第61話『流刑人』

「紫炎? なんか燃えている?」


 俺が取り出した魔核は、形状こそ先の鶏頭と同じく卵がたでやわらかいところまでは同じだ。


 見た目からすると燃えている。


 本体の色自体は炎で阻害されているため、はっきりと見た目がわからない所はあるけど、紫色に見える。

 どちらかというと梅紫色という感じで薄い赤みのかかった紫といえばいいだろうか。


「京也それ!」


 ルゥナは指を指し、勢いがある感じだ。

 今までどこか他人事のような態度でいたのが、ここに来て大きく変わる。


 恐らくは今の方が本来の姿なのかもしれない。

 

「ん? 何か女子向けアイテムか?」


「なんかあんまり感動がないのね。しらなきゃそうか……」


 眉はハの字に曲がり、結んだ口は右側が表情筋と一緒に持ち上がる。

 どこか仕方ないから教えて上げると、言わんばかりの顔つきと態度だ。


「しらんぞ? 何のアイテムなんだ?」


「なかなかの物よ? 肉体強化アイテムよ。食せば一個につき、わずかに永久底上げよ」


「わずかに? あまり変化を感じない?」


「個人差がね大きいわ。大量に食べ続けて底上げするタイプなのよ。量は気をつけないとお腹が下るわ」


「なかなか厳しいな」


「1回でいきなり食べ過ぎなければ大丈夫かな? 日を変えて適度に食べ続けるといいわ」


「なるほどな」


 女子たちはいるんだろうか。レイナあたりが欲しがりそうだ。

 

「皆、紫炎の魔核は興味あるか?」


 意外なことにレイナも興味を示さない。

 もしかして、副作用が気になるのかもしれないな。

 戦闘中に副作用が起きたら、どう考えても地獄でしかない。

 さすがに漏らす訳にはいかないからな……。


 かぐやは申し訳なさそうにいう。


「ワタクシは副作用の方が気がかりですわ。せっかくなのに、申し訳ないですわ。辞退いたします」


 続いてリムルも同じくだ。


「私も。戦闘中にお腹痛くなったら辛い……」


 アリッサも同様に副作用を気にしている。


「お腹を下すのは、私も厳しいと思うぞ」


 レイナあたりは欲しがると思いきや皆と同じ意見だ。

 

「あたいも、ちょっと……」


 ルゥナは、自身は関係ないせいか晴れ晴れとしている。


「わー。皆揃って同じだね。京也は大丈夫? 大人だからね、漏らしちゃダメだよ? イヒヒヒ」


 「じゃ、今回の魔核は俺がもらうな。助かるよありがとう」


 皆、苦笑いだ。


 一段落した所で再び探索だ。

 広大に広がる大地は、本当に地下にいるのか疑わしい。


 当てもなく歩いていくと、森から熊の魔獣がゆっくりと足を一歩ずつ踏み締めながら現れてくる。

 そろそろかぐやがどのような戦い方をするのか、見ておきたい。


 ちょうど気持ちを察したのかかぐやが俺の前にきた。


「ワタクシまだ全然お披露目していないので、お任せしてもらってもいいですか?」


「もちろんいいけど、一人で大丈夫か?」


「ええ。答えは問題ないですわ。京也にぜひ見ていて欲しいですわ」


「わかった頼む。危ない時は皆で助太刀するかな?」


「わかりましたわ」


 ルゥナいわく、魔核と魔力の両方を持たないと言っていたから、どのような力を発揮するのか気になる所だ。

 

 果たしてどうするのか?


