第6話 『A』への最も短い距離
てこてこ走る、トレーニングウェアを上下させて。
温まって汗ばんできたようなミリアは、グラウンドに集まる大きな体格のたくさんの人たちの体温にも当てられていっているのかもしれない。
今はMRグラウンドのある所のちょうど反対側を走っていて、グラウンドを2周はしたか、でも息は乱れていない。
用意されたアンダーウェアの吸汗機能などはやっぱり高機能で、肌に嫌な感覚はほぼ感じられない。
身体を動かしていてもほぼ抵抗なく伸縮するし、違和感はほぼ感じない。
全身の手足の先まで身に着けても快適かもしれない、ってタイツみたいな姿とか、なんとなく何度か考えたことのある想像をまたしてた。
「つまり、Class - Aが拡充されるってことだよな。Cの人らも集めて。」
「結構噂になってるぞ。寮組は盛り上がってるし」
それから、傍で話すガイとガーニィの2人の会話も耳に入ってくる。
「俺も寮だけど聞いてないぞ?」
「それな。いつだろうな?今朝にはもう寮の奴らも噂してた。聞いてなかったか?」
「聞いてないな」
「じゃあ、大体の奴らはオフィスに来てから聞いたのかもな?まあ、Class - Aの奴らの前でそんな話もしねぇだろうし。」
「遠慮されてたか?俺はいつもなんでも受け入れるのがポリシーなんだけどなぁ」
「いつか誤解されるぞ。」
「それより、合同訓練やるタイミングでだしな。デマかもしれないな。」
「できすぎだよな。面白いからいいけどさ」
「面白いねぇ・・」
そんな話を聞いていたミリアも、なんとなく彼らが言う違和感はわかる気がする。
――――彼らが話していた『Class - A』やCなどの『Class』とは、EAUの従事する仕事内容で隊員を
例えば、私が『Class - A』であるのと同じように、仕事内容によって他の人たちも『Class - B』だったり、『Class - C』だったりする。
『Class - C』は主に研究に協力したり関わる人たちが多く所属していて、彼らがAに来るという事は、外の現場に立つということだろうか。
少なからずも、CからAへ希望する人がいるとは聞いたことあるけれど。
「構造改革って噂だけど。本音が別にあるんじゃないか?って俺は思ってるんだよな。よくあるだろ?
「Aはきついぞ?」
「ん、お前らが先週行ったところのことか?」
「それはノーコメント。」
「冗談だよ」
即座に反応するガイが偉いけど。
ガーニィはニヤニヤ笑ってて、からかい半分みたいだ。
「Aが急に人気ってどんな理由なんだ?」
さっきからミリアは傍で話すガイとガーニィたちの会話を聞きながら、ちょっとペースを合わせつつだけど。
気が付けば、走るコース上の数人の群れに自分たちもなんとなくまとまってるようだ。
「そんなんわかるだろ?」
「まあ、なんとなくは。でもどうして?」
「Aは花形みたいなもんだから。」
「ふむ。」
むしろ、周囲の彼らもこちらの会話を気にしているような、たまに視線を感じる。
「あとモテるだろ?」
って、ガーニィは。
モテ・・・?
