第62話『桃太郎一族』

「今ので最後か?」


 掴み上げた魔核からは、指の隙間を縫うようにして熱くもない赤い炎が立ち上がる。


 あれから体感で1時間もしない内に、回収はおえられた。

 今回は赤い炎で包まれた赤い卵の形をした魔核だ。


「ルゥナ、今回のは何かわかるか?」


 空に浮いたまま左右の手をそれぞれ腰に当てて、前屈みになり俺の手にひらに乗る魔核を眺めた。


 すると感心したのか、目を開き口は半分開けた状態で頷く。


「本当に宝庫ね。今回の物は、スキル強化の魔核よ。個人差があるから食べてみないことには、なんともいえないけどね」


 なるほど、魔核でスキルを強化できるのか……。


 俺の闇スキルにも影響はあるのだろうか。

 数にして、一人10個分の数は拾い上げたので試す分にしては十分すぎるほどある。


 俺は皆に確認をしようと声をかけた。


「今回皆の分を考慮すると一人あたり10個ある。食べればいいなら、後で皆で食べてみるか?」


 すると皆物珍しそうに、魔核を覗きにやってくる。

 レイナは楽しそうに魔核を見つめる。

 

「へ〜。あたいの斧スキルも伸びるといいな〜」


 続いてリムルも期待を寄せている。


「氷結魔法がさらに高まるのは嬉しい」


 アリッサも同じようだ。


「私の火炎魔法がさらに強化されるのはありがたいぞ」


 かぐやは自身に魔核がないこともあり、効果の程は疑問の様子だ。


「ワタクシと京也はどうなのでしょうね?」


 皆それぞれの感想がでてくる。


 ルゥナは少し考えると、気軽な感じで推察を述べる。


「かぐやと京也も多分だけど、少しは強化されるんじゃない? 闇レベルの効率は悪いけど、それでも少しずつは上がっているし」


 ルゥナの考察は俺も同じだった。

 わずかにでも経験値を食らって上がるなら、今回の物も恐らくは同じだろうというのは至極真っ当だ。


 かぐやは普段苦労していたような様子を見せる。


「ワタクシも慣れてきたとはいえ、普通にはなかなか上がらないので苦労しますわね」


「ああ、俺も同じくな」


 お互い顔を思わず見合わせて、互いの苦労を理解したかのように苦笑してしまう。


「今いる場所って、ワタクシたちのように魔力がない者向けへの救済措置として、用意してくれたのかしら?」


「ああ、俺も疑問に思っていたんだよな」


 入るための暗号が特殊すぎて、かぐやは誰も入れないのを危惧していた。

 

「他の者が仮に見つけたとしても、入るのがほぼ不可能ですわ」


「だよな。見つけるのも入るのも俺の故郷のことを知らなければ入れないなら、利用者はかなり限定されてくるな」


「不思議ですわ。なんだか京也と同じ故郷の者がくることを、前提にしている感じがしますわ」


 かぐやのいうことは最もだ。

 予想に難しくないことだし、勇者もわかっているはずだ。なのになぜなのか?


「ん〜。となるとやはり、雷禅の知る勇者召喚の理由を辿るのが最も謎に近づけそうだな」


 あえて同郷の者に限定したなら、もしかすると当時は、多量に召喚をして消耗品のごとく使い潰されていたのかもしれないと類推できる。


 かぐやは疑問を口にしていた。


「その方はなぜ知っているのでしょう?」


「俺にもわからないな。死に際に聞いたことだから、知っていること以上の情報は何もわからないんだ」


 かぐやはどうやら俺のことを心配のあまり、詳細を聞きたがっているようにも見える。

 同じく魔核がない者同士でさらに、親近感が湧いたのかもしれない。


「ますます謎ですわね。ワタクシも魔核がないですし、恩恵に授かれるのはありがたいのですけどね」

 

「やはり転移してきた者たちは魔力がなく、当然魔核もないから魔法は使えない。代わり別の力を持った。となるんだろうな」


 やはり、よくわからなくなってきた。

 いい能力があるともわからない奴に期待するほど、困窮していたのだろうか。


「目的が本当に謎ですわね。勇者の幻は何かおっしゃっておりませんでした?」


「女神との関係性を中心に話していて、他には本や武具への今後の備えについてと、他にもある同様の施設へ行くことを提案していたぐらいだよ」


 詳しく説明する時間もなかったのかもしれない。

 重要な物だけを渡して、あとは自分の力で調べて切り開けというのもあるかもしれない。

 どうせ時間が経てば人や情勢も変わりゆくのが世の中だ。


「提案だけだったのですね……。ワタクシにはわからない言葉でしたので」

 