 着物をたすき掛けにして、幾分動き安くすると突然、空に舞い上がった。


 天の羽衣の力だろうか。

 すると腕を胸の手前で交差させて、バツを形づくるように指先までをまっすぐ伸ばす。


 何かをつぶやくと、バツの字型に光りの刃が、数限りなく打ち続けられる。


 しかも、尋常ではない早さで繰り出され、無尽蔵な光の刃は容赦なく相手を襲う。


 凄まじい切れ味は、離れた位置からでもよくわかる。

 光の刃はブーメランのごとく回転しながら触れると、いとも簡単に切り落としてしまう。


 恐らくは、肉の欠片で足の踏み場もなくなるほどになるだろう。

 肉塊の中に手を突っこみ、魔核の回収となりそうだ。


 幸いなことに、魔獣の魔核は非常に目立つ。

 なので、見つけやすいだろう。


 戦術としては後衛での空中からの乱れ打ちに近く、絨毯爆撃に近くてやられた、避けようがないぐらいの物量攻めだ。


 しかも飛び回りながらなので、敵が地上から迎撃させるのも一苦労だ。


 最初の味方がやられたところで、一斉に飛びだした熊頭の魔獣たちは筋骨隆々の二メートル超の体も生かせず、ただただかぐやの放つ、光の刃の的にしかならなかった。


 そういえば魔核も魔力もない俺は、闇の力があるけどかぐやは、月の力を持ち月レベルが上がるのだろうか。


 ちょうど戦闘も終わり、殲滅も完了したので、聞いてみるとする。


「かぐや、魔力ではないだろ? 恐らくは月の力といったところか?」


「そうですわ。よくわかりましたね」


「俺は、魔核も魔力もないから同じかと思ってな。ちなみに俺の場合は、闇の力で闇レベルが上がる」


「まあ、そうでしたの。ワタクシと似たところがあるのは嬉しいですわ。京也のいうとおり、魔核も魔力もないですわ」


「俺は闇の力で、かぐやは月の力か」


「はい。仰る通りですの。月の民だけが持つ月の力ですわ」


「なるほどな、かぐやの世界は月世界といえばいいのか。月世界から魔法界にやってきたのか?」


「ええ。そうですわ。自分の意志できたというより追放されましたの……」


「そうなのか。聞いてもよいならなんでまた、そのようなことになったんだ?」


 ちょうど皆も集まり、かぐやの話に傾聴していた。

 

「皆が聞いても大丈夫か?」


「ええもちろんとお答えしますわ。ここにいる人たちは、月の帝国とはなんら関係のない人たちですし」


「俺も魔法界に転移してきたけど、俺もまた今度話をするよ」


「ありがとうございます。私は月の都、月ノ宮王国第三皇女でしたの」


「皇女様だったのが、どうりで気品が隠し切れていないわけか」


「あら、気品だなんて嬉しいですわ。私たち月ノ宮王国は、月ノ帝国と戦争状態でしたの。端的にいうと、負けでしたわ。そこで私は、魔法界に流刑された流刑人ですわ」


「そうだったのか……。辛い話をしてくれてありがとな」


「滅相もないですわ。戦争は負けた側があらゆる負債を被るのが真実ですわ。正義は発言した側の理論ですし……」


「そうだな。負けたらあらゆる物を失うな。それでも俺はかぐやと会えたことは、ありがたいと思っている」


「ワタクシもですわ……」


 そこで潤んだ瞳で見つめ続けられても困るので、話題を変えた。

 

「ところでさ。月の世界では、異界にいく方法を持っているのか?」


「ええ……。といっても無数にある内の一つへ無作為に送られるので、誰がどこにたどり着くのか誰もわからないですわ」

 

「あの付き人も一緒に来たのか?」


「少しタイミングは異なりますわ。あの者たちはかつて、ワタクシと同じく戦争で負けて追い出された者ですわ。こちらにきてから、ワタクシに忠義を尽くして下さる同郷のよき人たちですわ」


 今の話からすると異界からの転移の実例は、俺が知る内容としては2つ目になるだろう。それは、俺自身とかぐや達のことだ。


 転移者は今の例だと魔核を持たない。ゆえに魔力を持たないとなる。その場合、先代勇者はどうだったのだろうか。恐らくはないだろう。


 残してくれた文献を読み漁れば、魔力がない場合のヒントはありそうな気がする。


 今は、ダンジョン攻略と女神の管理しない場所と、各地に残したという勇者の遺物を探し当てることが先決だ。


 もちろん、勇者パーティーにいた連中へのお礼参りは当たり前にするとしてだ。


 なぜか竜禅の情報がなく、代わりに先代勇者などから新たなことが聞かされるし、竜禅が知るという召喚について積極的に調べる必要はあるのかと疑問も出ていた。


 とはいえ、知っている情報を繋ぎ合わせると意外な事実が浮かぶこともあるし、聞かなないよりは聞いた方がはるかによいと考えた。

 

