スペリオル党 1
息を切らしながらも廃工場に駆け込む。僕はすぐに段差に隠れて敵の足元を探る。案の定、僕が駆け込んできた入口からライトマシンガンの長い銃口と共に二本の足が動くのが見える。
(見つけた!)
僕はすぐさまハンドガンを構える。引き金を引くと、右足首に命中する。相手が倒れこんで頭を下げる。僕はその隙を見逃さずに男の脳天を撃ちぬく。男は消えてしまい、あとには彼の装備品が残っていた。
(うぅん、こんな重いもの扱える気がしない…)
僕の身長にすら届きそうなライトマシンガンは武器としては使えそうだ。
無性に好奇心が湧き僕はそっとそれを持とうとする。
(お…、重たい……)
やっとのことで持ち上げられたライトマシンガンはまるで米俵を持ち上げるようにして僕の腕の上に横たわっていた。
(やっぱり、使えそうにない…)
僕は装填されていた弾丸を抜きそれを自分の腰に巻き付けた。
(あと三人…)
初めてミッションに挑んでから丁度一週間経ったこの日、僕はバトルロワイヤルに参加していた。勇気を出して飛行艇から飛び出し、ハンドガンとアサルトライフルを手に僕は初参加ながら、好順位に上りつめつつあった。この一週間で、かなりvr世界のプレイヤーが増えたように感じる。現につい三日前は同じ日本人にあったくらいだ。ほぼ全てのプレイやーは外国人だ。当然、多くの人とは言語すら通じないという不便さはある。せいぜい義務教育で培った英語力を発揮するくらいだ。特に、アラビア語やロシア語は文字すら知らないので会話する様はまるでエイリアンだ。翻訳機能はあるにはあるらしいが、これにもまた課金が必要だそう。
僕は廃工場から出て、小さな丘の上に陣取る。AK―47を構えて、目で追える限り周囲の敵を探す。腕は少し震えており、呼吸のテンポが上がっていく。
ドン、ドン、ドン!
銃声がどこかから響く。迎え撃つように別の方向からも銃声が鳴る。僕が丘の下を除くと二人が争っていた。
(しめた!)
すぐに片方のプレイヤーが倒れてしまう。もう片方のプレイヤーはきょろきょろと首を回している。僕を探しているのだ。木陰に隠れてAKを構える。相手の胴体に照準が合う。僕は引き金を引いた。数弾相手に命中する。相手もこちらに気付き、僕に銃を向けた。相手が絶え間なく打ち続けると、肩に銃弾がかすり、腿には銃弾が貫通していた。
しかし、決して痛みはなかった。これはあくまでもゲーム。当然、実際に銃にあたった時のような筆舌に尽くしがたい痛みは生じないように設定されている。
相手の胴にさらに数弾の弾が撃ち込まれたことで相手はヒットポイントがとうとうゼロになった。僕の勝ちだ。目の前に堂々と『VICTORY ROYAL』の文字が出現する。花吹雪の舞う中で外部の野次馬たちの賞賛の声がこちらにまで聞こえてくる。
ライファーが反応し強制転送が実行される。僕はエントランスに戻った。ワープホールのもう一つのプレイヤー同士の触れ合いの場だ。
「JAPANESE WON!」
賑やかに多言語が飛び交う中、どこからかそんな声が聞こえた。僕は少し照れてしまう。誰かに褒められるのにはどうにも弱い。僕はにぎわっているリプレイ画面の横にあったランキングを見る。113位、これはこのゲームの全プレイヤーの戦力のランキングであった。学生としてのハンデを背負ってはいるものの、僕は今自分が熱中しているこのゲームでどうにか好成績を納めんと奮闘している。
何故、僕がここで必死になっているのか、そこにはこのゲームのシステムが関係していた。このゲームではワープホールで稼いだ通貨が現実世界の金に変換できるのである。しかし、実際は外貨換金税という共和国内にある制度のせいでかなり差し引かれてしまい、懐に入るのは雀の涙だ。この税制度を免除する方法は一つしかない。それが、この戦闘力ランキングである。上位百位以内に一週間以上入ればその時点から税制で取られる金額が半減する。さらに五十位圏内、十位圏内と順位が上がるごとに好待遇になっていく。運営側であるアボスが作った仕組みだからこそここまで都合がいいのだろう。
(一位を取っている人は一体どんな生活を送っているのだろうか)
僕と一位の人のスコアを比べれば天と地ほどの差がある。
エントランスを立ち去ろうとした時、一人の男に声をかけられる。
「やぁ、見事だったよ。さっきのゲーム」
「ああ、どうも」
日本語が通じる人に会うのはこれで二回目であった。
この世界では現実世界のルックスがゲームのデザインとして変換され、身体能力も現実世界のものが基準となる。そんな中で、この男は二十代前半の物静かな雰囲気をまとっていた。
「もしよかったら、少し話を聞いてくれない?」
「え?あ、はい」
不思議に思いつつも男の話を聞くことにした。詐欺か宗教勧誘か、商売の持ちかけか。
「というわけで、僕はこういう者です」
男が見せてきたのは彼が胸にかけてあったプラカードであった。男の顔写真、ニックネーム、そして彼の身分が記されている。
「レイクさんですね。そして…スペリオル党?政治団体の方ですか?」
「ええ、このフリーディア共和国にてプレイヤーによって結社された政治団体です」
「へぇ…それはそれは…」
まさかそんなものがあるなんて思わなかった。確かに、国があるならば政治があってもしかるべきか。
「まぁ君に話しかけたっていうのは聞こえが悪いけど所謂勧誘さ」
「まぁ、やっぱりそうですよね」
僕は、彼があまり熱心な党員でないように感じた。
「そこでさ、うちの党が作っている商業施設があるんだけど、よかったら見に行かない?」
僕は数秒考えたあと答えを出した。
「はい、ぜひ行ってみたいです」
そうときまったかのように、僕は気づけば車に乗っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます