スペリオル党 3
その翌週、僕は早速党の縁で厄介事に絡まれていた。
「ミッションの手伝い?」
ワープホールにて一服していた僕にそう話しかけてきたのは同じバッジを胸に取り付けたスペリオル党員であった。彼らもまたプレイヤーとしてあの設備に惹かれたのだろうか。
「そうなんです!どうにも達成できそうになくて!」
(できそうにない、ということはやってないのか…)
男は丁度レイクよりも一回り下くらいの年齢に見えた。背からアサルトライフルが見え、見た目は明らかに僕よりも強そうだ。
「いいですけど…、あまり僕強くないとおもうんですけど…」
快諾と行きたいところではあったが僕自身もミッションの内容を聞かない限りはそうもいかなかった。
「そうですか?党で相談したらPhyさんに頼めって」
Phyとは僕のこの世界でのニックネームだ。いや、この世界と限定したが正確にはネット上での僕のニックネームだ。
(レイクさん………まさかな)
「はぁ、まぁでも構いませんよ。どんな内容ですか?」
「あ、ありがとうございます。それで内容が、スノウフィールドにいるシロガネキツネを捕まえるっていう奴なんですけど…」
スノウフィールドはミッションを達成する上でもかなりメジャーな場所だった。しかし、僕は当のシロガネキツネを知らない。名前からして、白いキツネなのだろうが。
「わかりました。それじゃあ行きましょうか」
「はい」
自室に戻り、クローゼットから防寒着を出す。いくらゲームとはいえども暑さと寒さの概念がしっかりとあるこのゲームでは半袖で雪原に行くなど言語道断であった。
「腰につけたホルスターにリボルバーを差し込み、背についたホルダーにはボルトアクションを装備する。安物ではあるものの猟銃として扱うならば、十分だろう。
僕は転送装置を使いスノウフィールドに行く。視界が開けるも、吹雪が少し強い。一面の銀世界というロマンチックな景色に対して、横殴りの雪が冷たく僕の顔に当たっていく。
吹雪の轟音をかき分けるように男の声が聞こえてきた。声のした方を向くと男は手を振っていた。
僕も手を振り返して彼の元へ駆け寄る。
「いやー、酷い吹雪ですね~」
笑いながら男はそう言った。
「ちょっと移動しましょうか」
「そうですね」
小走りで、岩陰をつたいながら転々と移動していく。雲が開けているのが見える。それを当てにひたすら走り続ける。幸い彼もきちんと防寒着を羽織ってきたようで特段移動で苦労することはなかった。
「あ、敵です」
そう言って振り向くと、彼は何かと応戦している。視界が限定されており、近づいて確認してみると、それはホッパーであった。
ホッパーはこの雪国に生息している攻撃的な小動物で、いわゆる雑魚キャラと揶揄されがちな立ち位置にいるキャラクターだ。
「…………何しているんです?」
何故か男は一向にホッパーを倒せないでいる。一発、また一発と無駄になっていく銃弾の空を切る音がどこか虚しい。間合いを詰め切ったかと思うと男はナイフを取り出すも一向にホッパーに命中しない。雪の中に潜ったり出たりしているホッパーの様は完全に男を馬鹿にしている。男は困った様子で僕の方を見てくる。
僕はリボルバーでホッパーを撃つ。当然、一発綺麗に命中しホッパーは消滅した。これに関しては特に難しいことでもない。
「あの…」
「……はい」
「もしかして…僕を呼んだのって……」
「うぅ、そうなんですよ。俺なぜか攻撃が命中しないんです」
「ああ……やっぱり…」
僕は苦笑いしつつ心の底からこの男を憐れんでいた。
「あ、ちなみにシロガネキツネは動きが早いらしいので気を付けてくださいね」男は他人事のようにそう言った。
(何故このミッションを受けようと思ったんだか…)
どう考えてもお前には向いていない。僕は男にそう言いたかった。
「まぁ、とりあえず探してみましょうか。ところで、あてはあるんですか?」
「一応、太陽が雪に反射して輝いている場所を好むらしいです」
「随分とロマンチストなんですね…」
そう言いつつ、僕はライファーと空の天候を確認しながら該当しそうな場所を探していた。
「ああ、それならあそこなんて丁度いいんじゃないですか?」
「おおほんとだ、行ってみましょう」
雪原に一歩一歩深い足跡をつけながら歩いていく。僕のスニーカーもあまり状態が芳しくないようだ。
吹雪の脅威から抜ける。それだけで、随分と開放的に感じる。僕はボルトアクションを構えて、どこかに待ち伏せているのであろうそのキツネを探していた。
「あ、銃はキツネがでるまで撃たないでくださいね。音に敏感らしいので」
「了解しました」
装備もさることながら、雪原のくぼみでひたすらに獲物を待ち伏せるその様は、第一次世界大戦の東部戦線の兵士のようにも感じる。不快さと危機感は比にもならないのであろうが。
「あ、なにかいます!」
僕の肩をトントンとたたきながら、男は興奮気味にそう言ってくる。
「あれは、単に雪を被ったホッパーですよ」
僕は集中しているが故に少し冷たく返してしまう。その直後に少し後悔してしまうものの男の収まりきらなさそうな興奮を感じ取るとその不安もすぐに消えてなくなってしまった。
待ち伏せること五分、僕は雪原のなだらかな大地にある一つの違和感に気付いた。
(なんだ…あれ?)
どう見ても、一か所だけ不自然に雪が積もっている。丁度、小動物の入るくらいの大きさだ。こんもりとした小さな雪山はもぞもぞと動いていた。
(もしかして、あれがシロガネキツネ…)
そう感づいた頃には、僕はそれ目掛けて銃で狙いを定めていた。心を落ち着けて、今だと言わんばかりのタイミングで弾丸を放つ。しかし、それと同じタイミングでその雪山はすさまじい速度で弾丸を避けてしまっていた。
まるで、空中に放りだされたそれはまさに白金の名をつけるにふさわしい見た目をしている。あれこそが、シロガネキツネなのだろう。僕は直感的にそう思った。空中にその実を放り出したキツネは狙いの定めるのには絶好のポジションにいた。僕はもう一度引き金を引く。男は横でぎゃあぎゃあと騒いでいる。
今度こそ、弾丸はシロガネキツネに命中する。vr世界にいるが故にその白い体が赤く染まることは免れたがそれでも体にダメージを食らっているキツネを近くで観察するのには多少のつらさがあった。
「やりましたね!Phyさん!」
「え?ああ、そうですね」
僕は彼に合わせてにっこりと微笑む。
ライファーから強制転送の通知がくる。こうして今日のミッションも終わっていった。チャットには『ありがとう』と男のコメントが書かれていた。
「靴は……買い替えるか」
党のデパートに出かければ、市場価格よりも安く買える。僕にとって確かにスペリオル党は有益な存在になっていったのだ。
ワープホールの外に出るとそのすぐ隣の建物の壁にはすでに選挙ポスターが飾られていた。フリーディア共和国の選挙がもうすぐあるということは人伝に耳に挟んでいた。
(どこが勝っても関係ないか…)
僕はゲームをログアウトして再び現実世界へと戻ってきた。
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