第4話 合同訓練

 微風を浴びて、いている道路を走る3輪スクーターはプリズム色の空の日差しから。

スクーターに乗っている運転手のミリアと後部座席のガイがそのスピーカーから流れる音楽を聴いて、流れる景色を眺めていた。

たまに日陰の傍を通って走るスクーターと、微風の速度だ。

動く景色もあいまって、2人はのんびりとした時間を感じている。

スクーターに付いてるコンソールには、音声のみの公共のラジオからニュースや音楽が聴ける機能もあるけど、ふと、なんとなくミリアはこの気ままな風なドライブに合うような音楽をライブラリからちょっと探して、チャンネルを回し始めてて。

「合同訓練はこれで3回目くらいか?」

ガイがそう、後ろでくつろぎながら聞いてきた。

「そうだね」

ミリアは良さそうな曲が出るまでイントロを聞いては回してる。

「いつもの訓練場だと少人数の体力トレーニングか、サバイバルゲームか、D棟の怪しい実験の手伝いだもんな、」

「だね、」

「・・今回の合同訓練は規模が大きめらしいだろ?聞いた話だと、ベテランや上のクラスの人たちも来るみたいだ。」

ぴく、っとミリアがその手を止めて。

「噂は聞いたことあるけどさ。近くで見た事ないから、楽しみだよなぁ」

・・ミリアの手が落ち着いたのは、この爽やかなギターの音と伸びやかなボーカルのハーモニーだった。

「ふむ、」

ミリアもちょっと鼻を鳴らして、その音楽はそのお耳にかなったようだ。

「お、『ア・ミュデュゥ・デイ』か。」

ガイがちょっと嬉しそうだった。

ミリアはちらっと、ガイを肩越しに見たけれど。

「この歌好きなのか?」

って、聞かれて。

「さあ?知らない。」

肩を竦めるミリアは。

「ま、良い曲だよな」

って、ガイは鼻歌交じりに背もたれに寄り掛かってた。

日陰の傍はスクーターも、ミリアもガイも影の中に流れ、また光が滑り出る。

そんな景色の中で、なんとなくミリアが思ったのは。

ガイがそういう風に言うってことは、これは有名な曲なのかもしれなかったんだな、ってことだった。


そんな音楽も3曲目に行く前に道路の途中を曲がって、ある大きな建物の中層の入り口前に到着したスクーターはその脇を通って、それから指定の場所へ駐輪する。

ステーションで降りたミリアは、ハンドル近くのコンソールのパネルを指で触れて。

スクーターが自動的にゆっくり動き出す、フロント部分の装置が指定の場所へ真っ直ぐに移動し、はめ込む場所に入るとステーションの個別装置が動いて、カチンとちゃんとロックされる。

