニングホール自体が、巨大な観測装置の機能を有してるらしい。
そして、このトレーニングホールに1歩入る直前から私たちの動きは認識され始めているらしい。
身に着けているウェア一式を通して、手足の振り、頭の向き、身体の動かし方から心拍数、体温などの身体機能から、このトレーニングホールのどこにいるという位置情報さえ。
この広い空間の高低度さえも数値化されて、立体的にリアルタイムに記録されている。
私が今ここに立っていて。
その姿勢、いま腕を畳んで、両肩を動かして、胸を大きく広げるストレッチをしていても、全て観測されている。
これらのサンプルデータは解析・分析されて、《リプクマ》の研究所により人間工学の分野や
つまり発現現象への研究であり、公開情報も選ばれるらしいが学会などにも発表されるし、いずれは個人の状態に適した医療処置、回復・発現の安定化へのトレーニング法の改善などにそれらノウハウは役立たれる。
実際に、EAUに所属する人たちの中にはリプクマの病院で診療を受けた流れからEAUへ入隊する人たちもいて、活動をしながら治療を受けている人もいる。
そんな、私の周囲に立つ人たちの中には白髪の
以前、EAUの施設内で見かけた人もいて、傍の人と話していたり、周りの様子を気にしていたり、少しの時間を待っている。
中には自分たちと同じClass - Aの人も見かけるし、1度か2度見かけただけの人もいる。
なんか、不思議な感じだ。
ここに集まった人たちは、みんなEAUの隊員か関係者だから、当たり前なんだろうけれど。
ここにいるのは全員、今日の合同トレーニングの参加者たちだ。
「みなさん、小休憩を終えてトレーニングを再開します。」
拡声器を通した誰かの声が向こうから響いた。
「次は体力応用トレーニングを中心に続けます、スタッフを見てコース別にまた分かれてください。」
私の背丈では周囲に大きな人が多くてよく見えないけど、隙間から見える周囲と、傍のガイも見ている方向で推測はできる、みんなの前の方で立ってるコーチングスタッフらしきお兄さんの姿はちらっと見えていた。
彼はヘッドセットマイク、それから小型のスピーカーを装着しているんだろう、増幅した声は確かに彼の方から聞こえてきた。
「体力に自信のない人、初めてでちょっと自信のない人は説明も詳しくするので、いま手を上げた彼の初心者コースを受けてください、」
「また走んのかよー」
って、誰からか不満の声が出てるみたいだ。
『中級コースを選択する人は今手を上げた彼女の所へ集まってください。』
「まあ体力作りだもんなぁ、」
周りの彼らも振り向いて、知り合い同士の話し声も出てきているが。
スタッフの彼が話している間もだんだんと話し声は大きくなってきていた。
「・・えーと、上級コースより上は今手を上げた彼の方に・・・、」
「また基礎の続きでもするのか?」
「あぁん?どうなってんだ・・?」
「せっかくの合同訓練に・・・」
さざめきが途切れずに、ちょっとお兄さんが困ってきているみたいだけど。
「・・・えーみなさん。次は走るだけじゃありません。ゲーム形式のものを用意しました。」
はっきりわかった、スタッフの話す声が変わった、話す人が代わったらしい。
背伸びをして隙間から見えた、別の男の人が堂々と胸を張ってみんなへ、ARグラウンドの方へ手を広げて示す。
同時に、向こうのグラウンドのどこかが光ったような、照明が点いたのか一部の色が変わり始めた。
『おおお?』
ざわめきと驚きの声がちらほら混じる中で、ミリアもまた向こうを首を伸ばして覗き込む。
みんなも移動して広がっていって、そのグラウンドの光景が広がり見えてくる。
床からせり上がる土台やパーテーションなどが伸びてエリアを作り始めている、そのARグラウンドにステージが現れ始めて静かな駆動音と共に少し複雑なアスレチックエリアが組み上がっていく。
『みんなでポイントを集める協力対戦型アトラクション『チーム&シューター』、1人用の『タッチ&タイムアタック』、『アスレチック・ラン』の計3種をこれからプレイしてもらいます。』
拡声器越しの大きな声は堂々と伝えてくる、明らかに音圧が強くて周りから同時に聞こえたので、各場所に配置されたスピーカーに切り替えたのかもしれない。
「トレーニングじゃないの?アトラクション?」
「なにそれたのしそう」
「え、いまなにが起きて・・?」
「やっぱりなっ、」
「これを待ってた」
慌ててる彼らや、面白そうな響きを聞いて目を輝かすような、戸惑ってるような、そして、わくわくの人達もいる。
そして、数十秒後にはまるでステージが不思議な力で生まれたように、ポップなカラーと
ピンクのお花や緑色の葉っぱとか、ちょっと子供っぽいデザインのコースもあるけれど。
その隣ではテーマパークみたいなネコ目のくりくりした謎ネコのマスコットが『Welcome』と言っている看板が掲げられていて、明るい街を彩色したちょっとお洒落かもしれない夜の街のコース。
または映画に出てきそうな切り立った岩山を切り取ったサバイバルなコースとか、白色をベースに鮮烈な各色の光のラインが駆け巡るサイバー感溢れるコースなど、実に楽しそうなアトラクションエリアになった。
「たのしそー」
歓声が聞こえてくる中で。
「なんだありゃ・・」
傍の人は口をあんぐり開けて瞬いてた。
あれを初めて見た人は驚くだろう。
自分もそうだったな、となんとなくミリアも1つ小さく頷いてた。
『プレイしたことがある人もいるでしょうが、少し説明を聞いてください。
1人用の『タッチ&タイムアタック』のルールが少し改正されました。
簡単にルールを説明します。
『身体のみで速さを極めろ!高ポイントを稼げ!』というテーマに変更。
ポイントターゲットは1~5ポイントとなり、時間内に多くのターゲットに触れてポイントを取ってください。
EAU内ランキングも保存し表示されるので、ぜひハイランク、そして一位を狙ってみてください。
なお、注意してほしい点は安全と公平性の配慮のため、一部のアトラクションでは特能力の発現は禁止です。
確認された場合は減点扱いなど判定されますのでご注意ください。
プレイする前にルール等を事前にしっかりチェックしてください。
もちろん、減点になってもハイランクは狙えるので諦めずに挑戦してください。』
「こりゃぁ・・」
「やっべ、すごそう。」
「はは、なんだこれ」
「子供だましかよ」
「遊んでいいってことか?」
「トレーニングだろ?」
「勝負しようぜ、勝負、」
「新しいステージっぽいよな」
あっちの方に駆けてくワンパクな彼らもいるけれど。
『それから今回、要望が多かったターゲットポイントの見た目の種類も増やしました。
技術班の人たちに頼んだら、可愛いものなど増やしてくれましたので、開始時に好きなものを選んでプレイしてください。』
「わーい」
「やーっかわいいーっ」
ポップな色の森の中に出現したマスコットたちがステージ上で飛び跳ねて踊ってる、中には滑って転んだような猫のマスコットが、きょろきょろとしていたり。
「え、あれを叩くの?」
「触るだけでいいっていってたよ」
「もふもふしてるかな?」
「入口のナビはぷにぷにしてたよ」
「可愛くないのも出せるんだってさ、」
小さい子たちがなんだかお喋りしてるだけで楽しそうだ。
『ターゲットのキャラクターはどのステージでも自由に選択できるので、気兼ねなく予約してください。』
可愛いマスコットたちが踊る一方で、向こうではぼんやり光るガイコツたちが優雅にステップを踏んでコミカルに踊るライトホラーなステージもあるようだ。
「あれ全部ターゲット?」
「よくわかんねぇ」
「プレイするときはあれ、ドクロだけになる」
「え、頭だけ?丸いからか」
「ムダに凝り過ぎじゃねぇ?」
「EAUのマスコットキャラ作ってほしいよな」
「それな、」
「やる気ありすぎてヤバい」
周囲には彼らの戸惑いと混乱に、期待とか、色々な物が溢れているみたいだ。
正直、プレイ中に出現するターゲットの見た目は、単純な立方体の標的とかで十分だとは思うんだけれど。
遊び心と言うか、リプクマの技術者の人たちはこういうのも好きみたいで、毎回やる度にちょっとずつアップデートして増えていってる印象だ。
『ARの準備ができた。
やりたい人から好きなものの前に並んで待っててくれ。』
その声にまた人がゆっくり移動し始める。
