もう一つの世界 4

 ゲームが、終わるとすぐに僕は鉛筆を取り勉強を始める。ノートを無機質にただひたすらに書き続ける。

 (つまらないな…)

 その時はっきりとそう思った。いつ以来だろうかこんなことを思ったのは。思えば、小学校の時の僕は勉強嫌いだった。自分の好きなことを好きなようにやっていた。友達と笑いあいながら公園でサッカーをしている光景がどこか懐かしく映る。

 僕は馬鹿だった。気づいた頃には、父も母も教師も僕に失望していた。だから、僕は鉛筆を握った。小学校一年生の頃の嫌な思い出が浮かんでくる。それでも、やるしかないと鉛筆を離さなかった。机に向かいっぱなしで、一日中、誰かに認めてもらう為の努力を惜しまなかった。

「そうか、僕は元々勉強なんて好きじゃないんだ」

新しく、ひらめきを得たように僕はそう言っていた。確かに、そうだった。エリートになりたいという漠然とした目標も僕が中学に入った頃からあったような気がする。

僕は自分に自信があった。中学に居た頃の自分がいまでも誇らしく思えるほどに。周りからは常に秀才と言われ、教師からの好評も揺るぐことはなかった。学問、運動、芸術…あらゆる分野で常に誰かをあっと言わせるために努力した。小学校の頃に感じていた冷たい視線などどこか遠い彼方へと葬りさっていた。

その結果が、このどうしようもない僕自身であった。vr世界にあってこの世界に無いもの、それは僕自身が今直面している現実であったのだろう。あの世界には真実はない。それ故に、僕は楽しめるのだろう。

窓の外に張っている一本の電線に烏が止まっている。音こそ聞こえないものの仲間を呼ぼうと必死に叫んでいるのが見える。一分、二分、時間が過ぎていく内に烏は諦めたのか翼を広げてゆっくりと地面に降りていった。

しばらく、すると一羽、二羽の烏を連れて彼らは何処かへと飛んで行った。

(お前は、独りじゃないんだな)

たった一人、心の中でそう呟いた。

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