スペリオル党 2
目の前には巨大なデパートがある。
(そもそも、プレイヤーが商業施設なんて作れるのか…?)
目の前のスケールに僕はとにかく驚いていた。
車が止まり、レイクと僕は車を降りて、商業施設内に入った。
「おぉ…これは凄いですね…」
通常の店で販売しているアイテムからオリジナルのアイテムや武器、また武器のカラーリングに衣服もそろえてある。僕がこの一週間見て回ったどんな店よりも豪華であった。
「まぁ、実はこの施設自体は党員専用ではあるんですけどね」
(絶対後で、勧誘強制されるだろうな…)
しかし、僕は最悪それでもいいと思っていた。それは、政党に入ることに対して、この施設が利用できるというメリットが少なくとも現段階で僕の中で勝っていたからだ。
「党員にはなにかと手厚いみたいですね」
「まぁ、そうですね。一応現党員にも支援として月に一度給付金も配っていますし」
「そうなんですね」
となれば、仕事量次第なんていう条件を出される気もするが、僕としては良い条件な気がする。
「あ、すいません。少しここ見て行っていいですか?」
「ええ、構いませんよ」
僕が、引かれたのはハンドガンのコーナーであった。
「ハンドガン、お好きなんですか?先ほどの試合でも使っていましたよね」
「ええ、まぁ。軽くて小さいので使いやすいんですよ」
僕は一丁一丁念入りに目に焼き付けていく。その隣にはハンドガン用の追加アイテムやカラーリングが大量にある。
(サイトか…、拳銃に取り付けるだなんて考えもしなかったな…)
僕はその中でも特にスコープが気になった。しかし、買うのは党の話がついてからだ。それに、今の僕には必要ないだろう。その覚悟でレイクさんの方向を向いたときあるコーナーが気になった。
大きなケースの中には人のような何かが入っている。マネキンに服を着せたのだとしたらどうにもセンスがないように感じる。
「レイクさん、あれはなんですか」
指をさして僕はレイクに聞いてみることにした。
「ああ、奴隷ですよ」
「え?」
聞き間違えのようであったが確かに彼が奴隷と言ったのを、脳が記憶している。僕は彼の顔を見るがどう見てもそこに悪気はない。
「え、いや奴隷って、どういうことですか?」
「ああ、いや別に人間を使っているわけではありませんよ。あれはNPCと同じプログラミングでできているんです」
「倫理的にどうなんですか?それ」
「あはは、驚くのは当然でしょうね。しかし、これが党の方針でして」
レイクに悪気は見えない。
「まぁ、いくら奴隷だなんて悪い言い方をしようと、使用者は基本的にミッションにつれて行ったり荷物持ちにしているくらいですよ」
「そ、そうなのですね…」
党の方針、NPCと人間を差別するということであろうか。思想だけで言ってしまえば、優性思想に近いものを感じる。
「スペリオル党は具体的にはどんな政治的な主張を持っているのですか?」
「気になりますか?」
レイクは少しほほ笑むように、どこか悪戯心のある目で僕をみた。
「ははは、少し興味があるのかもしれませんね」
僕は作り笑いをしながら、自分のことを他人のようにして彼に答えた。
「それはですね、人類によるこの世界の支配ですよ」
その言葉に耳を疑う。
「でも、この世界を作ったのは人ですよ。だってアボスから届いたんじゃないんですか?あなたのvrゴーグルも」
「確かにこの世界のシステムを構築したのはアボスですが、今現在彼らはその管理権を放棄しています。一見ゲームに従順そうにしているNPCたちも野良犬同様の存在なんですよ」
「ゲームのシステムを放棄したってどういうことですか?」
僕はレイクの雰囲気が次第におかしくなっているようにも感じる。
「アボスは元々この製品をちゃんとした商品として販売することを想定したいました。でも、CEOがかたくなに反対したようなんですよね。それで完成しかけていた所謂vrゲームの完全体の計画が頓挫した時、アボスの幹部が秘密裏に流してしたそうなんです」
「その話のソースは?」
僕はレイクの話がこの時点ですでに信じるに値しないものになっていた。
「そんなの風の噂に決まってますよ」
「はぁ…」
でまかせを言っているような気がしてならない。しかし、どうだろう。僕にこの党の支援があれば、今後のランクマッチでかなり優位に立てるのではないだろうか。彼の言っていることが危ういのは確かだが、悪魔に魂を売ってでも僕は強くなりたかった。
「まぁ、僕は入っても大丈夫ですけどね」
「へぇ、本当ですか?」
「ええ、まぁ」
どうせ、ランキング上位の連中もいずれ入党するに違いない。いや、もしくはもう入っているのかも知れない。
「そうですか、ならあちらにて手続きを行えますか?」
促されるままに僕は党の本部へと入っていった。書面の手続きは何処か公務館での出来事を思いださせる。スペリオル党の内部は、見えにくいものの、少し暗く壁にはポスターがいくらか張ってあった。選挙運動のポスターなのだろう。党員は全員胸にバッジをつけており、その統一感はどこか全体主義的側面を感じさせるものであった。現に僕の右胸にも蛍光灯に反射して銀色に輝くバッジが胸についていた。
「さ、無事入党できた訳ですしまたデパートを見て回りますか?」
「そうですね」
僕は本部を出てデパートへと向かった。何よりも、気になった奴隷売り場へと向かう。
「…………」
近くで見れば見るほど気が狂いそうになる。自分と全く変わらない彼らが人間ではないこと、そして奴隷として扱われていること。普段、NPCなんて飽きるほど見てきているというのにもかかわらず、どうにも僕の心は揺れ動いたままであった。巨大な液体の中に管も繋がれず眠っている彼らが生き物でないとわかっていても僕の脳はそれを認めはしなかった。
「五十万…って高いな…」
奴隷の有用性は僕にもある程度把握できる。だからこその価格設定なのだろう。しかし…僕が頑張って一年…もしくはもう半年かけてやっとたまる金額だ。運が悪ければもっとかかるかもしれない。
「…………」
無言でデパートを去った。何か見てはいけないものを見てしまったような気分と共に雰囲気に押されて僕は疲弊しきっていた。
党の施設を出るとすぐにログアウトした。
「はぁ……」
黄昏の光が窓からベッドを照らす。汗まみれの重い体を起こし、僕は水を一杯飲みに向かった。
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