「いやそりゃないだろ」
「いやいやいや、」
って、周りの誰かが話しかけて来てた。
「Aなの、すごーい、って感じだろ?女たちの声が1オクターブあがる。」
「男もめっちゃ興味持つぞ」
「そんな伝説を目にしたことはないな」
苦笑い気味のガイがはっきり言ってた。
「そんなわけないだろ、」
「マジかよ、」
ちょっとショックを受けてる人たちもいるみたいで、大きな低い声を震わせてるけども。
「お前はよく女に話しかけられてるよな?」
「こいつは見た目が良いから。参考にしちゃダメだぞ」
「なんだとこいつ」
「給料は良いだろ?絶対。」
ふむ、とガイがちょっと考えてみたようだ。
そう言われれば最近の、この前の事件の手当も、危険手当、臨時報奨とかいろいろあれこれで結構もらっていた気はする。
なんか種類が多かったし、ちゃんと確認はしてなかったけど、とりあえず口座にはまとめて入るはずだ。
「そういや、Bから臨時でAと仕事した奴らが、現場に出ると手当てがかなり入るって言ってた。」
「やっぱAは稼げるんだな」
まあ、そういう専業傭兵みたいな人もいるとは思うけど。
というか、自然に周りの彼らが会話に入ってるけど、ガイたちはすんなり受け入れたようだ。
ガイは顔が広いから、顔見知りも普通にいそうだ。
「ま、俺は危険な仕事は手当をもらっても嫌だがな、」
「EPFみたいでかっこいいじゃんな?」
「俺はBのままでいいよ。」
「Bは同じようなトレーニングばっかりだしさ」
「今日はあっち行けとか、よくわからん研究を手伝えとか、」
「Aでも同じだぞ。研究協力頼まれたら行かなきゃいけないし、パトロールにも行かなきゃいけない、事件が起きれば拒否権がほとんどない、覚える事も多い、補外区に行く場合もある・・・」
「あれ?じゃあAとの違いってなんだ?」
「Aの方が・・・かっこいいっ」
「結局それだけかよ」
「あと給料もいい」
「さっき聞いた、」
「あれ?けっこうBでも良くない?」
「Bの方が自分の時間を取れるしいいぞー」
って言って勧めてるガイだから。
実はけっこう不満を感じているのかもしれないな、とミリアはなんとなく思ったけれど。
「いやもういいって。」
他の人に
「お前が言うと説得力あり過ぎるわ」
「俺の事知ってるのか?」
「大体の奴が名前を覚えたんじゃないかってくらいには。例の事件の噂でな、」
ちらっとミリアを見る彼も、ミリアの事を知っていそうだった。
話したことも無い人だけど。
「俺たち有名人か」
ちょっとガイが声を弾ませてた。
「変な奴に絡まれるなよ。」
「それは嫌だな」
なるほど、知らない人に声をかけられるとかはありそうだ。
実際、今も似たような状況だし・・・私にとっては。
「大人しくCのが楽そうじゃないか?」
「俺もそう思う。」
「人体実験されるっていうデマがあってだな・・、」
「もうデマって言ってるぞ。」
「まあ、ノリで言ってる奴らも多いみたいだけどさ、」
「研究されるだけの人生が嫌になったとか・・・」
「やっぱAが花形なんだろ。」
みんな好き好きに言っているけれど。
「なんでお前はAに行ったんだ?」
って。
聞かれたガイは、ちょっと考えたみたいだ。
・・なんとなくその続きが気になった私は、ちょっとガイを見たら、ちょっと目が合ったかもしれない。
ガイは、ふと目を細めたような、微笑んだような気がした。
そう、彼らへ顔を見せて。
「厳しい道を目指せ、って親に言われてな。」
って、ガイが意味ありげな表情を作って言った・・・、それは・・とても嘘くさい。
「なんだそれ。」
ガーニィたちも異議があるみたいだけど。
ガイはやっぱり、にっと笑っていた。
「で、行ったら行ったで、例の事件であれだろ?」
「ん?」
って自分から話を振ってるガイだ。
「あ、そうだ。お前ら、あれだろ、行ってきたんだろ?」
「ちょっと詳しく・・」
「ノーコメントです」
「おーい、」
「おーい」
不服そうな彼らの呼びかけが連続して。
「ガーニィー、」
って。
向こうから、誰かがガーニィを呼んでた。
「おっと、おー、」
MRステージのある方の向こうで、彼の仲間たちみたいだ。
