馳せた不毛
とがわ
馳せた不毛
黒色のキャンバスに、光が灯った。その光は河口から宇宙に向かって伸びていった。光が消えたかと思えば突如一瞬にして大きな光の粒が綺麗なまんまるを作った。遅れて爆発音が、響いた。
一発目の花火は、見ている人々を興奮させ目を心を奪っていく。周囲の人は顎をあげ、続けて打ちあがる花火に釘付けだった。
ふと、後ろが気になった。
花火が上がる空を、人々は見るけれど、では上がらない空はどうなのだろうと。
馬鹿らしい。人々は花火を見にここまでやってきている。花火以外のものをみていては意味がない。そうは思っても、後ろの空が寂しそうで、穏やかだった。
花火の音が、胸に響く。動画やテレビからでは感じ取れない猛烈なこの音が、昔から好きだった。大きく花が咲いた後に、音が鳴る。光の伝わる速度と、音の伝わる速度の相違。単体でみれば速いも遅いもないけれど、同時に上がっているはずの光と音が別々に伝わってくる感覚が、好きだ。音が届くまでのほんの数秒が、切なく美しかった。
テンポよく打ちあがっていく花火に、人々はどんな想いを馳せるのだろう。あなたの想いはどこにあるのだろうと、考えずにはいられなかった。
突如、閃光が走った。眼窩が痛む。花火の種類のせいか、球が爆発する時の光が、それはまるで雷のようだなと思えた。緑色の花火も、同じ様に痛かった。眩しすぎて、眼を閉じずにはいられない。あぁ、飲み込まれてしまうんだと思ったし、飲み込まれてしまいたいとも思った。
あの日、あなたが伸ばしてくれた手をちゃんと掴んでいたら、今となりにいるのはあなただったのかもしれないと、どうしようもなく考えてしまう。手放さなければ、受け入れていれば。選ばなかった他の選択肢の未来に想いを馳せてしまう。
不毛だ。実に不毛。過去は変えられない。過ぎてしまったのならもう戻れない。ただそれだけに、あなたの隣にわたしがいた事実も消えることはない。それだけが今は救いだなんて思ってしまう。
一際大きなまんまるが空いっぱいに開かれる。服までもが震動しているのがわかった。あなたに恋している時、こんな風に期待で震えていたのを思い出す。
やはり馬鹿らしい。不毛でしかなく、あなたはもう前を見ていることだろう。
あぁ、あなたも、今頃この花火を別の誰かと見ていたら、いいなと、そう思ってしまった。
馳せた不毛 とがわ @togawa_sora
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