第26話 おれちゃまのおめざめとダメな大人
あそこは俺様の隠れ家であって、かつてアラザム王国にいた闇魔法の使い手たちの英知が隠された場所である。だからこそ、アラザムにいる光り魔法の使い手たちは入るどころか、見つけることもできないわけで、悪しき思いが集結しているわけでもないから、光の神官たちが探し出すこともできなかったわけだ。俺様のように、純真なる闇魔法の使い手だけが入り口を見つけ出すことができるように、上手に隠されていたのである。
うん。
あいつらじゃ、みつけ出すことができないから、俺様が教えてやらねばならなかった。ジェダイドの奴が教えてやればいいのだが、覚えているのか不安だな。
偉大なる闇魔法の使い手たる俺様が直々に教えてやらねばなるまい。あいつら、うっかり寝ちまってバカになってる可能性あるからな。
「んんんんん、よくねちゃのじゃ」
ぬくぬくとした布団の中で伸びをする。
「おみじゅ」
寝起きで喉が渇いたぞ。むくりと起き上がれば、見慣れない部屋だった。
「どうぞ、兄さま」
横から差し出されたグラスを手に取り、水を煽る様にして飲み干した。
「んゆ、にいさま?」
声のする方を見てみれば、ちっこいジェダイドが……
「ありょ?おみゃえは、ジェダイドではないな。うぬ……ぬぬぬ、ぬぬぬぬぬ」
俺様、ちょっと記憶が混乱してるな。うううううん。
そうだ、夢を見ていたのだ。俺様は。
「ちょうだ、おれちゃまはウェンリー。お前はおれちゃまのおとうと、ウォルターだ」
「はい。そのとおりです。兄さま」
よく見てみれば、ここは城の中の一室だ。すっかり忘れていたな。うん。寝たら忘れるとか、随分と体の幼さに引っ張られているようだな。
「兄さま。おやつにしましょう?」
なるほど。昼寝から覚めたらおやつの時間であったか。言われてみれば、確かにそんな習慣だった気がするな。なんて言ったて、この体はちびっこだ。こまめに食べないとすぐにエネルギーが足らなくなるんだよな。燃費がいいんだか悪いんだかわからないものだ。まあ、成長期だから何だろう。
「おお、全員揃っている」
俺様たちだけが使う食堂兼遊戯室に行ってみれば、すでに他の四人が揃っていた。どうやら昼寝をしていたのは俺様だけで、他の四人は遊戯室でそれぞれ好きなことをしていたらしい。ウォルターは、俺様の寝ている横で本を読んでいたそうだ。なんでもジェダイドが呼ばれていなくなったので、代わりに俺様の昼寝を全力で守っていたらしい。全力で守るって、何なのか、後で聞いてみたいと思う俺様なのであった。
「本日のおやつはこちらです」
ジェダイドが厳選したメイドが俺様たち一人一人の前に皿を並べていく。そうしてカップには温かなミルクティーがそそがれた。うむ、五歳児にふさわしいお茶の時間だな。貴族の子どもなら、五歳じゃお茶会デビューしたりする年頃だからな。唯一緊張しているのは商家の息子のジョエルだ。こんな格式ばったおやつの時間なんて、初めてなんだろうな。だがしかし、安心しろ。俺様も未体験だ。
「こ、これは」
皿にちんまりと乗せられているのは見まごう事なき俺様の大好物だ。じっくりと眺めれば眺めるほどそのたたずまいは素晴らしい。
「こりぇは、うみゃい」
俺様は一口食べた途端に頬っぺたを抑えて歓喜の声を上げた。なんというおいしさだろうか。やはり、前世と今世合わせてうますぎる食べ物だ。前世で出会ったのは、養い親の家だったが、その後神学校や神殿に上がってからはほとんど出会えなかった。アラザムに渡ってから、「きっとコーヒーにあいますよ」と侯爵家子息のジェダイドが差し入れしてくれたぐらいだったな。いやしかし、なんておいしい食べ物なんだろう。
「兄さまは本当にチョコがお好きなんですね」
隣に座るウォルターがニコニコとした顔で俺様を見ている。はっきり言ってしまえば、俺様のこの反応はマナー違反と言われてしまう行為だろう。だがしかし、五歳児に堅苦しいマナーでおやつを食べろだなんて、まったくもってナンセンスだと俺様は思うのだよ。やはり、美味しいものは楽しく食べるべきだと思うのだ。
「にゃんでお前らは食べないんだ?」
俺様の様子を伺っているのか、いまだ誰一人手を出していなかった。
「にゃにをしているんだ?出されたものにえんりょなんてすりゅもんじゃないじょ」
俺様はそういうとミルクティーを一口飲んだ。うぬぬぬ、けっして不味くはないのだが、あんな夢を見たからか、チョコにはコーヒーが欲しいと思ってしまうのだ。
「兄さま、コーヒーはまだこの体には刺激が強すぎます」
「にゃ、にゃぜわかったのだ」
口に出してなどいなかったのに、なぜかウォルターにはばれていたらしい。
「お忘れですか?コーヒーを飲んだらトイレに駆け込んだではありませんか」
うぬぬぬぬ、そんな俺様の黒歴史をしっかりと覚えているとは、さすがは今世俺様のできすぎた弟だな。俺様と、ウォルターがそんなやり取りをしていたからか、他の四人も食べ始めた。緊張が解けたからなのか、全員ちゃんと笑っている。やはりチョコは正義だな。俺様はふんすと鼻を鳴らしてうまうまとチョコを食べたのであった。しかし、コーヒーが飲みたいという衝動は抑えきれない。ちらっとメイドを見てみたが、察したのか無言で首を横に振られてしまった。
「お客様にございます」
ドア横に立っていたメイドが来客を注げた。この部屋にいるのは俺様を含め、五歳のちびっこだ。(ウォルターは四歳)みなどう対応をしたらいいのか顔を見合わせていたが、誰からの返事も待たずにドアが開けられた。
「楽しいおやつの時間に申し訳ありません」
そんな風に謝りながら入ってきたのはジェダイドだった。
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