贈り物 3
(中にまだいろいろと入っている)
僕は順番に箱の中に入っていたものを並べ始めた。vrゴーグル、取り扱い説明書、充電器、そして一通の便箋、やはり僕には心当たりがなかった。それどころか、人違いで送られたのではないかとすら思えてしまう。
(記憶にない…でも確かに名前が書いてあるからなぁ…。そうだ、便箋の方には何か入ってないかな?)
僕は再びはさみを持ち出して便箋の上の部分をきように切っていく。中からは一枚の紙が出てきた。コンピューターにて打ち込まれたであろう文章を僕は慎重に読み進める。
『おめでとうございます。あなたは数あるアボスアカウントの中から厳正な抽選によって選ばれました。この弊社最新のvrゴーグルをつけてアボスの世界をお楽しみください。またこの製品は非売品です。転売は禁じられています。………………………』
と長々とした説明文が続く。
(アボス……ってあの…?でもなんか怪しい気が……。なんでアメリカの巨大企業が僕宛に贈り物を届けるのかもわからないし、やっぱりこれ新手の詐欺なんじゃ…)
アボス、正式名称:アストラル・ボストン・スノーキーカンパニーはシリコンバレーにある有名なIT企業だ。元々はボストンにあった小さな物作りの会社だったのだが、今となってはスマホ、タブレット、パソコンなどの電子機器の販売をはじめ誰もが使っているような有名なSNSや検索エンジンなどの数々の事業を多くの国で展開している。アボスの収益は莫大であり、今でもアメリカ経済の五割を握っていると言われている。
(メールなんかでアボスのアカウントを使っていたな。確かにネットショッピングは使わないけど、登録しないとアカウントが作れないとかで入力した覚えがあるような…)
僕の記憶は頼りないほどに曖昧なものであった。
(だとすれば、特におかしいところはないのかな?住所知っている以上はこちらに送ってくることくらい可能だし。それに、本名だってSNSの登録の時に入力していたはず…)
あらゆる言い訳じみた弁論が僕の思考をめぐる。
(そう考えると、個人情報の流出って恐ろしいな…)
なによりも先に僕はそう思った。
一企業に自分の詳細まで握られていると考え、僕は自分の手を顎に当てて審議を判断しようとする。
(信じてみよう…)
僕は慎重にそう判断した。
(確か今世界で僕たちみたいにアボスのアカウントを使っているのが五億人だったはずだから…きっと目がくらむような倍率だったのだろうな…)
僕はそっとvrゴーグルを手に取りその手をわずかに震わしながらそう考えた。部屋の照明を反射する白と黒を基調とした塗装はあたかも年頃の少年に近未来を連想させるような煌びやかなものである。当然、僕もそれに魅了されていた。
(一旦ここに置いておくか…)
僕は机の引き出しの中に届けられた一式を詰め込んだ。同じ引き出しの中から彼はノートパソコンを取り出す。彼が学習用及びネットサーフィンで使う代物であった。
電源を入れるとパソコンの画面中央で円が無機質に回り始める。僕はそれを凝視する余裕すら見せず常にキーボードを押しながら待機している。パソコンが起動すると僕は即座に検索エンジンを起動する。僕は検索欄に素早く文字を入力する。『アボス vrゴーグル 抽選』、しかし、案の定とでもいうかのように検索結果には僕が欲しがる情報が合致しなかった。諦めないとばかりに、僕はもう一つの検索エンジンを開いた。というのも先程の検索エンジンはアボス製のものだったのである。再び先ほどの作業をくりかえす。しかし、僕が欲しいような情報はまたしても無かったのである。
(そもそも検索エンジンによってサイトが出ないようにするって可能なのか?)
自分自身に問いかけた後にわからなくなってしまう。
僕は未だに情報の出処を探すことを諦められてはいなかった。
(そういえば、メールには何か来てないのかな?)
そう言いながら僕はメールを開いた。普段は学校や家族との連絡網でしかないため、僕は思い出すことすら億劫だったが、この時だけは躊躇なくメールを開いた。
(来てないか…)
一瞬の期待がそがれたことに少ししゅんとしてしまっていた。それに応えることもなく無常に新規メールの空欄が存在する。僕は思いつく限りの情報調査をして遂に暇になったことを自覚する。しばらく天井を見つめて考え込んだ後、ベッドに突っ伏して掛け布団を被った。
(今、多分僕はわくわくしているんだな。でも、なにかしら情報がつかめ次第やってみたいな)
僕は内心で、その非現実さとなぜ自分が選ばれたのかという疑問、なによりも舞い上がる興奮により頭が今にもパンクしそうになっている。僕は往々にしてそのような時は無駄に考えるよりも寝ることにしている。瞼を閉じて数秒、意識が無くなり、既に寝ていた。すぅすぅと寝息を立て、オーバーヒートした思考を遮断する。
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