 それにしても何を目的として用意されたのか、意図が読めない。

 わざわざ貴重な魔核を獲得させるついでに実戦訓練も兼ねて、用意したのだろうか。


 気になることは、先代勇者は女神とうまくいかなかったにしても、何と戦っていたのか疑問が尽きない。

 もちろん、世界を融合から守ろうとしていたのは、言葉額面どおり受け取れる。

 神々との戦いと融合がされたあとの戦いのふたつも示唆して準備をしていた。

 そこで何故、神々が出てくるのかわからない。

 

 それでもやはりよくわからないのは、問題は勇者を召喚して何をしようとしていたかだ。

 召喚しようと画策して、実行に移した者が世界の融合を知っていたのだろうか。

 召喚勇者は基本的に、過去にどれぐらい行っていてどれぐらい生き残ったのかわからない。

 京也が知る異世界にかかわる品は、何ひとつ見つからないから、存在自体は知られていたとしても、隔離されていたか消耗品のごとく扱われていたのかもしれない。

 

 状況を整理しているとひょっとしたら、何かとてつもない野望に巻き込まれたか、もしくは世界を変える一端に関わり始めたような、そのような予感をどこか京也は感じていた。


 残された書物をまだ読んでいないので、時間を作って調べた方が良さそうだ。


 世界を喰らうなど、いくらルゥナが近いといっても存在している時間感覚が異なれば、当然という感覚は、普通の人とは異なると見ている。


 戦いへ備えるにせよ、数年でも技術の差が大きくでるのに、数百や数千などでは天文学的な差が出ても不思議ではない。


 なので、技術の差を縮める努力はしても、勝てるなどと思わないことにしている。


 差を埋めるのは、1点突破の力が今は現実的だろう。


 だからこそ、よりよい装備を集める必要はあるし、闇レベルを上げる必要がある。

 俺の唯一の能力は耐久だ。耐えさえすればどのようなことでも克服できる可能性が高いと思っている。


 もし融合するとき、俺はどちらの世界の味方か……。


 考えるまでもなく、どちらでもないな。俺の仲間を仇なす者が敵で、神や種族や世界の違いは何ひとつない。


「京也! 京也! もう、また考えこと? それってあたし? イヒヒヒ」


「あっ、悪い。つい考えてしまって」


「ん? 全然人の話、聞いていないでしょ?」


「え? 何が?」


「もう……。いいわ。そろそろ出口に向かわないとね」


「見つかったのか?」


「んー。多分?」


 わかっているけど、疑問系で返すのはいつものルゥナらしい。

 俺たちは、ルゥナの案内を頼りに進んだ。


 

 ――夕方。


 

 その頃、とある場所にて円卓を囲む者たちがいた。


 辺りは片付けられており、破壊された部屋の瓦礫は無くなっているものの、まだ修理は終えていないため痛々しい有様だ。


 屋根はなく、壁も仮の板が置かれている程度にしかない。


 机だけは非常に貴重な物で頑丈らしく、爆発でも傷ひとつもつかない強度は、あり得ないオーパーツだ。

 

 囲む者たちは、怪我などなかったかのような装いと振る舞いを見せている。さすがにお抱えのヒーラーがいる一族は違う。


 人の体は瞬く間に治してしまうし、瀕死であっても何も問題なく回復をしている。


 ただし、人に対しては良くとも物についてはどうにもならない。

 悲劇ともいえる大爆発に巻き込まれ、損壊から無傷で生き残ったのは目の前の奇妙な円卓だけだった。


 破壊の痕跡が残る部屋で、会議する者たちは総勢で12名いた。座席ひとつは空席だ。


 実に個性的な面々が募る。


 筋骨隆々でまるで筋肉に吸われているかのごとく、はち切れんばかりの紋付はかまで桃太郎の衣装を着る3人。


 猿人族で桃太郎の姿格好をした者が4人。さらに、桃太郎と呼ぶには老齢すぎる円熟であり、達人を思わせる鋭い眼光の3人がいる。


 残る二名は、非常に真面目そうにした顔つきをしている。何も着付けず全裸スタイルでおり、体にボディーペイントで桃太郎の袴を着たように塗りを施した姿で座る。ふんどしだけはしており、俗にいう裸族に近い。