スクーターのランプも消えて、スリープした。

ステーションが管理しているスクーターは、また別の人たちが使うまでエネルギー補充を始めているはずだ。

一応、目視で確認したミリアは、降りていたガイと並んでその大きなビルの入口へ歩いていく。

周囲の並木を目の端にしながら、視界に入ったベンチに座ってる人がパンを食べている。

飲み物も傍らに早めの昼食か遅めの朝食、いや、おやつかもしれない。

彼が気が付いて目が合う前に、ミリアは前を向いて。

ちょっとした段差の階段が正面、その傍には近いちょっとしたスロープがあって。

歩くままちょっとだけ、どっちで上がろうか考えたけど。

ガイが階段へ向かっていたので、ミリアもそっちへ自然と足を向けてた。



入り口のガラス張りのドアが自動で開いた。

中では清涼な空気を感じれて、整然とした小奇麗こぎれいなビルのロビーを通る、周囲には待ち合いスペースなど受付カウンター、売店などに人が見える。

昼時よりも前の時間なので少し閑散としているが、ここで働いている人たちがちらほらいるその中へ混ざって行くミリアたちだ。

ちょっと見上げれば、吹き抜けになっている2階の一角の喫茶店のテーブルに休んでる人も見える。

快適なそんな屋内を横切ってミリア達が歩いていくのは、奥だ。

通路で職員の人たちなどとすれ違えば、こちらを見る視線には気が付いていた。

職員用の通路ではいくつかのパスゲートを通り、ロッカールームやシャワールームなどが集まっているドレッシング身支度エリアの前に辿り着いた。

ここにはまだ数えるほどしか来たことないので、1人で来たら案内コンソールのお世話になりそうだ、と最初に来たときに思ったことをミリアはまだ覚えている。

壁に案内なども出ているので、迷うことも無いけど、たぶん。

ガイが先に入っていく後ろで、ミリアは少し中を覗くようにして入っていった。

休憩スペースにもなっているそこは、中心に観葉植物の小さな庭に囲まれた大きなモニタがあってニュースなどの映像が四方から見れるようになっている。

ベンチに座って待ち合わせなどもできるのだが、今は人はあまりいないようだ。

「先に見る。」

ガイが先に立つ、入り口の横に設置された関係者用のアクセス端末に簡単な操作をして、今回の自分たちに用意されたロッカーの場所が地図に表示されるのを見てる。

ミリアはまた少し周りをきょろっと見回してた。

特に目を留めるものはなく、大きなモニタにはニュースの合間のCMが流れているようだった。

ちなみに、その小さな庭の植物は当然、人工ものだ。

土とか世話とかコストがかかり過ぎる本物を維持できるのは、自分の庭を愛する本物のお金持ちくらいらしい。

まあ、こんな庭を造りたいとは全然思わないミリアだけれど、お金かかるだけだし。

「OK」

ガイが、それからすぐに終わって、入れ替わったミリアも同じようにカードをコンソールへ認識させて、自分のロッカーの場所を見つけたら場所や番号を覚える。

閉じてベース画面に戻すと、セキュリティを兼ねたそのカードをポケットに仕舞いながら、またロッカールームの方へ少し進む。

すると、男女別に分かれている道がすぐ見えてくる。

「じゃ後でな」

「うん」

ガイとミリア、2人は短い言葉を交わし、別々の自動ドアを開いて部屋の中へ入って行った。


ミリアが進んだ先は女性用のプライバシーエリアになっていて、ロッカールーム、シャワールームにレストルームなどもあるスペースに繋がっている。

ミリアは歩いて、女性用のロッカースペースまで来ると、自分用の番号を探して。

さっき見た地図にあったロッカーに近づくとアンロック解錠の小さな音、ポケットに入ったカードに反応したのを聞きながらロッカーに手を伸ばして開けた。

中には、既にEAU側が用意した本日用の装備一式、トレーニングウェア

、シューズやリストバンドにはバイオリズム分析用の特殊な統合装置が付いてるらしく、他にアイウェア - デバイスなどがあり、それらを手に取ってサイズ確認してから、ミリアは着ていたシャツに手をかけた。

シャツにズボンを脱いで伸びる素材の上半身に膝上までのパンツを着ればちょっと体に吸い付くような感触があって、でもあまり圧迫しない着心地が悪くない専用のアンダーウェアに着替えていく。

吸汗・速乾・身体データ採取など、いろいろな機能が付いているから、たぶん高級なヤツだ。

その上から、ラインの出にくい運動用のシャツにズボンを履いていく。

ミリアはシンプルな格好で来たので、着替えは手早くできる。

その合間にもミリアは周囲をまたちょっと見回してた。

この女性専用のロッカールームでは、今はミリア以外に3、4人くらいがベンチに座って休憩していたり、私服に着替えていたりとそれぞれの様子だ。

白く明るい照明で満たされているし、窓の外には観葉植物が生い茂って、小さな庭のようになっていて、っていう大きなモニタの映像なのだが、そう見えるように絶妙に配置されてるし高解像度なのでとても綺麗だ。

その綺麗な緑の庭には進入できないし鑑賞するだけなのだが、そういうものがあるのはなんとなく気に入ってるし、なんとなく高級で立派なところにいるんだなって思わせられる。

ベンチの彼女たちも友達と少し笑みを交わして、リラックスしているようだった。

ちなみに、シャワールームでシャワーを浴びた後は無料のタオルとドライヤーを使っていいのが、地味に嬉しい。

売店などに必需品も売っているし、忙しい研究者なんかは泊まり込む人も多いみたいだ。

ここのビルで働く人たちにはいろんな仕事があって、私たちのように体が資本のエージェント、研究に協力するEAUの隊員の他にも調査員やバックアップ要員など、研究職の人だったり、事務職員やメカニックの人たちなどもいる。

会ったことがない人たちも、リプクマには無数にいる。

それだけ大きな組織だ。

そして、彼女たちはちらっとこっちを見たりする視線にもミリアは気が付く。

なんとなく、彼らの注目を自分たちEAUが集めているのは知っている。

なぜなら、『EAU』はリプクマの新しく踏み出した1歩であるからだ。


着替え終わったミリアは、上着のファスナーを最後まで締めて、ロッカーを閉じる。

胸を開いて四肢の筋を伸ばしつつ、動きが阻害されないか、忘れ物がないか確認しつつ。

まあ、忘れるほど物を持って来ていないミリアがカードをポケットに入れて、離れたロッカーは自動的にロックされてモニタの色が変わった――――。



 『EAU』が設立するまでは、リプクマは特能力発現に関して独自の研究フィールドが狭いと感じていたらしい。

一般的に手に入る学会論文やそれに付随して公開される医療データの反復、他には病院としてのリプクマから得られる発現患者の限られた有志による協力、それらは主に治験の域が多いアプローチしかできなかったらしい。

だから、更なる可能性・創造性の研究のために、EAUが設立されることになった。

研究者の人たちが思う存分のアイディアで特能力者と触れ合える場を、どんな無茶でも応じてくれる、というのは言い過ぎだけど、だいぶ柔軟に対応できるようになって。

それは素晴らしいことになった、って。

これも知り合いの研究者の人が言っていた事だけれど。

『どんなアイディアにも付き合ってくれるのが素晴らしい。』って。

ここにいる人たちの情熱は本物だと思う。

研究者に追いかけられるケイジが逃げ出してるのを何度か見た事あるくらいだ。

最近は落ち着いたらしいけど、私たちと組む前はもっと酷かったらしい。

今でも虎視眈々と狙っている人がいるくらいだし。

ケイジは研究者にモテても嬉しくないらしい。

それに、それだけケイジの能力はちょっと特殊らしい。

よくわからないけど、発現メカニズムがはっきりわからないらしくて。

だから、研究者にとっては魅力的なのだろう。

よくわかってないものは、彼らにとってすごく美味しいらしいから、色んな意味で。

他の『EAU』のメンバーもそれくらい熱烈に追いかけまわされている人もいるかもしれない。

まあ、でもそれが『EAU』の仕事の1つだから、私には助ける事もできない。

―――――と、ミリアがロッカールームを出て男女共用のスペースまで来ると、ガイがもう既に待っていたらしく、こっちを見つけたガイがちょっと微笑んでくる。

見つけたミリアはちょっと口を閉じると、それから出入口の方へ向いて歩いていく。


横に合流するガイと共に、今日の訓練場所へ向かう。

気が付けば、少しとくん、とくん、と胸が鳴っている。

それは、緊張しているのかもしれない。

・・通路をすれ違う研究職の彼らは今日も、ノート端末を持って忙しそうというか、常に何かを考えているかのような、考えるのに夢中みたいだった。



 白色のセキュリティゲートを抜けて、セキュリティチェックなどが詰まったその短い通路の先にあるドアが自動で開く。

その隙間から徐々に広がる眼前には、室内の広大なトレーニングホールがあった。

ここは、このビル内に構成されたトレーニング・スペースだ。

ホールの一角にはワーキングアウト機器が集められたスペースがあったり、ホール内の中心辺りに広がるスペースはMR複合現実シミュレーター・グラウンドなどもある。

いくつかの施設を複合させた広場であって、様々な目的で利用できる。

元々は病院の多目的施設だったものらしいが、『EAU』を創設するにあたって施設を拡張したらしい。

だから、普段は病院のリハビリ訓練に使われていたり、たまに職員たちによるスポーツ大会も行われているらしい。

どんな感じなのかちょっと興味があるけど、それを誰かに言った事は無いミリアだけれども。

その見渡すほど広い空間では、既にトレーニング機器を使っている人たちもいるようで、同じような格好をしているからEAUの隊員なのだろう。

ざっと全体を見て、40人、50人といったところか。

他の場所に、コーチやスタッフらしき人たちを前に、集まって何かの説明を聞いている人たちもいるし、このホールにいる全員がEAU用のウェアを着ているようだ

っどぉおんっ・・っと響いた、音が、広いどこかで衝撃音が鳴ったのが、・・緊張してミリアは音の出どころへすぐに顔を向けていた。

――――そこには壁を跳んで、今も壁に張り付くように駆ける、訓練をしているらしい人たちが数人いて。

ボルダリング壁上り用のものに似ている小さな足場で、遊んでいるかのように跳ぶ姿は、競い合うように体格の大きな人と小さな人たちが――――。

「おい!メェッツ!危ないから接触は避けろ!」

って、大声で聞こえて、たぶん誰かが叱られている。

高所の方で肩を竦めて見下ろしているのが叱られた人かもしれない、大きな体格の人だけど、一瞬で頂上まで腕を使って上ると、そこからそのまま飛び降りる。

10Mはある高さから、まるで子供みたいに両手足をジタバタさせて、空中でバランスを取りながら。

どぉんっ、って床に降りたら、詰め寄ってきたコーチにまた叱られてるみたいだった。

「おー、楽しそうだな」

ちょっと身構えていたガイが暢気のんきになって、そう言ってたけど。

ガイが、私の方へ手を伸ばそうとしてくれていた、身体を入れて備えようとしていたのは目の端に見えていた。

それより、向こうの少し騒がしくなった方では、他の人たちは防具と事故防止用ロープは付けてるみたいなので、機動系の訓練を始めたばかりの人たちと、ロープを付けていないこなれた感じの人は背が高いのか、コーチに呼ばれた模範役か、ヤンチャな人なのかもしれない。

遠いけど、彼は注文を付けてたコーチらしい人の肩に、静かに手を置いてた。

コーチを宥めたのかもしれない、よくわからないけど。

なんだか余計に怒らせてるみたいだけれど。

周りできょとんとしている人たち、若い人も多い彼らはいわゆる、EAUの卵みたいな人たちで、訓練生である彼らは反復練習で動きを体に覚え込ませる時期だ。

「訓練ならちゃんと想定した動きをするべき」

端的にそう言ったミリアに。

「ま、そうだな。」

同意するガイだ。

何も考えずに動けるようになれば、それが彼らの安全につながる。

まあ、今私たちが向かうべきなのはあそこの訓練生の集まりじゃない。

『あれ』をクリアしてきた人たちがいるクラスを探して、ミリア達はまた歩き始める。


向こうの広いグラウンド近くでストレッチをしている集まりは、見た事ある人も混じっているみたいだから。

「今は休憩中か?」

「かな?」

ガイの声に頷くミリアは向こうへ足を向けていた。

途中、そこにノートを持って立っている、全体を見ていたようなスタッフらしき人がいたので、ミリアは彼に声を掛けた。

「遅れました、ファミリアネァ・Cとバグアウアです。」

「ファミリアネァ・・、ああ、25番隊、《Classクラス - A》。聞いてるよ。あのディラッコフ・コーチの班にそのまま合流しちゃってくれ。今はまだウォーミングアップ中だ」

「はい」

どうやら当たりのようだ。

誰かがこちらへ気が付けば、視線はこちらのまま隣の人と話し始めるような。

ミリアはそれを気にせずに、言われた方へ歩き出す。

同じように、こちらを見て話すような、そんな人たちが何人かいるようだ。

何かが噂になっているようだ。

まあ、心当たりはある。

きっと『あれ』のことだろう。

さっき呼び出しをした主任や、アミョさんとかは機密だからなんとか、って言ってたけど。

あの事件は、とても大きく広がっていってるのかも。

ちらっと、近くの人を見たら目が合って、彼女はちょっと驚いたように、瞬きしてた。

やっぱりバレてるんじゃないかな?って思ったミリアだけど、そのまま横切って行った。



ランニングロードや、ホールが広いので集まる人数はちょっと少なく見えるけれど、

周りで軽いランニングで流していたり、ストレッチをしている彼らもいて、その性別も年齢もばらばらだ。

線の細い若い人達もいるし、筋肉が盛り上がるほど鍛えられた身体の人たちもいる。

少年も、少女も、そして屈強な男の人も、女性も、混じっている。

EAUは軍隊じゃない。

入隊条件は求めるか、求められるか、で。

自分で入隊を求める場合は、多様な試験に合格すればいいらしい。

だから多種多様な個性を持っている人達が集まってくる。

彼らは仲間だ。

ただし、見た事が無い人たちが多くいる中を、私たちは進んでいく。

ノートを手に持っていたりする人たち、スタッフらしき人たちがいる様子が目の端に留まった。

「あれコーチかな?」

「そうだな。ツェンさんもいる。」

指揮を執ってるコーチ陣も数が多いみたいで、普段会わない人達もいるようだ。

ミリアたちは彼らの中の顔見知り、コーチのツェンさんの前に来て報告する。

「25番隊のファミリアネァ・Cとバグアウアです。遅れてきました。」

「お、お疲れさん。今は訓練の、給水タイムだ。すぐに再開するからストレッチをしててくれ」

「はい」

動きやすいトレーニングウェアのミリアもガイも、邪魔にならない場所を探してストレッチを始める。

ミリアは全身を、腕の筋を伸ばしながら、周りを少し見ながら。

休憩中ともあって楽しんでいる雰囲気や、話をしているだけの人たちも多いようだ。

でも、自主的に体を動かしている人たちもいるようだ。

運動慣れしてそうな人達もいて、それから、・・・向こうに屯している人たちの雰囲気に目を留めていた。

大きな身体の人たち、立ち姿から、女性もいるけれど、体つきもみんな締まっているようだ。

どこかで見たような・・・、彼らには独特な雰囲気を感じた――――。



――――あいつらだろ。」

「何が?」

タオルをそこへ持ってきたばかりの彼が、そこの手すりに掛けた。

「今来たあの2人。ジジナーさんが向こうで見たって言ってたの」

「ブルーレイクの件か。あいつら、いい仕事したらしいじゃねぇか。」

「ジジナーさんが褒めるなんて珍しいしな」

「ありゃ褒めてたのかねぇ・・?」

「あの人無口だからさ、わかりにくいよな。」

「《Classクラス - A》に来たばかりのルーキー新人たちに、だろ?そりゃ褒めてるさ。」

「4人いるんじゃなかったか?残りの2人は?」

「周りにいる奴らは?」

「ありゃ違うな。黒い髪の、ケイジっつうヤツが生意気なんだ。」

「前、ヴァッソさんのとこに居たやつか」

「怪我でもしたか?」

「現地の傭兵共ともやりあってたらしいな」

「なんで?」

「詳しくは知らねぇ。」

「全員生きてると聞いてる。」

「そいつぁ良かった、挨拶ぐらいはできそうだな。」

「みんなどこ見てんすか?ルンドさん、」

「ほら、あいつら、」

「へぇ、お、いたいた。小っさいっすね。ロヌマと同じくらいじゃないっすか?見てくださいよアイフェリアさん、生意気そうっすよ、」

名前を呼ばれた彼女はタンブラーのストローから口を離し、向こうのミリア達へその鋭い眼差しを・・・留める――――



「――――アイフェリアさんたちが見てるぞ、ほら、指差してる。あれやっぱそうじゃないか?」

「あいつらが?」

屯する彼らは、その辺の手すりの傍とその段差に座りながら、もしくは寄り掛かりながらだ。

「あの噂の奴らだろ。《Classクラス - A》行ったばかりで、大事件やったって?」

「はぁ・・アイフェリア先輩・・、今日もかっこいい・・・」

1人だけ、違う方を頬を両手で挟んだまま眺めている少女がいたが。

「チュクリ、あいつらはどんなだ?」

「なんか言った?」

彼女になぜか凄まれて、睨まれたので。

「・・いや。」

その青年は口を閉じてた。

「実戦級の特能力者とかすげぇな。どんだけいっぱいいるんだろうな?」

って、目を輝かせるように周りを見回している彼もいるが。

「チュクリ、あいつらどんな感じなんだ?」

気軽に声を掛けるにはタイミングが良くなかったようだ。

「うっさいな!アイフェリア先輩の時間を邪魔しないでよっ。大切な瞬間を、大切にするのっ。話しかけないでよね、ジェンド!?」

「急にキレんなよ・・・。」

ちょっと引いてるジェンドだ。

「あたしは先輩!!いや語弊が生まれるなっこれだとっ、ちょっと待ってっ、」

「なら、アイフェリアのとこに話しかけに行けよ。貴重なんだろ」

「む、無理!わ、私なんか行っても、困らせるだけだしぃ?話題もないしぃ?、でもぉ・・・フォトなら撮りたい!」

「まあ顔は間違いなく機密扱いだしなぁ」

「・・『シャペルヴィ』っ!!」

「汚い言葉使うなよ。だから友達になってくれば?って。」

「無理!」

悲痛なチュクリの叫びに、ジャンドは閉口しておいた。

「・・・んじゃあいつらの話しろよ。」

「それも無理ぃっ、興味ないし。それに、なんかあいつら、全然なんも感じないし」

「ん、☆超・感覚派☆のお前が珍しいな」

「ぜんぜん、なんにも、ピンキンも無い、普通って感じ?って、☆超・感覚派☆???頭悪そうじゃない?わざと?」

「気のせいだよ。いちいち悪く取るなよ」

「なあ、『シゅぴるヴぁいあぃ?』ってどういう意味なんだ?さっきの、」

って、傍のベックンが横から聞いてから、またチューチューストローでスポーツドリンクを飲んでた。

「ああ、それはね、故郷くにの言葉で、こっちなら・・むがっ、」

説明しようとしたチュクリの口がジャンドに塞がれて、そして代わりにジャンドが彼へ、にこっとスマイルで応えていた。

「あ・・・うん、」

彼は察する、ジャンドが止めるくらいヤバイ言葉なのだと。

「ほら、アイフェリアもあいつらを見てるぞ」

アジェロがチュクリに見えるよう指差してみれば。

「ああん?なにあいつら、目立ってんの―――――」

「さっきから話してるだろ」



「――――あいつらと模擬戦でもしたらさ、」

「ん・・?」

「もしさ、勝ったらよ、俺らもそれくらいの実力がある、ってことだよなぁ・・・?」

彼が見ているのは、噂のルーキーの方のようだ。

「お、なに?やる気出ちゃったわけ?」

「いや、普通そうなるだろ?って話だよ。な?なあ、ロアジュ、」

「・・そうでもないんじゃないか?」

「お前、久しぶりの合同訓練なんだからさ、もうちょっとテンション上げろよなー、」

「ロアジュもだけどさ、目立てばやっぱり評価上がるんじゃないか?」

「模擬戦に勝てて上行けるんならな、いいけど。EAUはただのケンカじゃないんだよ。いろいろ学ばなきゃいけないことも多いし」

「ま、そりゃそうか、」

「お前、マジメだよなー」

「でもいきなりAに抜擢されたんだから、凄いよ」

「それ言ったらお前もだろ、フィジー。」

「あ、うん。・・でも付いて行くので精いっぱいだな。あは、」

「まあ、俺もだけどな。」

そうロアジュが、フィジーににこっと笑っていた。

フィジーは、だから、はにかんで返して。

「ま、俺らも転属希望出してるから、その内そっち行くからな。」

「ああ、待ってるよ。―――――」



「――――ん、どうした?考え事か?」

「うーん、」

「知らない奴らばっかりで興奮してるのか?」

「あれだな、愛玩動物ペットみたいだな、」

「違うわ。うーん、なんでだろうな。この恒久なる疑問はお前らにはまったく感じ取れていないのは前から知っていたんだ、俺は、」

「何の話だよ?」

「俺たちのチームには女が1人もいないのに。」

「聞いて損したわ」

「ちょっまてよ」

「遅れて集合か・・・。だいぶナメられてるみたいだな・・・」

「あいつらが噂の奴らかー。ははっ、全然そう見えないなー。でも2人だけか?4人いるんだろ?」

「そいやそうっすね、おかしいな?」

「だろ?」

「・・どうせ便所だろ、便所、」

「んなわけねぇだろ、なっはっは、」

「・・・・」

「・・なんであいつ拗ねてるわけ?」

「え、拗ねてんすか?さあ?」

「拗ねてねぇよっ、つうか聞いてるんなら無視すんなよっ、」

「だって、お前がめんどくさそうだから・・・」

「・・え・・・?マジ?」

「いやいやいや、冗談っすよ冗談、ねえ?」

「いや、割とマジで」

「そこはうんって言っときなさいよ、あとでめんどくさいだから・・っ」

「・・・」

「はっ・・・!」

「・・ふふ、っふっはっはっはっはは」

「な、なんで急に笑うんすか?ギウレさん、」

「な?こいつこういう所あるからさー、はっはっは、」

「言った通りだろ?みたいな顔しないでください。ギウレさんを指差さない!―――――」


「な、調子乗ってんだろ、ロヌマ?」

「ほほぅうぅ・・・っ、あいつら、調子乗ってんのかぁあ??」

「おい、ラッド、ニール、けしかけんな。そいつめんどくせぇんだからよ」

「いいじゃんか、バーク。教えてただけだよ?あいつらが今すげぇ噂されてる奴らだって、」

「やめとけやめとけぇえ、どうせ噂に尾ひれでも付いたんだろぉお。本当かどうかもわかんねぇしよ。んぅうー?しかもまだガキじゃねぇか」

「よく見えるな。小さいのが女の子だろ?」

「興味ねぇえよ。小せぇヤツにロクな奴はいねぇえっ、つっってっ!痛って、蹴んなロヌマ!!」

「はんっ!!」

「わけわかんねぇことしやがって・・・」

「なんで機嫌悪いんだよ、バーク」

「俺が?なんでだよ」

「頭痛そうだな。ちょっと酒臭ぇし」

「酒飲んできたんじゃないだろうね?」

「そ、そ、そそんなわけないだろぉ、マージュ~」

シャキっとして見せるバークが、笑顔を頑張っているのがよくわかる。

「怪しいねぇ・・」

大きな身体の彼女にぎろりと睨まれるバークも大きいのだが、やましいことでもあるのかビクビクして目を合わせない。

『招集だ、集まれってよ、』

と、向こうから声がかかり始める。

「お、聞いたか?」

嬉々としたバークが、みんなに大きな声を掛け始める。

「いくぞ行くぞ。っておい、ロヌマこっち来い」

そこのチビのロヌマが向こうへ向かって、いつの間にか歩いて行っているのをバークは見つけた。

その先にいるのは、さっきから噂されてるあのルーキーたちのようで、見ている他の奴らも面白がっているようだが。

「おいロヌマー、聞いてんのかー?ったく」

「シン、ちょっと引きずってこい」

ゴドーが親指でロヌマの背中を指して言った、そして足を向ける大男は寡黙な表情を崩すことも無く動き出す――――。


「―――――訓練を再開する。集まれー。」

召集の声を聞いて、ミリアは顔を上げる。

「お前ら、気を付けろよ。いま、いろんな奴らから注目されてるからな。」

「言い過ぎだろ?」

「わかってて言ってんだろ?」

ガーニィとガイはまだ傍で笑み混じりに話している。

それに、さっきから見てればガーニィに他意はないようで、ただの世話好きなのか、もしくはおしゃべりが好きなだけかもしれない。

彼が言う通りに周囲の注目は、さっきからずっと感じている。

見た事ある顔も、そうじゃない顔も、こちらを見ている気がする。

「俺に詳しく聞かせてくれてもいいんだぞ?」

「なんでだよ、」

「そしたら俺が代わりにお喋りして、身代わりになってさ、」

「はははっ、それでおまえが人気者に・・・、それもいいな。」

なるほど、とガイの声のトーンが変わったのも、まるで冗談っぽいけど。

それを見てたミリアの眉が思い切りひそまってたけども。


―――――その眼光、不敵な笑みを浮かべて。

その猛獣のようかもしれない爛々とした、くりくりとした眼光が、その何も知らずに無邪気にたわむれる獲物を背後から捉えていた。

「おいおまえぇーっ、ハはぁーん?、ナメてんのかぁー・・・?っぶっ、」

キラーん、とその瞳が輝いたのと同時にがっしっ・・!と、彼女の首根っこが、大男に掴まれてた。



――――『なにか』に声を掛けられた気がしたミリアは、ふと周りを見てみたが。

・・・それらしい姿はなく。

・・注目されているのはなんとなく、肌で感じている――――。

「―――トレーニングに参加してくれた隊員たち、集まってくれ。再開するぞ。」

誰かに見られていたとしても、今日はそれが当たり前だと思った方がいい。

わぁわぁしているような、たくさんの人が集まる向こうはよく見えないけど、手を叩いて呼ぶ、教官たちから再び召集の声がかかっている。

「ミリア、行くか、」

呼びかけられて、振り返るミリアは。

ガイが気合を入れたようで、ミリアを真っ直ぐに見ていた。

ミリアは静かに頷いて、また歩き始める。

傍のガーニィも付いてくる、行く先はみんな同じだ。


「はっはぁっはぁ、普段見れない奴らも来てる上に、お前らの実力がどんなもんかみんな見たがってるみたいだしな、面白くなってきてるよな

、今日は刺激的ってやつだ、」

って、ガーニィは周りを見ながら教えてくれるけど。

ミリアもぴくっと反応して、ガーニィを見ていた。

「普段見れないってのは?」

ガイがそう尋ねてた。

「実戦派の奴らも来てるんだよ。訓練生だけじゃなくってな。《Classクラス - A》のベテラン勢なんかもだぞ。珍しいだろ?そういや、お前らもAだっけ?下手打つんじゃないぞぉ?」

「変なプレッシャーかけるなよ」

「はは、そういうつもりじゃねぇけどさ。ただ、初めて見るヤツもいるしな、」

そう、ガーニィはミリアを横目に見たようだ。

「それはお互い様だ。」

それに気づくミリアは、彼を見つめ返す―――――


――――EAUの彼らは思い思いの話を繰り出し、一か所へ向かっていく。

それは、初めての大きな合同訓練へ向かう歩み・・・。

誰かが小走りに駆け始めるのを。

ミリアも、小走りになって招集場所へ向かう。

別に、何かが起きるとはミリアは思っていないけれど。

―――少し大きめの息を吸って、吐く―――――胸の、奥が少し、震えるのを感じたのは・・・なにかの兆候にさえ感じられた。

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