出現したステージの入り口近くには大きく案内の文字が書かれていて、それを目印に歩けば大丈夫そうだ。
至る所でコーチングスタッフの人が拡声器越しに案内もしているし。
「あのモニタで呼ばれたらちゃんと来ること。
全員参加はノルマだ。
身体動かすのが苦手な人でもちゃんと参加してくれよ。
楽しんでくれればそれでいいからね。」
みんなが思い思いに動き出している中で、近くのスタッフのお兄さんの声かけも続いてる。
「待っている間は自由にしていてください。
ランニングなど、ウォームアップなど、この施設を自由に使って大丈夫です。
他に質問などあれば近くのスタッフに――――――
興味津々の彼らも、案内の人たちに従ってコース別に集まって行っているようだ。
――――そんな、みんながわいわい動き出している中で、ミリアは少しきょろきょろしていた。
「さて、どうしようか?」
隣のガイも同じことを考えてたみたいだ。
ミリアはとりあえず、歩きながら・・・もうちょっと、きょろ、きょろしてた。
いつものトレーニングとは、だいぶ勝手が違うのをガイも感じているところだろう。
「では始めよう。最初にやりたい人は入口へ、必要デバイスと防護プロテクターを渡すから、しっかり安全にね。」
「うぉっしゃ、」
傍を嬉々として走って行くグループの彼らがとても楽しそうだった。
ミリア達も、ちょっとステージの近くまで、とりあえず来てみたけれど。
そこでは参加する彼らがはしゃぎつつ、アトラクションの説明を受けている。
「レクリエーションだな。」
傍のガイがそう。
楽しそうなみんなの様子にまるで、ほっこり柔らかい表情でガイが言ってた。
「うん。」
振り返ってそのガイの表情を見たミリアも、頷いて、もう一度周りを見回してた。
合同訓練と言ってたから、正直、緊張感がある雰囲気でやるのかと思っていたのに。
いつもと同じような様子で集まってる彼らを見てると、なんだか安心したところもちょっとある、かもしれない。
まあ、この光景だけ見ていると、気難しそうな人とか、強面の大人な人達も多く紛れ込んでる、楽しいテーマパークに来てしまったような異様さだけれど。
楽しい雰囲気に、ちょっと残念感もある気はするのは、半分くらい。
たぶん、もう少しマジメな本格的なメニューを、実戦を想定したものが出てくるかも、と期待していたのかもしれない。
いつものトレーニングとさほど変わらない雰囲気というか、それよりも楽しそうな人達が多いかもしれない。
EAUでは軍部のような、限界まで追い込むような激しいトレーニングをした事がない。
必要かどうかはEAUの上層部が決める事だけれど、必要なんじゃないかなって、たまに思う時もある。
でも、ARのアトラクションがいかに面白そうで、キャッチーで、ファンシーなゲームの様相だとしても、指導側もちゃんと考えてるだろう。
たぶん。
訓練だし。
・・・ルール、まだちゃんと聞いてないけれど。
・・まあ、緊迫した様子でやるよりも、こういう感じの方が緊張せずにやれる人も多いだろう。
シャイなのか遠巻きに見ている人もいるみたいだし。
・・・遠巻きに見ている人たちは人が減るのを待っているのか、様子見か、このARグラウンドでのプレイの様子をモニタと共に観察をしているようだ。
みんなが皆、戦うためだけに訓練をしているわけじゃないのは知っている。
それに、あれだ。
私としては、知らない人たちもいるので、今回はその辺を観察できれば良い、・・・くらいかな?なんとなく今回のやる事は決まった気がする。
「けっこう可愛い子もいるな」
って、隣のガイがまあ、暢気っぽいけど。
横目のジト目になってたミリアは。
とりあえず。
「ちょっと走ってくる。」
ミリアはガイへ伝えて、グラウンドの方へ歩く足先を向ける。
流して走っている人たちも既に数人はいるみたいだから、そこに混じっても問題ないだろう。
周囲の人たちに見知った人は見かけるけど、話したことない人たちも多い。
彼らもやるんだろうから、それは見逃したくはないけど、先ずはウォーミングアップしないと良くないだろう。
走ってる彼らの中でも、足の速そうな人たちがいる。
