スペリオル=フリーディア戦線 4
校庭の桜はついに散っていく。春先に僕を歓迎するようにして咲いていた花々、その花びらを踏みつけて僕らは登校していく。五月二五日であった。
ゲームにも顔を出さずに僕は勉強をしていた。これはもはや慣れなのだろうか。高校初の中間テストが始まろうとしていた。
僕にとってはここでより良い点数を取ることが高校受験に落ちた自分の再起に繋がる。だからこそ、僕にとっては負けられない勝負時であったのだ。
「よっ、星雲!」
僕の後ろから声がした。僕のクラスメイトだ。
「ああ、おはよう」
僕の挨拶は相変わらず素っ気ない。だが、彼は特にそのことで腹は立てなかった。
「テスト順調か?俺は酷くてなぁ」
今日話しかけるとしたら当然この話題だろう。
「うん、俺もあまり自信はないかな」
半分本音の言葉であった。実際定期テストは普通の試験と異なり、教師のえり好みが極端に出る傾向が強い。だからこそ、しっかりと勉強してきた僕もはっきりとした自信は持てなかったのである。
「ま、お互いがんばろうぜ!」
「まぁ、うん。頑張ろうね」
彼は軽いステップをしながら校舎へと入っていった。その反面僕の足取りは少し重い。
教室に入り、筆箱のみを取り出す。鉛筆と消しゴムをいくらか取り出して机に並べると、筆箱をしまった。教科書を読み込みながら待機しているとチャイムが鳴る。教師が出てきて、問題用紙を配り始める。二回目のチャイムが鳴ると紙の擦れる音が、一斉にシンクロした。この時には、誰だって集中している。僕も問いに答えることに躍起になっていた。
回答が終わり、見直しをしているとチャイムが鳴った。不安だ、この時点で僕には全く良い予感がしていなかった。
二時間目三時間目と時計の針は無常に回っていく。ついには一日目の分の定期テストが終わり、僕は帰路についていた。
家について始めたのは二日目の試験対策であった。集中を絶やしてはならない、その考えは理性でなく本能的な何かからきているものであった。
二日目、三日目と過ぎてゆく、そしてついには三日目の最終試験が終了した。家に帰るとどっと疲れが押し寄せる。僕は上手くやれたか。そんな問いが心の奥に突き刺さって離れない。自分の部屋にたどりついて、リュックを放り投げると、僕はベッドにうつ伏せになって目を閉じた。
眠れない、疲れているのに、限界なのに眠ることはできなかった。手足が麻痺するような感覚が体を動かさない。心の差し込みが巨大な碇であったことに僕はようやく気付いた。
「久しぶりにあの世界に行くか…」
しばらく行っていない分、かなりランキングは下がっているだろう。今の精神状態を鑑みるに本当は良くないきもするが。
死体のように、うつ伏せになった身体を無理やり起こす。伸ばした右手でゴーグルを掴むと頭につける。そして、その世界へと向かっていった。
僕がいた場所はもの静かな会議室であった。その会議室から出て、党員の人だかりを避けて新本部を出た。そして見えたのは戦前と劣らない都市景観であった。高層ビルが立ち並び、車が通る光景。思わず後ろを振り返り、自分のいた場所が党の本部か疑ってしまうほどだ。
新本部のリベラルギアのマークを見て確信した。この世界の再生速度はすさまじいと。復旧作業には結果的に全く関わっていなかったが、一体どのようにしてこうなったのだろうか。軍服の襟を正して僕は生まれ変わったフリーフィートを見て回る。大きく変わった所といえば、いたるところでリベラルギアの大胆な主張が見られることくらいだ。妙に人だかりが少ないことを気にかけていると、通行人にNPCがいないことに気付いた。全員ライファーを腕に巻き付けている。彼らは既に全員粛清されたのか、そんなことを考えながらも聳え立つビルに驚愕しながらその場を歩いていった。
フリーフィールの都市群を抜けると、次に見えたのはリバラディアであった。終戦した二週間前の黒焦げたビル群はもうそこには無かった。形こそ変わったものの商業施設のにぎやかさは戦前と変わらない。
(そういえばあのそこはどうなっているのか…)
僕がこのゲームを始めて最初に訪れたレストランだ。一回フライドポテトを食べたきりだが、居心地が良かったのは確かだ。
僕は興味津々で郊外に向かっていった。
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