贈り物 2
電車は僕の学校の最寄り駅に到着した。僕や僕と同じ制服をきた学生が次々に下車する。そんな中で僕は早歩きでひときわ早く、学生の集団から抜け出して通学していた。
改札を出て信号を待ち、そのまますたすたと歩いていく。スマートフォンをいじりながら、飽きれば再びすたすたと歩いていった。学校は山のてっぺんにあった。住宅街を抜けると登山道のような道を進みながら、僕はようやく本校舎へとたどりついたのであった。汗で制服は濡れ、僕は既に疲れ切っていた。
最後の力を振り絞ってクラスルームまでたどりつくと、ロッカーに自分の荷物をいれてそのまま無言で席についた。筆箱だけを机の上に置いておくと、僕は再びポケットからスマートフォンを取り出して先ほどの雑学サイトを見ていた。学校の規則では校内でスマートフォンを見るのは禁止されていたが、その規則はこの学校内では形骸化していた。彼がそれに気づいたのはほんの一週間前のことである。それから僕は定期的に学校内でスマートフォンを見ていたのだ。僕はクラスの中で、特に人脈が根強い訳でもなかったため、誰かに密告される心配もほとんどなかった。
「おっまえー、またスマホいじっているのかよ」
そう話しかけてきたのは僕が珍しくこのクラスでよく話すクラスメイトであった。僕は、その手に鉛筆を握っており、数学の問題集をひたすらときながらこちら側に話しかけていた。ノートの問題番号を見ると彼が授業よりも進んだ範囲をすでにやっているのはすぐにわかった。
「そういう君は数学かい?よく飽きないね」
僕は冷めたようなむしろ暖かいような目でほほ笑むようにしながらゆっくりとそう答えた。僕は比較的勉強嫌いであったため、勉強時間は基本的に最小限にするようにしていた。僕は目標のために絶えず努力ができる人間というわけでは決してなかったのだ。だからこそ、彼のように好んで勉強できる人間が僕にとっては理解できなかったのだ。
会話はすぐに終わった。というよりも、僕自身があまり会話を続ける気にならなかったのだ。そのまま、チャイムが鳴りホームルームが始まった。担任の先生が来週のスポーツ大会について話す。話し半分に聞き、ホームルームが終わるとすぐに授業が始まった。化学基礎、僕にとってはほとんど興味のない話であった。それから、流れるように時間が過ぎてゆく。僕はノートを取りながら授業の内容を把握しようと必死に追いつこうとした。僕の通っている高校はいくら併願校であったとしても、進学校であることには変わりなかった。授業のスピードはとても速く、僕がついていくにしてもかなり苦戦を強いられていた。しかし、僕からしてみればこれくらいが丁度良かったのである。現に僕は中学校の授業中にうっかり寝てしまったこともあるくらいなのだ。数学…地理総合…英語コミュニケーション…化学基礎、現代国語そして体育、僕が帰りのホームルームに参加する頃には半分寝かけているくらいに疲れ果てていた。
帰りの挨拶を済ませると僕はそそくさと下校していった。学校を下山し住宅街を抜けて一本道を突き進む。駅について、彼は自販機で缶コーヒーを一本買った。
(まだ慣れないなぁ、新しい生活スタイルには)
大きくため息をつきながらコーヒーを飲み始める。
(朝は汗をかくし帰りは眠たくなるし…)
心の中で愚痴を吐露して、僕はいくらか気分がよくなった。電車が来ると同時に僕はコーヒーを飲み終え、ごみ箱に捨てたと同時に電車に乗り込んだ。朝のようにスマホを見ている余裕もなくただ、席にすわって向かいの広告を見つめている。読んでいるようでいて内容は全く頭に入ってこない。
電車はいつの間にか家の最寄り駅についていた。僕は重い荷物を背負って、朝来た道を戻るようにして家に向かっていった。
リュックから鍵を取り出そうと、肩にかけようとするもどうもかかった力が大きすぎて僕には耐えられそうになかった。リュックサックの肩掛けが強く食い込む。
地面にリュックを置く。息は少しだけ荒くなっていた。
リュックから鍵を取り出して、重荷を背負いきった僕が疲れた目でドアの前に置いてある段ボールを見た。
(ああ、誰かがネットで注文したのかな?)
僕は段ボールを抱えたまま鍵を開けて家に入った。無機質に閉まるドアの音が僕以外の人が外出していることを強調した。僕の父親も母親もこの時間には仕事で家にいないのだ。僕にとっては慣れていることだったので特に気にすることもなかった。第一、僕は自分を孤独とは思っていない。丁寧に鍵を閉めると、僕は、リビングルームに向かった。ダイニングテーブルの上に段ボールを置き、その足で自分の部屋まで向かっていった。ただし、朝のように駆け上がることはできず、まるで足腰を痛めた老人のようにゆっくりとあがっていった。
僕は自分の部屋に入り、手際よく制服から私服に着替えると、手を洗いにいった。リュックから解放された体は枷を外した牢人のごとく軽々としているようにも感じる。洗面台で手を洗い終えると僕はリビングルームに再び向かい、弁当と水筒を洗った。ふと、僕はテーブルに置いてある段ボールに目が向いた。僕は近寄って何が入っているのかを確認しようとする。
しかし、それよりも驚くべきことは宛先が僕の名であったことだ。父親や母親の名義のものは何度も見てきたが僕宛の贈り物などはこれが初であった。
(なんだろう…開けたほうがいいのかな?)
不安に思いながらも、恐る恐る自分の部屋までその段ボールを持ち運んだ。僕がより重いリュックを背負っていたからか先ほどまでは感じなかった重みがずっしりと手に負担をかける。彼はそれを床に置くと、はさみを取り出した。刃を滑らせるようにしてガムテープの包装を切っていく。
(なにか懸賞に応募した覚えもないし、自分名義での贈り物には全く心あたりがないし…)
僕は淡々と作業をしながら、そう答えた。
(まぁ、僕の名義で送ってきたのに開けちゃいけないなんてことも無いか)
そう考えて僕は中に入っていたものをそっと取り出した。持った時の感覚でそれが機械であることはすぐに分かった。僕は細心の注意を払うようにしてゆっくりとその中身を床の上に置いた。
「何…これ…」
僕は思わず声に出してしまった。それはいわゆるバーチャルゴーグルと呼ばれる仮想現実に入るための一種の機械であった。僕がその手の情報に特段詳しい訳では無かったが、少なくとも最近テレビでしきりに放送されているものとは違うとこは見た目からわかった。
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