体格が良い人も多いし、本格的のトレーニングを積んでいる人たちだろうな。
そんな事を観察しつつ、ミリアは少しの駆け足に切り替えていった。
―――――茂る木々が散る葉々に視界は一瞬狭く、自身の身体が通るには狭い場所を駆け抜ける青葉の擦れが耳を
まっすぐに進んだ、迫る垂直の壁、足を伸ばし側面に見えた取っ掛かりに、木の幹へつま先がかかる、力を込める―――――更に高い場所へ、跳ぶ、しなやかに伸びた体を、前の先まで伸ばして――――――・・そこに転がっていた《タヌキ》、見つけた、両手で目いっぱい身体を持ち上げ。
真っ直ぐに伸ばした手の平で《タヌキ》に触れた!―――――!光ったらスコアは加算、「っし・・っ」っと口から漏らす彼は、ブゥンンッ・・と、だが、周囲が赤くなったのに気が付いた――――身体を捻り方向を変える、そのままゴールへ向かう、だんっと床を踏みつけ、そのスピードで駆け抜けていった―――――
――――マットにぼすんんっ、と身体を埋めた彼は。
周囲がぴかぴか光って、イルミネーションと楽しい音楽で祝福してくれる。
ほへぇ~、っと一息を吐いた・・・――――――。
「おつかれさん、」
スタッフの彼が手を伸ばして、手で掴み返せば彼が引き起こしてくれる。
「スコアは?」
顔を上げて、近いモニタの方へ。
スタッフの彼も確認して。
「71点、キージェイ、」
そう、教えてくれた。
「いいスコアだよ、やったな、」
やり遂げた・・・んだが。
「・・えーマジでー・・・?」
落胆してた。
「平均よりも上だよ、自慢していいって」
スタッフの彼は朗らかに言いながら、彼が外すデバイスとプロテクターを一緒に手伝い回収していく。
「特能力を使っていいコースだからさ。自分のベストを更新するのを第一に、」
「ベスト更新してるじゃない、やったね」
スタッフの彼女に声を掛けられて、少し笑みを見せても、エリアから出て行く彼、キージェイは仲間を見つけて肩をまた大きく落としてた。
それから、向こうの様子に目を向けた。
「化け物がいるよな、あいつら・・・」
舌打ちをして、彼は向こうの光景を睨むようだった。
「あのレベルでそれかよ、」
「難易度高ぇなー、」
「よくやったぞー」
「くぁーっ、なんだあいつらぁー、90点超えてるぞー」
「これ100点以上いくのかな?」
周囲では、いろんな人たちが歓声と楽しむような声、応援などそれぞれの感想も驚きもが聞こえてくる。
「『タッチ&タイムアタック』は特能力は使っていいんだろ?」
「らしいよ、」
端っこに位置する初心者コースの集まりから、上級者コースまで、集まる彼らは外からそれぞれのプレイの様子を観覧していたり、順番を待っていたりだ。
「機動系じゃなければ60点以上行けばすごい、って感じじゃない?」
「それな、」
「初級の方でも60点超えているヤツいた。ピンキリだけど、」
「マジかよ、どいつだ?」
「機動系かも?」
「ほら、あの金髪の、ショートカットの、」
「女か?」
「50点超えれば、ぴかぴか光るみたい」
「それってクリア扱い?」
「30点でも光ってたよ?」
「ちょっと控えめじゃなかった?」
「やっぱ高得点を狙いたいよなあ?」
「それな、」
それな、とぴしっと両の人差し指で友達を指差す彼の傍では。
ラインの内側、充分距離がある距離内で4つ並んだコース内があって、どれもアニメっぽいウサギや犬のマスコットキャラなど、ターゲットたちが右往左往して思い思いのスピードで逃げまどっている。
それらを走って追いかけて頑張ってる彼らに声援を送ったり、派手に転んだ彼女に笑ったり笑われたりで、観覧中も楽しんでる。
「やっぱ可愛いのが人気みたいだよな」
「みんなああいうの好きだもん」
お祭りとかゲームとかで遊んでる、そんな感じだ。
それでも、少なからず悔しい思いをしている彼らはいた。
「あーー、ちくしょう、なんなんだあいつら・・・」
歩きながら苦い顔をする彼も、向こうに表示されたエキスパートコースを走る人間を見る―――――
―――――加速する、空中で、彼の足から青白い微発光が漏れ出る。
