第27話 おれちゃまのおれちゃまは偉大なり
「にゃにごとだ」
一応俺様が代表で言ってやった。何しろジェダイドは、俺様だけでなく、ここにいる六人のちびっこたちの世話役なのだ。きっと今日のおやつを決めたのもジェダイドだろう。だがしかし、毎日チョコをだされては、特別感がなくなるんだからな。
「申し訳ございません。アトレ」
ジェダイドは部屋に入ってくるなり俺様の前にひざまずいた。
「にゃにごとにゃにょの?」
俺様、うかつにも大きな塊でチョコを頬張ってしまっていたのだ。だって、ジェダイドがやってきた時点で嫌な予感しかしなかったからだ。
「申し訳ございません。アカデミーの封印されし間に入ったのですが……光の神官たちが、その、お恥ずかしい話、皆倒れてしまったのです」
あああああ、なんてことだ。俺様うっかり忘れていた。あそこには鎮魂と忘却の魔法がかけられていたんだった。闇魔法の使い手なら耐性があるけれど、このアラザム王国の光の神官たちには耐性がなかったのか。ってか、本気で何も習っていないんだな。ぼんくらもいいところだ。さてはて、どうしてくれようか。
「私は封印されし間に入る前にコーヒーを勧めたのですが、彼らは蛮族の飲み物など口にできないと言い放ちまして、紅茶を飲んだのです。一人だけ、アトレを信奉するものは私と一緒にコーヒーを飲んだのですが、その彼は何とか講堂までたどり着いて、動けなくなってしまったのです」
なんてこったい。本当に、本当に、くだらないことをする奴らだ。ってか、鎮魂と忘却の魔法が500年もたった今でもそこまで効力を発揮するとは、俺様思ってもいなかったぞ。
うぬぬぬぬ。
困った問題だ。やつらに丸投げしてやったというのに、その倍以上に面倒なことをしてくれたな。
「兄さま。そんな奴らは自業自得です。大切なおやつの時間をなげうってまでして駆けつける必要はありません」
話を隣で聞いていたウォルターが、鼻息荒く言い放った。
「ぼくたちお子様にとっては大切な時間なのですよ。馬鹿垂れどもには反省の時間が必要だと思います」
うむうむ。さすがはウォルターだな。俺様の弟として、立派な考えを持っている。そうなのだ、俺様たちお子様にとって、おやつの時間は重要な時間なのだ。
「しょうだな、ウォルター。まずはおやつをたべおわっちぇからだ」
俺様は慌てて口にしてしまった大きなかけらをあらためて堪能し、ゆっくりとミルクティーを味わった。まあ、コーヒーほどではないが、それなりに思考が落ち着くというものだ。
「しゃて」
俺様がゆっくりとおやつを堪能し終えたころ、やはり他の四人もおやつを食べ終えていた。もちろん、ウォルターは俺様に合わせていたのは言うまでもない。その間、ジェダイドはずっと俺様の足元にかしずいていたのだから、なんともシュールな光景であった。
「みんにゃもべんきょうすりゅのだ」
俺様がそう言うと、四人は驚いた顔をした。特にディオは切れ長の青い目を見開いていて、なかなか面白い顔になっていた。
「伝説のアトレ様の技が見られるのか?」
家庭教師の影響で、なぜか俺様の大ファンだというアルフレッドだけがやたらとテンションが高い。そんなアルフレッドのことを軽くにらみつけるウォルターがかわいいと思うのは、身内のひいき目という奴だろう。
「城からアカデミーまでは距離がありますから、馬車で移動になります。みなさん、忘れずにトイレに行ってくださいね」
まるで乳母みたいなことを口にするジェダイドを横目に、俺様はゆっくりと椅子から降りた。さすがに三度目の屈辱は許されないのである。俺様は余裕たっぷりに部屋のトイレへと向かったのだ。
「兄さま、ぼくがお手伝いいたします」
背後からなぜかウォルターの手が伸びてきた。
「にゃ」
俺より一つ年下のはずのウォルターの頭が、俺様の肩越しにやってきたのだ。これは由々しき事態である。
「本日の衣装もボタンが沢山ですからね」
そんなことを言ってウォルターは、俺様の俺様を……くっ、許さん、いや、許す、いや、まて、俺様の兄としての尊厳が。俺様葛藤してしまうではないか。
「にゅにゅにゅ」
外気にさらされたことで、俺様の俺様、急激に目覚めてしまった。
「ぐにゅうううう」
耐え難い屈辱。
なぜ故、なぜ故にウォルター、お前が俺様の俺様を支えているのだ。そのくらい自分でできるのだ。できないと困るのだ。俺様偉大なるお兄様なるぞ。
「すっきりしましたね。兄さま」
俺様の顔の横でウォルターがにっこりとほほ笑んだ。向こうの方でジェダイドの奴が自分で自分の胸倉を掴んでいる。ううむ、解せない。
「なかなかによいのりごこち」
ジェダイドをいれて七人で乗ったというのに、馬車は快適だった。まあ、俺様たちがちびっこだというのが原因だろう。ドナドナよろしく、俺様たちはアカデミーにある封印されし間、つまりは俺様の隠れ家に向かったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます