贈り物 1
僕は早歩きで駅まで向かう。商店街を抜けてまた今日も学校にいかなければならないと感じ再び早歩きに拍車がかかる。駅に着くと、僕は階段を一段とばしながら素早く駆け上がっていく。そのまま小走りで改札を通り電光掲示板から今日もまた電車が動いていると確認する。
「お、空時じゃん!」
そう話しかけられた時、僕はすぐさまその方向を向いた。その声には聞き覚えがある。
「え?ああ!甲本!久しぶり!」
甲本は僕の中学校時代の知り合いであった。甲本も制服を着ている。恐らく彼もこれから学校に行くのだろう理と解した。
「あっ、ごめん。もう行かなきゃ」
僕はそう言って自分の乗る電車の来るホームに向かった。
(甲本か。あの制服だから城静高校か)
(うぅ…、にしてもなんか青春満喫しているっぽいなぁ…)
僕は少しため息にも近い心情を吐露した後に人を避けながら、階段を下りて行った。周りを見ると、同じ学校の制服を着ている生徒がちらほらと見えてくる。しかし、見える大半の人々はこれから仕事に向かうのであろう大人たちであった。僕は近くの列の最後尾に並ぶと重いリュックを肩から降ろしてスマートフォンを見始める。僕は友人とやり取りしながらインターネットからとある画像投稿サイトを見ていた。これは僕が高校に通い始めてから行っている一種の習慣であった。
彼以外の生徒は全員単語帳や漢字練習帳を食い入るように見ながら暗記していた。そんな、中ぽつんと取り残されたような気分になる。
僕は自分の好きな美少女系アニメのイラストを見ていた。僕はそのような趣味に傾倒している訳では無かったが、暇なときに関連ゲームをやったりと嗜む程度には楽しんでいた。
(にしても…こういうタイプの好みで僕の女子の好みがはっきりするものかな?特に女性にタイプがあるわけでもないけど…)
僕はそう考えながら無表情にスマホを動かし続けている。確かに僕が閲覧しているイラストには作風の共通性はほぼ見られない。何度か友人に好きなタイプの女性を聞かれた時も僕ははっきりとした答えは出さなかった。ただ何か商品の検閲でもするかのようにスイスイと画像を流していく。恐らく僕の目は終始くるくると回っており、それだけこの時間に集中し楽しんでいた。
(あれ、タイプの好みとかじゃなくて、なんというか、キャラクターで共通点があるんじゃ?)
僕は自分が閲覧した画像の利益を振り返る。
客観的に振り返ると自分の中でも共通点がわかってくる。
(…………………)
僕はゆっくりとスマートフォンの画面を暗くしてポケットの中にしまった。実のところ、僕の仮説に一切の信ぴょう性は無いはずだ。僕は、知りたくなかったと言わんばかりの不満げな表情を浮かべてしまう。
(まぁ、こんなのは犯罪起こさなきゃなんでもいいんだよ…)
僕はいつも気づけば、あるキャラクターの画像を見てしまう。それはレインという二次元の人気キャラクターだ。気づけば、僕はオタクと呼ばれるに等しい存在になったのかもしれない。
僕の心の内でささやいた声を打ち消すように勢いよく電車が到着する。僕は茫然と電車の勢いに驚き羽を広げてばたつかせる鳩の様子を見ていた。
(誰かに指摘される前に気付けてよかった)
そういうと僕は再びスマートフォンを立ち上げ雑学を取り扱うサイトを閲覧し始めた。僕は本来暇な時にそのサイトを訪れていたのだが、いつもの習慣がこの時だけ、どうも気恥ずかしくなったのだ。ゆったりと列が進み電車に乗ると僕は、一刻も早く忘れようと言わんばかりに、早いペースで文章を読む。
(はぁ、自分で勝手に始めたことなのになんだか恥ずかしくなってきちゃうよ…)
これからこの趣味は家に留めておこう。僕はその時そう決心した。
(というか、今日英単語の小テストがあるんだった…)
少し、考えたあと僕は一つの結論に至った。
(別に大丈夫か。いつも苦戦しているわけでもあるまい…)
僕の右の生徒も左の生徒もみな誠実にも単語帳を一生懸命に読んでいる。僕はやる気が無いこともあったが、その真ん中でひたすらスマートフォンをいじり続けている。
しばらくすると、スマートフォンの電波が切れてしまい、僕はとうとう飽きてポケットの中にしまった。窓をみても、トンネルの中にいるせいで、これといって面白くはなかった。僕はつまらなそうな顔をしながら吊り革にぶら下がっていた。
(学校は…苦手だなぁ…)
嫌な感情が僕の中に一瞬よぎった。
(いいや、嫌いなんて考えるべきじゃない。自分が元々行く気にならなかった学校なのは確かにそうだけれど、まだ、チャンスはあると思うから…)
チャンスというのは大学受験のことであった。僕には一つの目標があった。それは僕が秀才やエリートという存在になるというざっくばらんなものであった。僕が名門学校に入り周囲からそう呼ばれたい。あるいはそう生きたいと強く願っていたのだ。
きっと、僕には介入できない程に強く頑固になってしまうことが時々あるのだろう。僕の知り合いの多くはそのような時、特に僕に対して反対するようなことはしなかった。半ば、諦めていたのであろう。
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