風圧を掻き分け更に加速する、体幹を崩さず彼は目の前に来たその羽の生えたカメを左手に触ると同時に、右腕と右脚を伸ばし広げる、それらは指先に青白い、風が僅かに纏うよう、散るように、溢れる―――――急角度で曲がった身体が、空中で蹴った左足の先が床を掴み、しなやかに加速する、その横を掠めて――――――軌道が青白く、空間に色づく――――犬の頭が彼の手に強く触れられて――――瞬間、身体が再び加速する―――――
―――――っしっ、今日は調子がいい―――――――
彼、ロアジュが口から零した声は、風圧の中で彼にだけかろうじて聞こえたのかもしれない。
「あいつ、ヤバくね?」
「おー、ロアジュー、Bの意地を見せてやれー」
「かっこつけても様になってねぇからな~」
「かわいいぞー」
「やっぱいっちばん速いんじゃねぇか?あいつ、」
「俺、他にも速いヤツ知ってるぜ」
「だれ?」
「ヴィドリオとか、他にも最近また速そうなのが増えててさ、競争させてみたいけど、」
彼、ロアジュのプレイを観賞している彼らがわいわいと賑わっている。
中には女の子たちも、きゃあきゃあ騒いでいて。
そんな彼らを見ていた2人組がいた。
「ロアジュが、ヤバい。」
「ああ、ヤバい・・・」
エリアの外近くでその動きを目で追っていた彼らは。
プレイしているロアジュの動きが更に速くなってるようなのを眺めながら、呟く。
「あれじゃあ・・・今日のヒーローになっちまう!」
「だな!」
彼らはその胸の内に、激しい焦燥感を抱いているようだった。
「なあ、フィジーもそう思う・・・」
隣で呼びかけかけたが、彼女、フィジーに至っては頬を紅潮させてるかもしれないで、いまゴールしてかっこよくフィニッシュを決めたロアジュのプレイに夢中のようだった。
「ロアジューっ、一位ー!」
終わってんのにまだ声援するし。
興奮しているのはまず間違いない。
「ダメだぞこれは、」
「ちくしょうっ、あいつが、あいつが、かっさらう・・っ・・・」
「待て、あれ!」
「あれ?・・あ、あいつっ・・!?」
そう、彼らは見つけた。
「す、すげぇ・・」
「ロアジュ迎えに行かないの?」
「へへっ、やるじゃねぇか・・・」
フィジーの声を全く聞いてない彼らを、気にしつつも向こうのロアジュがこっちを見たので、手を振るフィジーだが。
「おい見ろよ、あいつも凄いぞ」
「こんなんばっかりいるのかよ、やべぇな、EAU」
見ている彼らも驚嘆する、新たなヒーローを・・・。
「応援、してやっか。」
「だな、」
お互いの良い笑顔を認めて。
救世主に必死な声援を送る―――――。
―――――跳ぶが、まっすぐに―――――しなやかな腕を伸ばしたついでに、かっさらう様に触れたカエルの色が一瞬で変わる。
その瞬間にもいくつかの標的を見回しアタリを見つけている―――――足の先に引っかける床、靴と摩擦のブレーキが妙な音を出すが、その壁に向かって身体を捻り回転した彼は、両足を壁に、踏みしめ・・膝をぐっと曲げる―――――瞬間、真横に高速で跳び、加速した―――――ラッキー・・!」と、彼は口の中で呟いた、右手が標的のビーバーを触った直後に掠める左手で、丸いイノシシの背を撫ぜた――――宙でしなやかに一回転しながら踏みしめた床に、次の丸いネコへ、ぽんと手を置いて。
狙ったヤツらプラス1匹がいて、ラッキー。
―――ちょっと覗き込む、丸っこいなこのネコ、と顔を寄せてじっと見たが、それも1秒に満たず―――――次の標的を首を一回振って探し――――――跳んだ、狙い通りに加速して―――――
「おー、すげぇな、一位だぞ」
「どんな点数出してんだ、」
声を掛けられ注目される中を歩く彼は。
・・彼は、天井を見上げてた。
見上げながら、歩いていた。
「ぁ~・・・」
10M以上はある、照明が明るい。
なんか、天井の方まで、跳びたくなってきた。
「よー、ヴィドリオー、」
肩を叩かれた。
「あん?」
「一位だなー、おめでとー」
顔見知りのそいつらだ、わざわざ言いに来てくれたのか。
「ああ、あんがとさん。なんで嬉しそうなんだよ?ラッドも、ニールも、」
「あれ?俺らの事知ってたのか?」
「まあ、聞いたことある」
「俺らもそんな有名になったか?」
「どんな噂だ?」
「・・・・」
「なんか言えよ。」
「待て、これは追及しちゃいけないヤツだ」
「む、そうだな。噂になっているって所で止めておく。」
「バカ騒ぎがするのが好きな」
「言うんじゃねーよ馬鹿野郎」
「なんだそれ、バカ騒ぎって」
「で、なんで俺に?何か用か?」
「いやー、お前のお陰だって思う所はたくさんある。」
「なにが?」
「ロアジュよりも高得点だもんな、ははっは、」
「ロアジュ・・はぁん?こういうの得意なんだ。つうか、あいつ抜いたか、」
「ロアジュも知ってんのか。」
「お前はロアジュ抜いたぜ、はっはっは、ざまぁみろ」
「それで嬉しそうなんか。だからなんでだよ。」
「いいじゃんか。なあ、お前もA行ったら、めちゃめちゃ活躍するんじゃないか?」
「A?・・俺はあんまり興味ないけどさ、もうAでやってるヤツいるだろ?」
「ん?」
「そりゃいっぱいいるけどさ」
「俺らと同年代のあいつ」
「ケイジか?」
「いや違う。つかあいつ・・・あ、そいやあいつもAに行ったんだったっけ?」
「知らなかったんかよ。」
「話したことねぇし、」
「そいや、あいつ今日はいねぇな?」
「いないのか・・。お、いた。あいつだよ、今からやるんじゃねぇのか?」
ヴィドリオが指さすのは、ステージの1つだ。
そこに立つ、腰を回してストレッチしている青年がいる。
「あ、リドックか。まあジジナー隊だもんな。すげぇよな。」
「それは凄いけどさ。さっき見たら、お前らの記録より下っぽいぜ?」
「俺と、ロアジュか?リドックは現役のエースチームだろ?」
「エースは言い過ぎじゃね?まあ、お前ら程じゃないけど、」
「他にも凄いのいるよな。」
「俺らも初めて見たし、間近で本気のあいつら。」
「まあ、ロアジュは2位だし情けないよな、はっはっは、」
「へー、」
ヴィドリオは、向こうのリドックのプレイを見つめていたが。
悪くない動きには見える、が、どこかぎこちないようにも見える。
「本気出してないのかもな・・」
次のターゲットの動物を探しに首を振る時とか、何度か首を振ってから飛びつくようだ。
「ロアジュ3位にならねぇかな?」
「ロアジュに会いに行こうぜ、な?」
「あいつどんな顔するかな?」
「フィジーなら勝つかもしれねぇな」
「次はあいつ応援するか。」
「お前らの噂はやっぱり正しいよな。」
「ロアジュに世間の厳しさを教えてやらねぇと、」
「あんま言い過ぎるとロアジュにどやされんじゃないの?」
「今んとこ一位のお前と声掛けに行けば、あいつも何も言えないって、」
「だっはっはっは」
何が面白いのか、ラッドたちは笑っちゃいるが。
「あんまり調子に乗ってんじゃねぇぞ。」
と、低い声が傍で聞こえた。
びくっとして振り返れば、頭一つ分はでかい横にも太めの図体のひげ面の男が見下ろすように・・睨んでいたのかと思えば・・・ニッカっ!て愛嬌のいい笑顔になった。
ヴィドリオたちは瞬いたが。
・・・だれ?と、仲間たちに目線を送るが、彼らもキョドっているだけだ。
「まだまだ頑張れよっ」
なので、大きな声の知らないおっさんだ。
「お、おぅ・・」
「ぅっす、」
生返事をした彼らに気づいてないのか、そのまま向こうへのっしのっしと歩いて行ったが。
なんとなくそのでかい背中を瞬いて見送ってた彼らだった。
「誰・・?」
ようやく口を開けたヴィドリオに。
「さあ・・?」
他の彼らも顔を見合わせて、瞬いてた。
――――――よお、バーク。どんな調子だよ」
「ああん?いいよ、いいよ?」
そう、近づいてきた彼、バークはどっかりと傍の段差に大きなお尻を下ろす。
「使えそうなヤツはいるか?」
「あー・・・。すばしっこい奴らは多いようだがよ、実戦でどれだけ使えるかってのがわからねぇえ。やっぱ射撃訓練は必要だろう。」
「ちょお前、声がでかいんだからさ。ひそひそ話しろよ、そういうの」
「ああん??声抑えてるがよぉお?」
「いいや、話題を変えよう、そっちのが早い。」
「あぁんだとおぉぅう?」
「うるせぇって、」
「射撃訓練は定期的にやっているからデータがあるって言ってたろ」
「だっけか?ぬぁっはっはっは、」
「とぼけんな」
「そいやリドック、あいつどうした?結果があれじゃClass - Aがナめられたままだぞ」
「どーせピンキリだし、」
「あいつな、自分から言い出したのにな、」
