第19話 俺様探検隊
学園内で授業を受け、図書館で本を読み漁ったところで、アラザムから闇魔法の使い手がいなくなった経緯が見つからない。帝国やその他の国では常識として知られている、アラザムの騎士たちが中央大陸にある闇の神殿を破壊したことについて書かれた書物は、どこにもないのだ。完全に意図的に隠したと思わざるを得ない。なにしろ五百年ほど昔の話だ。知っている人物はまずいない。
「なあ、ジェダイド」
「はい、何でしょう」
「なぜこの国には闇の神殿がないんだろうな?」
「五百年ほど前に、闇の神官たちが謀反を起こしたからでしょう?」
ジェダイドはさも当たり前のように答えてきた。そう、それがこのアラザム王国に記載されている史実だ。五百年前に突如として闇の神官たちが謀反を起こした。当時の王妃の死がきっかけだったということはあながち間違いではないのだが、王妃に反魂の術をかけようとしたことを、死者への冒涜とされたことにより謀反を起こした。って、無理がある。無理があると俺様は思うのに、こいつらは素直に信じているのだ。
ジェダイドなんて、キラキラした目で俺様を見て、「わからないのなら教えて差し上げます」なんて言ってくる始末だ。俺様がわからないのは、なんでアラザムだけがこんな歴史を国民全員が信じているのかってことだ。黒髪の赤子を排除してしまうまでの経緯も含めて俺様には理解ができない。
「その五百年ほど前のことについて詳しく書かれた書物はないのか?」
「詳しく、ですか……」
俺様の問いかけに、ジェダイドが首をひねった。そもそも学びの場である学園の図書館になければ、あとは個人的に所有しているものしかないわけで、侯爵家であるジェダイドが見たことないということは個人的所有は望みが薄いということだ。
「そうだ、誰が発起人だったのか。とか何日間闇の神殿に籠城したのかとか、そう言ったことが書かれた書物はないのか?」
「……見たことが、ありません、ね」
ジェダイドは気の抜けたような顔で返事をした。と、言うよりも、そんなことに興味関心がないように思えた。
「卒業して、神官になれば神殿の書物が読めるだろうから、それまで待ってみるか」
「それがいいと思います。アトレはとても優秀ですから、すぐに神殿内を自由に歩ける許可が下りるでしょう」
「そうか?それなら、俺様お前に負けないように頑張らなくちゃな」
俺様がそう言えば、ジェダイドは嬉しそうに「私も負けません」なんて抜かしやがった。全く可愛いやつだ。とは言いつつも、俺様は大体の当たりをつけてはいた。真実を書いたものが、神殿にあるはずがない。あるとすれば、この学園内だ。どこの国でも探求力のある学者が真実を見つけ出し、そいつを公表できないまま死んでいたりするものだ。大抵は同じ志を持った仲間や身内が公表してくれるもんだが、この国の闇の歴史であるからお蔵入りしているはずなのだ。
当時の闇の神官本人の手記とか、家族の日記を読みたいところなんだがな、俺様としては。だが、その手のものは個人が書き個人が所有していたからこそ、公に出てこないのだ。それに、俺様の考えとして、個人の日記に記されていたとすれば、それは人目につかないところに保管されているはずなのだ。なにせ、現状のアラザムをみれば察せる。真実が記された書物、すなわち手記や日記は処分されているはずだからだ。
そうなると、個人宅では保管されにくい。金庫や本棚に残されていたとしても、見つけてしまった子や孫が、罪の重さに耐えきれずに処分してしまった可能性が高い。もしくは時が経ち過ぎて発見された場合、危険思想かと疑われて同じく処分されてしまったことだろう。
なぜなら、光魔法の使い手としてとても優秀なジェダイドでさえあれなのだ。まるで集団洗脳としか思えない。これもいろいろ調べが必要だろう。
「付き合わせて悪かったな」
俺様が読み漁った書物を本棚に戻し、二人で図書館を後にする。司書はいつも何も言わず、ただ黙って頭を下げるだけだ。
「夕焼けが眩しいな」
窓の向こうには、赤く染まった大きな夕日が見えた。それの色を受け、ジェダイドの金色の髪が朱に染まっていた。
「すげえな。真っ赤だ」
そう言って縛られていないジェダイドの髪をさわれば、ジェダイドは驚いたような顔をして俺様を見た。
「あ、アトレの髪も赤い。です」
言われたので一房手にとってみれば、俺様の銀色の髪は夕焼け色に染まっていた。
「見てみろ、お揃いだ」
手にとった一房の髪を、ジェダイドの髪に押し付けた。元の色が違うわりに、どちらの髪も朱に染まっていた。
「え、ええ、綺麗ですね」
「ああ、そうだな」
そうやって髪を弄びながら歩き、寮の入り口でジェダイドと別れた。時折ジェダイドは俺様の部屋に遊びに来たがるけれど、普段の俺様の部屋には闇の神官としての書物が置かれていたりするので、隠さないとならないのだ。なにせジェダイドのやつは、俺様の部屋に入ると目を輝かせてあちこち見て回る。前回来た時との違いを見つけ出すのだ。本人に悪気がないだけたちが悪い。
「アカデミーの教授あたりを探ってみるか」
俺様は、中央大陸の神殿についての記述の載った雑誌を手にとった。神殿に赴いた神官の話や、現地を視察した学者の話が面白いのだが、そこに小さく『闇の神殿跡地』と記された写真があったのだ。こんな写真を撮るなんて、なかなか肝の座ったやつに違いない。俺様はこの学者の名前をしっかりと覚えたのだった。
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