「そろそろ出番かな?んじゃな、」
フットワーク軽く、離れようとするガーニィだ。
って、ガイがガーニィと向こうへ駆け始めるのを。
ちょっとミリアは、瞬いてたけれど。
そのガイが肩越しにこっちを見て、その目からなにかメッセージを発しているのに気が付いたミリアも。
一緒の方へ、向こうへ進路を変えた。
周囲を囲んでた彼らは、そのまま足を止めるようにちょっと顔を見合わせ始めてたけれど。
気にしないのを気持ちで装いつつ、無事、彼らの追及から逃れられたみたいな私も、ガイたちと一緒に少しずつゆっくりして、歩き始めてた。
「いやー話がしつこいもんな、あいつら」
ってガーニィが言うけど、彼も興味があるはずで。
「人気者はつらいもんだな」
ガイが参ったとばかりに。
「楽しそうに見える不思議、」
って、ガーニィがガイにニヤニヤして言ってた。
まあ、ガイは絶対自分から話振ってたし、からかって遊んでたんじゃないかと疑っている隣のミリアだ。
それから少し、みんな口を閉じて。
「そいじゃな。」
今度こそガーニィが向こうへ足を向けて離れる。
「情報屋のガーニィも、Aに行きたいのか?」
ガイがそう、訊ねていた。
ガーニィは振り向いたけど、何も言わずに、にやりと笑って見せたようだった。
「お前から聞いた試験の話はみんなに話すけどな、」
ってガーニィは。
今度こそ、じゃあな、と手を上げて行く。
・・ガーニィの考えはわからないけど、満更でもないみたいだ。
そのまま仲間の彼らの元へ、MRグラウンドの方へ向かうようだ。
その先には、見知らぬ彼らがプレイしているフィールド内のアスレチックが動いて、ステージが光ったりマスコットたちが散り散りに逃げたりしているのが離れた場所に見える。
「試験?」
歩くミリアは、一緒に歩く隣のガイに聞いていた。
「ん?ああ。Aの資格試験な、みんな興味があるとかでさ。今思うと、話しちゃまずかったかな・・?」
「毎回、試験内容は変わるでしょう。」
「それもそうか。じゃあ、問題ないな。」
「でも、そんなに話すことあった?」
「とりあえず、根性を見せろって言っといた」
・・・真面目に答えたんだろうか?
いや、ガイの事だし・・。
「からかってないよね・・?」
ミリアは何となくジト目で、ガイがにっと屈託なく笑うのを見ていた。
「ちゃんと基礎トレーニングをやっとけとも言っといたよ」
にやりとしているガイだから、噓は吐かないと思うけど。
まあ、Bなどでやっている基礎トレーニングの延長みたいなものだし、それは正解だろう。
気にした風もなく歩いてる、そんなガイから目を離して。
向こうの賑わいの方へ目を向けるミリアは、足を止めていく。
息を吸い、ほうっ・・・と胸に溜めた、大きな息を吐いて。
深呼吸に気が付いたガイが、こちらを振り返っていた。
ミリアは、そんなガイに口を開く。
「そろそろ、やりに行こうか、」
「おう、」
ガイも、準備はできたみたいだ。
歩き出すミリアは、ガイの少し後ろで腕を伸ばして。
背筋も、肩もストレッチに軽く伸ばす、少し気持ちいいくらいで。
く・・ふぅ・・、と少し尖らせた口先から、息を吐いていて。
・・少し汗ばんで来ていた身体を感じながら、頬を手の甲でちょっと擦って。
微かに火照っていた感触に触れながら、腕のシャツの裾でもう一度、
――――こけた。
何もないところで、黒髪の少年が、それは派手に、こけた。
森の木々の中で、1回転した後は仰向けになって・・・涙が少し、じわりと泣きそうになる。
彼の右手から落ちて離れた、白い球が地面の上をころころと転がる・・・。
「あーっ、なにやってんの!」
黒髪の少年と同じくらいの、黒髪のお姉さんの子が駆けよって起こしてた。
「ご、ご、」
「早く立ち上がれよ、負けちゃうじゃん、」
って、命令口調だが、そんな事を気にしている余裕は今は無い。
「おーい、慌てんな。ケガしてないな?」
森の向こうから大きな声で呼ぶお兄さんの声に、少しほっとする。
「だいじょうぶそうでーす」
「よーし、落ち着いていけよー」
「はーい」
「は、はいっ」
「行くよ、カオ、」
「う、うん」
その間にも、対戦相手の緑色の肌の
その内の1人はちょっと横目に、動かなくなったこっちを気が付いて気にしているようだったけど。
少女はその視線に更に睨みつけるように、そっぽを向いて。
周囲の色合いが急にぴかぴか光り出す、アラームが鳴り響く、『ラストターゲット出現しました。ラストターゲット・・・』
「あーーっ、」
少女は大きな口を開けて叫んでいたけれど。
「あぁわわあぁわわ、」
傍で見るからに慌てふためている少年と。
「慌てるなー」
落ち着かせようとするお兄さんの声と。
『あったー、あっちー、』
『クロいけるー?』
女の人たちの声が周囲から聞こえて来ていて。
『どっちー?』
『あっちー、』
「あーもうっ、負けたらあんたの所為だかんね?」
「ご、ごめ・・」
「気にすんなー、少しでもスコア上げてくぞ。」
彼らは3人とも走りながら、辺りを探している。
『落ち着いてー、』
彼女たちの声が近くに聞こえたけれど。
『あー惜しいー』
『大丈夫だよー落ち着いてー』
少年が、そのマスコットを見つけて、ぱぁっと明るい表情になって、手を伸ばした・・・のと同時に、ぱぁんっと、花火が撃ち上がったような音共に。
『VICTORY!』
と、高らかに宣言された。
びくっとした少年は、見上げれば空の方に大きな文字がでかでかと誇らしげに『VICTORY!』と表示されているのを見た。
『わぁお当たったー!』
『クロぉおー』
恐る恐る近くの少女を見れば、彼女が明らかにイラついている顔でこっちを睨んでいるのを、またびくりっと驚いて震えてた。
「負けたかー」
少女の傍で、かんらかんらと大きなお兄さんは高らかに笑ってた――――。
――――おーい、ちゃんと目ぇ開けてろ」
「素人かよー」
『声援は節度を持ってお願いしますー』
ミリアが気が付く、その辺の段差のように床が上がって観客席みたいなものが出来上がってる、その上では自由な声援に混じってヤジも飛んでたみたいで、そしてスタッフの人に注意もされてた。
まあ、人が集まればよくある光景だけれど、今回は小さい子もいるみたいだから細かな配慮をお願いしているみたいだ。
ミリアもちょうど、彼らのゲームプレイをなんとなく足を止めて、柵の外から見ていた。
対戦型のそのゲームは、同じようなレベルのチーム同士が選ばれて切磋琢磨しているみたいだ。
慌てて転んだりする子もいたけど、めいっぱい身体を動かしてポイントを取って行ったり、楽しそうで、ルールも何となく理解はできた。
「面白い試合だったな。」
って、傍のガイが満足そうに言ってた。
「ふむ、」
ミリアはちょっと鼻を鳴らしたけれど。
さっきも向こうから振り返ったガイが見ていたのは向こうの、お姉さん3人組が楽しんでる姿だったかもしれないな、と思ってはいた。
『早めに予約したい方はこちらー』
と呼びかけているスタッフの人も近くにいる。
このゲームは事前に名前を呼ばれるらしく、ステージの傍で待機している次の参加者たちも観戦していたようだ。
「これやるのか?」
「うーん、後がいいんだよね、」
なんだか大変そうだし。
「順番送らせれるかもな。ちょっと聞いてみるか。」
「そだね、」
てことで、ミリアは近くにいたスタッフの人に声を掛けてた。
「あの、これは予約の順番は選べるんですか?」
「選ぶのはできないですが、なるべく調整はできます。予約する?」
「後ろの方がいいんですけど、」
「後ろの方、どれくらいかな?」
「えっと、他の2つを回ってから」
「ああ~なら、予約はしなくても大丈夫かな。でも、呼ばれたら必ず着てくださいー」
と、拍手が起きた気がして向こうを見れば、今プレイしていた人たちが出てきて、温かい拍手が送られていたようだ。
送られる側は少し恥ずかしそうにしている様子だった。
「他のやるのか?」
「どうせ呼ばれるみたいだし、他のからやろうかな。」
ガイにそう伝えて、ミリアはそう、別の方向へまた足を向ける―――――
『準備中』
と、そのMRステージの入り口付近に看板が変わったときに、それぞれのステージから降りてくる彼らは対照的で。
ハイタッチする笑顔が見える女の子たち3人のチーム。
「最後の方、焦ってた?」
「当たんないや。もっと練習必要だなぁ、」
「もう反省してるー」
って、可笑しそうに笑う彼女たちと。
それからもう片方のチーム、明らかにぷりぷり怒っている少女としょんぼりしている少年と、背の高いお兄さんが苦笑いしている3人チームがばらばらに歩いて出てくる。
「カオの所為だかんねっ」
ちょっと離れた後ろに怒り顔を見せる少女に。
「うぅ・・ご、ごめ・・・リコ・・」
少年が一方的に文句を言われているようだけど、しょんぼりしているその左手には白い小さなガラス球のような物がころころ・・手の中で遊んでいた筈のそれは、いつの間にか空気に溶けるように消えていった。
――――大丈夫?さっき痛かった?」
って、声が掛けられた気がして、振り返れば。
誰か、知らないお姉さん・・・明るそうな、黒髪を後ろに短く結んでる・・・さっきの、対戦相手のお姉さんの1人に声を掛けられてた。
近くを通りがかったらしい、急にだったりしたから、顔とか覚えてられてたのかとか、思って少年はドキンとしてて。
「あ、は、はいっ、」
「・・・」
その横で、少女がじっと、年上っぽい彼女たちを紅潮した頬のままで睨んでるけど。
「楽しかったよ、」
微笑んで小さく手を振って見せるお姉さんは。
「またね~」
って、印象的な笑顔を残して向こうへ歩いてく。
「こ、こちらこそ、」
少年がちょっと背筋を正してて。
傍で、背の高いお兄さんは軽く手を振って見せてて。
少女はその傍で、その堅い面持ちのままで、ちょっとだけ会釈していたが。
傍で、こっちを見てた他の2人のお姉さんたちもちょっと手を振ってた。
歩いてて、話しても聞こえないような距離になったのを横目に確かめてから、少女は口を開いた。
「あ~もー、ムカつくーー!」
ぶんぶん両腕を振り回して、その腕が横の少年、カオの肩やわき腹に当たるのはわざとかわざとじゃないのか。
「ちょ、痛い・・」
「なんで仲良くしようとしてんだよ、」
「リコだって緊張しいの癖に・・・」
「なに?」
「や、なんでも・・・」
リコの凄みにすぐ後ずさって引き下がるカオだった。
「おーがんばったぞー、」
「カオーっ、リコーっ、」
「マキオもおつかれー、」
同じくらいの年の頃の子たちが拍手を送る彼らは仲間内か。
空いてるところに座った彼女たちはそれぞれの表情もそのまんまだったけど。
「けっこう頑張ってたぜ」
仲間から声かけられても、リコは目を細めてぷっくぅとしている。
そんな横で、お兄さんは友達から眼鏡ケースを受け取り、取り出した眼鏡をかける。
「よくがんばったなー」
「負けたじゃん。カオなんか転んでたし。『それ』出したって意味ないでしょ、今っ」
「ご、ごめ・・」
リコの怒り声に、声が尻すぼみになるカオだけど、白い球は手の中に握ってさっと見えないよう隠した。
「まあ、しょうがないじゃん?」
って、後ろに座ってた彼はさっきから、アトラクションを受ける前から諦めモードになっている。
「ただの
「それな。研究者の人たちからモテモテなのとの扱いの格差、酷い、」
「筋肉ゴリラばっかだ、」
「俺はやりようはいくらでもある自信、あるけどね。」
「はーうるさい、愚痴ってばっか、」
「でもリコたちは特徴あるじゃん?だから私も、正直期待してるんだよね。」
「筋肉ゴリラには勝てないもん。」
「もー、拗ねてるなよー、口悪いぞー?」
彼女がやさぐれリコの頭をぐりぐり、可愛がっている。
「お前たちの相手はゴリラじゃなくてお姉さんたち・・」
「しーっ」
「まあスコアは稼いだんだ。ちゃんと判定してくれるだろ、ハリードさんたちも。」
「そうじゃないと困るっ」
マシオに言われていきり立つリコはまだちょっと癇癪が治まらないようだ。
「みんなもどうだった?」
「ん-、頑張ったけどなー」
「俺もー」
彼らも出来具合を話し合い始めてたけど。
「で、でもちゃんと体力テストはパスしてるから・・」
カオがリコを
「これで無理ですって言われたらカオの所為だかんね」
「え、えぇ・・・」
「はっは、大丈夫だって、」
「マシオは楽観的過ぎっ、っていうか笑い過ぎっ」