「Aには他に速い奴らいるだろぉお。アイフェリアの所にいなかったか?」
「流石に生粋の機動系には負けるだろう」
「これからBの奴らに言われ放題だな、へっへ、」
「リドックに酒でも奢らせようぜ」
「お、それしかねぇな、」
「はっはぁ、」
「お、噂の、」
――――ふらふら気の向くまま、歩いて戻ってきた青年に気が付いた彼らは。
首周りをこきこきしながら、ぐりぐりん解しながら、見るからに『あっれぇ、おっかしいな~』って身体で言い訳を表現しているようだ。
「よおぉ、リドォックっ」
「あ、どーも、つうかバークさんもいんの?」
「よおリドック、お前いま5位まで落ちたぞ。」
「あはは、ダメだったなー」
他人事のように笑いながらどっかり横に座るリドックだ。
「自分で笑ってるなよ。」
「自分でやりたいって言ったんだろ、」
「これ俺の?」
「おう、」
段差に屯う彼らはのんびりと、ボトルの飲料水を口に付けて飲みながらだ。
「情けねぇえな、周りでもわーわー言われてたぜぇえ?」
「いやー、思ったより速い奴らもいるんすねー。でも1位を取れなんて言われてないっすよ。」
「やるからには1位だろう!」
「えー、ねぇ、ジジナーさん?大丈夫っすよねぇ?」
そう、話を振られた・・腰掛ける彼らの中にいた、その物静かな男は、口を開いて静かに低い声で応える。
「ああ、問題はない。」
「ほら。ジジナーさんもそう言ってる、」
「とりあえず酒を奢れ、」
「なんでですかっ?」
「下手かよ、」
「あ、またなんか示し合わせて、」
「まあ、ロアジュとかヴィドリオの野郎に勝てるわけいないもんな、あいつら速さならEAUでも1、2を争ってるんだろ?」
「え、ああ。まあ聞いたことありますね、そんな話、」
「そんな速いのか?」
「動ける中ではそうなんじゃないか?」
「でも見る限り、直線の速さだけだぞ?」
「ロアジュは小回りが利きそうだが、重大な弱点があるみたいだしな、」
「ヴィドリオは直線しか見えねかった、まあうまくやれば脅威だけどな、」
「したり顔しちゃって・・、」
「はっは、ムキになんなよリドック」
「そいや、新入りにも機動系がいたはずだけどな、あいつ出てねぇのかな?」
「あの生意気そうなヤツか、さっき遅れてきたの2人しかいなかったよな、」
「あのチビか。たしかミリアとメンバーだな。他の奴らは、サボりか?」
「ふてぇ野郎だ」
「つうかリドック、いま6位になってるぞお前、」
「ああやって記録に残って行くんだよな。」
「もういいから自分で出ろよー」
「はっはっは、」
「あんな奴らなんかの同じ土俵に出るわけねぇ」
「全員参加だろ?これ、」
「あー、みんなに見られてると緊張するなー」
「だっはは、」
「俺、腹痛ですって言ってこようかな、」
「学生かよ、」
笑う彼らに、・・物静かなその男、ジジナーも少しは頬を移していた――――。
EAUの特能力者の人たちは、中には凄い能力を持っている人たちもいるのは確かだけど。
その、なんというか、性格とか、そういうのが、暢気な感じの人たちも多い。
発現する能力が凄くても、性格が軽いというか。
凄い特能力者も多く集まるEAUで、ベテランとの大きな差が存在する理由はこれだろう。
中には、性格が戦闘員としては合わない人たちがいるから。
その理由も何となくわかってる。
ついこの前まで一般的な生活をしている人たちは、急には変われないからだ。
もし、一週間前にEAUになったとして、その一週間後にはその生活習慣も考え方も、急に変わるなんてことはほとんど少ない。
軍部みたいに激しいトレーニングを受けさせれば、人格を強制できるかもしれないけれど。
EAUではそのようなやり方は無い。
特殊な訓練を受けた元・軍人の人たちもEAUにはいるけれど、それ以外の人たちも多いのだ。
特に、
そういった能力が無い人たちから如何に神秘的な力だと思われても、本人たちがそう心理的に考えているのは研究でもわかっている。
呼吸をするように、手を動かすように、歩くように、特能力を扱える人たちがいる。
彼らは当たり前にそういうことができる、と過ごしてきた記憶に刻まれてはいる。
ただし、日常生活を送る上で必要ないことも多くて、自分のできる限界を知らない人も多い。
それは、本人であっても知る機会がほとんどないからだ。
それは、能力を伸ばすならトレーニングは必要ということだ。
だから、彼らは個性を日々伸ばす努力をしている。
もちろん、元々有している発現効果の違いはあるけれど、それでもトレーニングでより効果的に伸ばせる部分がある。
まあ、それでも『ケイジみたいなの』がいっぱいいても困るけど。
隊長の言う事を聞かなかったり、チームでの連携が取れないとか、考え方以外にも、自分の力を制御できなかったり、特能力者は彼らの周囲に与える影響は良くも悪くも大きい。
ガイがさっき、大きな音がしたとき、少し警戒したのを覚えている。
近くの私に身体を入れて、守ろうとした。
それは、きっと、ガイも少し警戒していたからだ。
一番気を付けなければいけない事は、この場所では特能力の発現が『許される』環境が整っているということだ――――。
何が起こるかわからない、かもって思う事。
特能力者たちがたくさんいる環境。
それに慣れること自体が今回のトレーニングの狙いの1つにもなる。
まあ、今ここにいる彼らはトレーニングを積んできて認められた人たちで。
入隊したばかりの素人じゃないから、危険性の心配は要らないと思うけれど。
滅多な事は、簡単には起こらないと思うけど。
彼らも、常識的な生活を送っている人たちだから――――。
『呼ばれた人ら、集まってくれー』
向こうから大きな声が響いて聞こえてきた。
連動した大きなモニタに表示される、現在プレイする人の様子が映像に、それから登録された名前が連なっている。
言っていた通りにランキングで上位が表示され、いま1位なのはヴィドリオという人だ。
さっき1位になって、どよめきが起きたのは見た。
彼がどのClassの人かはわからないけれど、優秀な機動系の人だというのはわかる。
今回のトレーニングはアスレチックタイプのものが多いので、機動系や身体を動かすのが得意な人達が活躍するだろう。
あとは体力勝負か。
・・スタート地点ではデバイスを装着しながらの4名が待機している様子が見えた。
身体をぶらぶらさせたり、ほぐしていたり、軽いジャンプをしていたり軽いストレッチをして。
グラウンドで軽く流してランニングしながら、何とはなしに、眺めていたけど。
思ったのは、まるでステージの上でショーみたいだな、って。
ステージの上でみんなが、みんなに見られながら競い合う。
誰が凄い、上位は誰だ、ってみんなに見せるような。
みんなにも用意されたトレーニングウェアは、モニタリングされていてちゃんと研究データは採れてると思うけど。
みんなで盛り上がるのも、今回の合同トレーニングの目的の一つなのかもって思った――――――。
――――グラウンドの床を軽く、とん、と蹴る。
身体が跳ねるように前へ跳ぶ。
靴底の足の裏から床の感触を感じて。
自分の身体の重みに返して、また、蹴る。
軽い微風を頬に感じるよりも。
身体の奥から少しずつ温まって来ているのを感じる。
軽く流して。
1つ、1つ、感覚を確かめる。
感触に返す筋肉に力が繋がり入っていく。
身体のどこにも問題は無い――――
「よー、」
聞き覚えのある声が後ろから。
傍にガイと、ガーニィも来ていて、後ろから追いついてきたようだ。
「・・ども、」
声を掛けてきたガーニィに、私は頷いて返す。
ランニングしている彼らもウォームアップしてるみたいだ。
「でさ、
傍で彼らが話の続きを始めている。
お喋りが好きなガーニィは、ガイとずっと話していたみたいだ。
「EAUに?」
「いやいや。元々、CとかからAへ結構異動するって話が出てるらしくってさ。」
「Cから?研究組の?なんで?――――」
――――ミリアは、てこてこ走る。
自分のペースを保ちつつ。
既に身体は少し温まって、トレーニングウェアの触れていない顔や腕が汗ばんできたかもしれない。
ガイとガーニィたちの会話はちょっと聞きながら、ペースを合わせつつ。数人が走るグラウンドで、呼吸を、感覚を確かめながら、走り続けている。
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