 眼光の鋭い老人が声を皆にかけた。


「今は、ワシが進行役でいいのか?」


 筋骨隆々の男は答える。


「構わぬ」


 非常に力強そうな眼光と、意思の強さを表す眉毛が太く力強い。


 続いて猿獣人も問題ない旨答える。


「構わないよ」


 どこか飄々としており、つかみどころのない様子だ。

 ごくごく普通に平平坦々としている。


 ボディーペイントの内一人は何かをいう。

 

「ホゲホゲチュチュ」


 もはや何語なのか、言語なのかすら誰にもわからない。

 見た目は人であっても使う言葉は意味が不明だ。

 彼のことをどうして全裸でいるのか、一族の内部の者が訪ねたところ、行方不明になってしまう。

 

 数日後、全身のあらゆる毛と名前のつく物は抜かれてしまい、全身青色に塗られたまま町中の広場で吊るされていた。

 

 以降、彼らのことを口にする者はいなくなる。

 背後から忍び寄る青い悪魔とも呼ばれている。


 一瞬の沈黙ののち、老人は口を開く。


「我らはひとつとなりて、桃神のために!」


 老人は口上で述べると他の物も続いて発言した。


「我らはひとつとなりて、桃神のために!」


 筋骨隆々な男たちも、地響きが起きるかのような低い声で叫ぶ。

 猿人族も同様に叫びをあげる。


 ところが全裸の男の二人は違った。


「もうも! 万歳!」


 繰り返し続けたのは全裸の者たちだけだった。


 筋骨隆々の男は、この時ばかりは太い眉を上げハの字にすると、全裸ペイント男に声をかける。


「おいおい、万歳はおいそれというもんじゃねえぜ? 忠誠心が一番高いのは理解しているからよ? 頼りにしているから、周りを巻き込まないでくれよな?」


 筋骨隆々の男は、全裸の男に告げる。

 なぜか褒め言葉として受け取ったようで、嬉しそうに何度も縦に頭を動かし、肯定していた。


「さて、今回の議題じゃ。爆破した犯人はいまだに見つからない。此度の爆破で我ら一族は、甚大な被害を被った。蘇生ができなかった死者も多数おる」


 筋骨隆々の男は頷く。


「うむ」


「我らとしてはかなり手痛い出来事であり、内情じゃ。こうして指揮ができる者だけで集まると、たったのこれだけしかおらん。その上、爆破攻撃は宣戦布告と予想できる。まさかあのような方法で我らに攻撃を仕掛けてくるとは、思いもよらなんだ」


 筋骨隆々の男は、何をするにしても筋肉を器用に痙攣させる癖は、見るものにとっては煩わしくなる。


「それでどうするつもりだ?」


 今にも立ち上がって飛びかかりそな勢いをもつ。


「リュウガよ、それだけじゃないんじゃよ」


「なんだと……」


「若い衆が我らの管理下にあるダンジョンでな、ある者から蹂躙にあったようだ。一人を残し、全員全滅じゃよ」


「そこでもか……」


「さらに悪いことは続いてのう。あそこは我らの手から外された」


「なんだって!」


 両掌を机に叩き付きつけ勢いよく立ち上がる。

 引き締まった両腕は武者震いなのか、筋肉が脈動するかのように震えている。


「あそこはいい財源じゃったのだ。まあ仕方なかろうて。将軍様の許諾も降りたのなら、ワシらじゃどうにもならない」


「許諾だってえ?」


「そうじゃ。どうやら攻略が完了したようじゃ」


 筋骨隆々な男は、肩の力を極端に下ろし椅子に全体重を下ろすかのように腰掛けた。いや、上から尻を椅子へ打ち込んだ。


「あのでかいやつをやったというのか……」


「ちと違うのう」


「まだ何かあるのか?」


「まるで巨大な槍で串刺しにしたように、頭から胴体をくり抜くように、丸々円柱の穴が開いておったそうじゃ。恐ろしいことに、穴の空いた箇所以外は無傷でな」


「なんて化け物なんだよ、おい……」


「そんで我らは、襲撃を受けた。ここの会議室でな。突然頭上の何も無いところが開き、あの黒髪の男、京也という者が何かを放り投げて爆発させよった」


「それで俺たちが今ここにいるというわけか……」


「うむ。認識は、間違いではおらぬな」


「そんで爺さんどうするんだ? 化け物相手に。復讐はするんだろ? このまま指咥えて待ってなんかいられないぜ?」


「ワシに考えがあるんじゃ」


「何かいい方法でもあるのか?」


「それはな……」


 こうして桃太郎一族は、京也に狙いをさだめて組織を使って、行動を起こそうとしていた。

 

 

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