第30話 俺様の功績と歴史
「ずいぶんと立派なものがかんちぇ、完成したにゃ」
あれから3年の月日が流れ、アラザム王国は中央大陸に闇の神殿を再現したのだった。もちろん、勝手に工事なんぞできないから、アラザムの国王は世界各国に書簡を送り、500年前の非礼を詫びたのだった。もちろん、すぐに受け入れる国と、そうでない国があったものの、中央大陸での仕事が発生するということで、世界中から人と物資が流れることによる経済効果が重視された。神殿の柱となる石を運ぶための船を作るところから始まり、中央大陸には職人たちが寝泊まりする宿泊施設がたてられ、建築中の神殿を見られるということで観光客があふれた。今まで年に一回しか来なかった中央大陸への観光客が、毎日来るようになり、帝国の観光資源となったのだった。
「はい、アトレ。あなたのおかげです」
ジェダイドが俺様の傍らで跪いた。俺様、8歳になったのだが、まだまだジェダイドの半分ぐらいしか身長がないのである。うぬぬぬ頑張れ成長期。
「兄さま、僕もとても誇らしいです」
はちみつ色の髪を後ろで一つに束ねた俺様の弟、ウォルターが心底嬉しそうにほほ笑んでいる。俺様と目があえば、さらにその微笑みは深くなった。ただ一つ解せんことは、あれから三年の月日が流れたというのに、俺様とウォルターの身長差がまったく開かなかった事だろう。隣に立つウォルターは、俺様とほぼ同じ高さに肩がある。おかしい、まだ俺様8歳、ウォルター7歳であるから、それなりの成長差が生まれるはずであったのに。
「あやちゅら、ちゃんと文献を読み解けたのだにゃ」
一つ一つの柱、闇の神殿の壁、入り口の門、どれもこれもこの世界で最高の素材が使われていた。門に彫られたた闇魔法の詩に至っては、きちんと古代語であった。この歌は、光の神殿の門に彫られた詩と対になっているから、一字一句間違えるわけにはいかないのである。もちろん、詩の向きも重要になってくるから、設置する前には世界中から神官たちがやってきて大規模な会議を開いていたのだから驚きである。もちろん、俺様も参加したかったのだが、アトレという名前の神官は殉職者として名簿に名があるため、魂の姿をもってしてもできなかったのが悔やまれる。
「世界各国の神官たちが確認をいたしましたから、ご安心ください」
誇らしげに語るジェダイドの横顔は、とてもすがすがしかった。真実を知ってしまったあの日から、心に重りのようにとどまっていたのだろう。ジェダイドは真面目だからな。
「明日の開門の儀式には参加いたしますので、今日はこのまま中央大陸に泊まるのですが、本当に大丈夫なのでしょうか?」
ジェダイドの心配していることはわかる。建築中に職人たちが寝泊まりをしていた建物には、そのまま職人たちが住んでいるのだ。式典に参加するべく世界中から神官たちがこの中央大陸にやってくるわけで、年に一回の祈りの人は規模が全く違うのだ。闇の神殿の門を開くから、闇の神官は当然世界中からやってくる。光の神官は、まあ、精鋭部隊って感じではあるんだがな。
「俺様たちは体が小さいから、隅っこで寝られるから心配するな。明日ぎゅうぎゅうな船に乗る方が危ないだろう」
帝国から出る船で明日の朝来るという案もあったのだが、席に限りがある。式典用の服を着て、床に座ること何てできないから、一日早く来ることにしたのだ。そもそも、完成した闇の神殿を見て、他の四人のちびっ子たちは興奮しまくりで、ちょっと恥ずかしいレベルなのである。一晩かけて落ち着いてもらった方がいい。
「兄さまの新しい衣装、とてもお似合いです」
あれから三年。当然成長したから衣装は作り直したのである。もちろん、あの日のような派手な衣装ではなく、進学校に通う生徒の制服を模したデザインである。アラザムでは闇魔法の使い手用の制服が長いこと存在しなかったため、今回新しくデザインから作り出されたのであった。
もちろん、アラザムの光魔法の使い手用の制服と対になる様にはなっているのだが、
「衣装ではないぞ、こりぇは制服だ」
俺様はふふふんと、鼻を鳴らして胸を張って見せた。あの日のようにフリフリもレースもない。黒を基調としたシンプルなデザインの制服である。もちろん、男女兼用であるから、上着の丈が長いのが困りものではあるのだが。
「兄さまのために作られた制服ですね」
そんなことを口にするウォルターは、アラザムの光魔法の使い手用の制服を身にまとっていた。それこそジェダイドの奴をちっこくしたかのような見た目である。
「そろそろ、宿屋で夕飯が始まります。込み合う前に食べてしまいましょう」
ジェダイドがそう言って、いつまでも闇の神殿を眺めているちびっこ4人に声をかけた。4人は元気よく返事をして、お揃いの制服姿で礼儀正しくジェダイドのもとに集まった。俺様も、ウォルターと手をつないでそちらに向かって歩き出した。
「あぅ」
急に俺様の体から力が抜けて、俺様はその場に倒れてしまったのだった。
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