 情報屋に探りを入れてもらうのも、いいかもしれないな。


「京也、どうかしましたか?」


 しまったついいつもの考え癖を発揮してしまった。

 かぐやの見上げる顔は、心配という字が見えそうなほど眉をハの字にし目を細めている。


「いや、すまない。俺の悪い癖だ。考えごとをするとついつい考察で費やしてしまうんだよな」


「そうでしたのね。いつもの京也でよかったですわ。差し支えなければどのようなことを悩んでいらしたの?」


「俺とかぐやの異界から転移の共通点と、本来の目的についてな」


「まあ、ワタクシと京也の共通点ですの? 嬉しいですわ、ぜひお聞きしたいところです」


「え? 異界からの転移者としての共通点なんだけどな」


 かぐやは顔の前で両手のひらを合わせて、とても嬉そうにしている。


「あら、それでもお聞きしたいですわ。それと本来の目的も」


「共通点はまだ考察が必要だから、追い追いとしてな。本来の目的はダンジョン攻略と勇者の殲滅だ。ここの勇者は殲滅対象ではなく、聞き取り対象だ」


 勇者なのに殲滅対象なことに、疑問がありそうだ。


「殲滅でございますの?」


「ああ。まだ俺が何も力を持たない時に、ダンジョンの深奥で置き去りにされてな。そのことで各国にいる勇者へ、当時パーティーだった者を探して、お礼参りをしているところだ。ここの勇者は、勇者召喚について何かを知っているらしく、それを聞き出すのも目的の一つとしてきたんだ」


「まあそうだったのですね。京也を置き去りにするなんて、許せないですわ。何でまた、置き去りにしたのでしょうね」


 かぐやは俺の力がある状態でしか見ていないので、力がなきころは想像がつかないのだろう。


「無能なクズで役立たずはクビと宣言されたんだよな。たしかにあの頃は大した能力もないのに、神託で勇者パーテイーに参加させられていたから、足手まといだったんだろうな」


「そう宣言するならば、普通に平和な町中でギルド立ち合いの元にすれば何の問題もないのに酷ですわ」


 かぐやは怒ってくれていた。


「ありがとな。脱退慰労金を支払うのに思うところがあったんだろうな。ダンジョン内で戦闘中行方不明にしてうやむやにすれば、支払いはせずに済むからな。大義名分としても世間的にいい」


「それは酷い人たちですわ。まるで悪魔の所業ですわ」


「怒ってくれるのかい? ありがとな」


「ええ。こういうことは、許してはダメなことですわ。また同じことが繰り返されますし、一度でもしたら重い刑が必要ですわ。そうしないと真似る者が後を絶ちませんわ」


「さすがだな。後々のことも考えているなんてな」


「当然ですわ。それに京也のことはもっと大事なことですわ」


 真剣に考えてくれるのが嬉しかった。だから俺は答えた。


「ありがとな」


 ひとしきりに物をいって少し疲れたのか、一呼吸休むと落ち着いてきた様子だ。

 想像以上に憤慨していたので、意外と正義感が強いのかもしれない。


「あと各国でしたら、もう旅立ちですの?」


「いやまだだ。ここにはまだやることが多くあるから、滞在は長くなる予定だ」


「まあ、それでしたら町内観光もできますわね」


「ああ、それも楽しみでもあるんだけどな」


「ワタクシがぜひ案内役を努めますわ」


「ああ、その時は頼む」


 かぐやは満面の笑みで頷く。


 ひと段落したところで、さっそく俺とティルクは肉と血の溢れる場所へ魔核の回収へと向かう。


 ルゥナは現場をふわふわと浮きながら巡回していう。


「京也、今回も魔核は燃えているとから、比較的見つかりやすいはず」


 ルゥナはどこで得た知識なのか、説明してくれた。

 言われてみると、赤く燃える炎のような物がところどこに見える。

 あれを目指していけばいいのかと合点した。

 

 ただわかったとはいえ、目の前の状態だと足が大変なことになりそうなので、なんとかしたい。


 思案をしていると、リムルから提案があると声がかかる。


 「キョウ、それなら私が少し凍らせるから、その間に取り出すのはどう?」


「おっ! それいいな。ぜひ頼む」


「うんわかった。任せて」


 そうすると、リムルは即時氷結魔法を繰り出し、雪に近い形まで凍らしてくれた。


「助かる。ティルク行くぞ」


「うむ。参ろうか」


 俺とティルクは魔核取得に乗り出した。

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