「そんな笑ってないだろ?」
「いや笑ってる」
「笑ってるって」
「いつも笑ってない?」
他の仲間たちはみんなきょとんとしてるマシオの味方じゃなくて、リコの味方みたいだった。
「―――――あいつら、さっきの奴らだろ?」
「Bじゃ見た事ない、からCだろうな。」
「研究所組か。ありゃ初心者コースに戻った方がいいんじゃないか?」
「男のあいつなんか、何もないところでこけてたな、」
「はは、」
って、ちょっと離れたその横で、大きな声で仲間と好き勝手に言ってる彼らは違うグループのようだ。
気が付いてる少女は、赤い頬をむんと膨らませて横目に見ていたけれど。
「なにあれ、」
「どした?」
「なんか悪口言ってる、Cがなんとかって、」
「・・ヤな感じだな、まあ無視しようぜ、」
「あいつらClass - Cの奴らだろ?」
「まだ子供だろ、Cからは子供が多いのか?」
「そうでもないだろう」
「特能力に頼り過ぎてか?」
「こっちに来たばっかって感じだったな、」
「アスレチックが得意なやつらもはっきりしてるよな」
「特能力に恵まれてるんだからな、チビどもは、それさえやれれば・・」
「・・おい、睨まれてるぞ。止めとけよな、お前ら、」
「ん?聞こえてんのか?よおー、お前らよくやってたぞー。」
目が合ってんのに、微妙そうな顔をこっちに向けてる彼らもいる。
「嫌そうな顔してるぞ、1人手を振ってるが、」
「あいつ褒めただろ?」
「難しい年頃の奴もいるんだよ」
「褒めてもダメなのか?」
「それハラスメントって言われるやつ」
「どれが冗談かわかんねぇ」
「いや全部本気だろう」
と、急に顔を突っ込むように割って入ってくる大柄の彼が。
「あいつら一所懸命に頑張ってたじゃんか、Aに行きたいって頑張ってたんだぞ」
知らん奴から声を掛けられたのだが。
「あぁ?」
「なんだ?」
「でっかい声が聞こえてるんだ、」
「お前らも研究組ぽいな、身体ナマってんなら俺らが鍛え直してやろうか?」
「あんだと・・?」
「ケンカ売るなよ。わりぃなこいつ口悪くて、」
「うっし、来い。一緒に走ろうぜ、」
「マジかよ、」
立ち上がる彼らが、身体を見せつけるように張り合う。
「なんでそんなノリになんの、」
「勝負しようぜ、」
「おうよ、ん?お前、機動系じゃないよな?」
「ちげぇ、」
と、向こうからステージでやってたグループが戻ってきたようだ。
すれ違うとき、彼は目の端に引っかかった、頭をぽんぽんするお姉さんが、なかなか美人だったのに。
「負けた・・」
と、それよか、なんか、戻ってきたその少年はちょっと泣きそうだった。
傍の少年もなんだかイライラしているようだし。
「あいつら、『もっとできる』と思ってんだよ、」
って、隣を歩くさっき話したばかりの研究所組の彼が、何でもない事のように言うが。
「ん?」
「特能力者ってのは、まだ『特別』だからな、」
ひょうひょうとした横顔は、イラっとしそうになるくらい何気ない風を装っちゃいるが。
「・・ああ、そりゃそうだ。なんてったって、『EPF』だからな」
奴が意味もなく微笑を張りつかせるのは、あいつらを気にしてる証拠でしかない、案外わかりやすい奴だった。
「つうか、そこは『EAU』って言うべきじゃないか?俺たちなら、」
って、言い返してきやがる。
「『EPF』でいいだろ。だって『EAU』に憧れる奴なんて誰もいないだろ?」
「自分らで盛り上げろよ」
「あんだと?」
「ああん?」
――――周囲の彼らが話している中に『Class - A』やCなどの単語がよく出てくる。
ミリアが歩いてればすれ違ったり足を止めてたら、初対面の人たちと話しているような人達が傍にいるのも何度か見てきた。
そして、彼らは他のClassのことを聞いたり、どんな様子なのか、どんな人がいるのかとか、気にしている風で興味がある様子だった。
ただちょっと違和感を感じたのは、なんとなく理由が分かった気がする。
『Class』は別に、能力や実力を示したものじゃないからだ。
『Class』とは、EAUで扱われる独自の単位で、EAUの隊員を従事する仕事内容で
