3.ショタコンではない女、沼に落とされる

そう、ここまでなら、

私が少年の可愛さにただデレデレしているだけの話だったのだ。


きっと誰だってある範囲だろう。

特に私くらいの年齢の女は、生き物の本能として、

小さな子供を可愛いとか守りたいとかそういう本能(あと性欲)が強くなる時期だって何かで見たことがある気がするし…。

私はちゃんと枯れ専だし、イケオジとお爺ちゃんが大好物だし、

ずっと独り身だったから、本能が母性本能を誤作動させてるだけなんだってば!


なのになのになのに

ああ、もう…





私達はトイレ近くで立ち話をしていたせいで、

少し邪魔になってしまっていたようだった。

小走りで走ってきた男性が私の肩にぶつかって、

私は慣れないヒールの靴だったこともあり、バランスを崩して転んでしまった。


「亜衣ちゃん!」


慌てた様子で私を支えようとしてくれたひなたくんだったけれど、

悲しいかな、立派な大人に相応しい体格と体重を持つ私を支えるには、

彼はまだ小さ過ぎた…。一緒に倒れこんでしまった。


「ひなたくん!!!!大丈夫?」


押し潰してしまったんじゃないかと、私は青ざめ、

慌てて彼の上から飛びのいた。


「だ、大丈夫…」


ひなた君の状態を確認しようとする私に、

身体をゆっくりと起したひなた君は、ぶんぶんと頭を縦に振る。


「私がぼーっとしてたせいで、ごめんね…。痛い所ない?」


怪我はしてないか?頭は打っていないか?

折角似合っているスーツなのに、汚れたり破れたりしてないだろうか?

私はよほど酷い顔をしていたのだろう。

ひなた君が、不意に私の頭に手を置いて、よしよしと撫でた。


「亜衣ちゃん、泣かないで…。

 痛い所あるなら、ぼくがお医者さん呼んで来るから…」

「……う、ううん…。大丈夫…。心配かけてごめんね…」

「亜衣ちゃん悪くないよ。謝らないでいいよ」


私を不安にさせない為か優しい顔で笑って、

そのまま私のセットした髪をわしゃわしゃと撫でてくれる。


……な、なに、このイケメンは…?????


自分が弱っている時にさっと手を差し伸べてくれる男の子に

ときめかない女子なんているんですか?!


だってこんなの…王子様みたいじゃない…


私の中で今まで積み上げてきた何かが

ガラガラと崩れ落ちていく音が聞こえた。


胸の鼓動が早まり、顔が赤くなって行くのを自覚し、

そのせいでなんだか余計に恥ずかしくなってきてしまう。


やばいやばい…!

落ち着け落ち着け!

冷静になれ!大人の私!!!


先に立ち上がったひなたくんは、私に手を差し伸べてくれたのだけど、

私はその間中、自分の手汗酷くない?

私のこと、きっと重たいって思ったよね?とか、

そんなことをぐるぐると考えてしまって全然落ち着けない…!


そのトドメに、別れ際、

「次はもっとちゃんとぼくが亜衣ちゃんのこと守るからね!」

なんて、言われてしまったので私は無事死亡しました。

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