第13話


 年に一度、中央大陸にある神殿では世界中の神官が集まり祈りを捧げるそうだ。これはとても大切な儀式で、例え世界のどこかで戦争が起きていたとしても、必ず決行するそうだ。

 そこまで大切な儀式と聞いて、正直俺様の心は踊っていた。何よりも優先され大切にされる儀式とはどのようなものなのか。見習いの闇魔法の使い手であれば、より一層の興味が湧いた。


 光魔法の使い手たちは、現存する光の神殿に集まり祈りを捧げるらしい。だが、闇魔法の使い手たちは集まる神殿が存在しない。はるか昔にアラザム王国によって、破壊されてしまったからだ。だがしかし、なぜだか門だけが存在している。俺様は不思議に思い荒地に建つ門に近づいた。

 門は黒塗りで、そこにびっしりと紋様のような文字が刻まれていた。魔力が込められているのは見ただけでもよくわかったから、俺様はその文字を真剣に目で追った。


「熱心な事だな」


 背後から声をかけられ俺様は顔を上げた。


「まだ幼いが、この文字が読めるのか?」

「読めます」


 俺様が即答すれば目の前の男は愉快そうに笑った。


「アラザムはなんとまぁもったいない事をしたものだ」


 即答した俺様の言葉を聞いて何故アラザムと言ったのか分からず、俺様は首を傾げた。


「ここまで見事な漆黒を纏うものはなかなか生まれないのだよ。幼き魔法使いよ。救済を求める魂たちが求めるからこそアラザムの地にはお前のような漆黒を纏う者が生まれるのだ。残念なことに生まれれば直ぐに帝国にやってくるがな」


 俺様の頭を撫でながら話す男はザイル・アハムと言った。闇魔法の使い手であり闇の神殿の神官であると言う。見習いの俺様のことは遠くから何度か見かけたことがあり、今日こうして話が出来たことが嬉しいそうだ。


「お前たち見習いは補助の役割になる」


 そう言われて俺様たちは立ち位置を決められて立たされた。経典を手に持ち言われた箇所を読み上げる。同じ内容を繰り返し唱えるのが補助たる見習いの役割なんだそうだ。門から一番離れた荒地の端にザイルが立っている。ザイルは両手を水平に広げ、何かをずっと唱えている様だった。経典から時折目を離し、回りを見れば門から一列に闇魔法の使い手たちが並んでいた。皆ひたすらに口を動かし唱えている。

 本来ならこの儀式は神殿の内部で行われるのだろう。その証拠に門からゆっくりとザイルの方へと向かう小さな光の玉が見えたからだ。つまり、闇の神殿は存在しないけれど、闇魔法の使い手たちが安寧の地への道を作り出しているのだ。ザイルの立っている場所が本来なら神殿の一番奥、旅立ちの門があった場所なのだろう。フワフワと漂いながらもソコへと向かう魂たちが何処から来たのかは分からないが、どれもこれもがザイルの体に飛び込むように消えていった。俺様はそれ見つめながらひたすら口を動かしたのだった。

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