それは各人員が得る
ただそれだけだ。
また、個々人が持つタグをまとめれば、所属する集合としても捉えられる。
つまり、私のような『Class - A』の人員たちを活動のために
なので、同じClassでも他の人たちとの交流があるところ、ないところなど、人によって環境が千差万別らしいというのを聞いたことがある。
基本的に本人たちの意思は尊重するので、それぞれの人たちがやりやすい仕事場の環境を整えているという感じだ。
ちなみに、EAU隊員としての個人の各総合評価は別に記録されてるって噂で聞いたけど。
それはプライベートに関わるので公表はされていないらしい。
ただし、研究にも関わるのでリプクマを含めた組織内で共有されているらしい―――――・・・っ。
――――息を短めに強く吐くっ・・・―――――走ってきた勢いのままにジャンプして、両足の力を床に踏ん張り、上へ飛び上がる、私は――――――高い場所に手を掛けた、跳ぶ勢いは殺さず同時に両腕に力を込め、身体を持ち上げて身体が一瞬持ち上げられる感覚にその高所を登りきった、その先を軽く跳び、なだらかな斜面に片足を着いたと同時に全身に力を入れ加速する、目の前に広がるのはコンクリートのような街の光景、その『ゴール』―――――ミリアは走り抜けた、その勢いのままに壁の目の前の柔らかいマットに、ばすっと埋まる。
・・・今思ったけど、もし誰かが口をマットに付けていたら、間接キス的なことになるんじゃないかなと。
まあ、ミリアは顔を横顔にしてて、柔らかマットに頬をくっつけているのは、咄嗟にそうしてたからであって。
前からそんなこと考えていたっけ?と想いつつ、ミリアは柔らかマットを両手で押して、反動をつけて身体を離した。
周りの拍手と声かけが、少ないながら聞こえていたみたいだ。
「ないすー」
「おつかれー」
自分にもいくつか送られていると思う。
観客になってる人たちに褒められるのは正直、悪い気はしない。
「お、速いな、お疲れさん。」
スタッフの人が声を掛けてくれてた。
「どうも、」
・・歩きながらミリアは、少し視線を下げていく、身体で感じる・・・。
―――――身体の状態を確かめる・・、胸はあまり上下していないし、息はあまり上がっていない。
体温はちょっと火照ってるくらいか。
ぶつけたかもしれない腕の肘の周りも、そんなに痛みは無いみたい。
タイムアタックだからなるべく全力で―――――
ちょっとだけ俯いたりしてたから、汗の滴が2つくらい床に落ちて行ったのに気が付いて。
ミリアは珠の汗が頬にまだちょっと残ってるのを感じて、シャツの裾でぐいっと拭っていた。
ゴールの向こうではガイが待っててくれたようだ。
こっちに微笑んで見せるのを、見つけてた。
「結構速いな、」
「そうか?上級コース?」
「平均はあったか?」
周りで大きな声で話す観客の彼らの声も聞こえてくる。
まあ、『Class - A』は危険を一番伴う部署なので、資格試験を受けるし、当然に内容も他のClassと比べて難しくなっている。
なので他のClassと比べても、『Class - A』のチームの方が戦闘方面に限っては平均的に能力水準が高いとは思うけど―――――――。
「まあ、背があれだから迂回しまくってたな」
「あの体格ならな、」
って聞こえたミリアは、ぎんっと向こうで噂をしたような彼らをその目でじっと見たけれども。
「・・急にどうしたんだ、」
って、ガイにちょっと心配そうな声を掛けられてた。
気が付くミリアは、もうガイが傍にいたので。
「別に。」
何も無かったようにミリアは先を歩く。
その言い方もちょっと口を強めに動かしてた、のでガイはちょっと瞬いたけど。
「次、行こ」
ミリアがちょっと、つんとしたように向こうへ歩いていくのを。
ガイは、見送りそうになったけれど。
おっと、と気が付いて後ろを追って行くのだった。
ミリアのその背中は、大きな息を吸って、吐くような。
大きくゆっくり動いた後は、息も既に整えられたようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます