第39話 パン

 オレの名前は『みたらし』。

 二歳の柴犬だ。


 木陰で涼んでいたオレの目の前に、不意に誰かが現れた。

 オレは慌てて立ち上がった。

 なんだ、うちの裏に住んでる、お婆ちゃんじゃないか。


 何度抗議しても、オレのことを『おダンゴちゃん』と呼ぶ、あのお婆ちゃんだ。

 まぁ、抗議したところで、犬語が分かるとは思えないけどね。


 ワンワン! 何か用?


 オレの前に何か置かれる。


 なにこれ。パン?

 犬用にパンを焼いたって?


 え? 食べていいの? 食べていいの?


 オレは、お婆ちゃんとパパさんを交互に見る。

 パパさんがうなずく。


 うっまーー!



 しばらくして、パパさんがオレの前に晩ごはんの入った鍋を置いた。


 ぷぃっ。


 パパさんが、えーって顔をしている。

 いや、だって、パパさん、オレがパン食べるとこ見てたじゃん。

 お腹いっぱいで何も入らないったら。


 どんまい、パパさん。

 そして今日も日が暮れる。

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