小麦色をした美しい使い

!~よたみてい書

小麦色の彼女

 青髪の男性は鎖で吊るされた小島の地表で、膝を抱えながら地べたに座り込み、遠くを見つめながら、


(はぁ、俺はなんてダメなやつなんだ)


 青髪男性は二十代前半に見える容姿で、身長は約百七十センチメートル。

 前髪は眉辺りまで伸びていて、後ろ髪もうなじまで伸ばしている。

 黒い瞳と目じりがやや下がっていて、少し薄汚れた白い上着と紺色こんいろのボトムスをまとっていた。


 すると、空中移動していた茶髪女性が一人、青髪男性がたたずんでいる浮島の地表に足を着けていく。

 

 茶髪女性も二十代前半の姿をしていて、百六十センチメートルほどの身長をしていた。

 前髪は眉の下まで垂らしていて、後ろ髪は背中上部まで伸びている。

 黄色い瞳が輝いていて、目じりが少し吊り上がっていた。

 各所が薄黒く汚れている白い長そでに、色が薄まった黒いボトムスを身に着けている。

 また、胸部に少し大きめの膨らみが出来上がっていた。


 茶髪女性は背中の後ろで手を組みながら少し体をかがませ、


「こんにちは。どうしたんですか?」


「えっ!?」


 目を見開きながら素早く上半身を茶髪女性に向ける青髪男性。


 茶髪女性は微笑みながら口元に手を添えて、


「ごめんなさい。ちょっとお散歩していたら、なんだか落ち込んでる背中が見えてしまったので……。その、なんだか放っておけなくて声をかけちゃいました。もしかして、ご迷惑でしたか?」


「いえ、別に迷惑だなんて思っていませんよ。それより、俺の背中、そんなに落ち込んでる雰囲気出してましたか?」


「えーっと……はい。それは、もう、とても、すごく。放っておいたら危険なものを感じ取れるくらいに」


「えっ、話を盛ってます?」


「んー、素直に答えたんですけどね。それより、お兄さんがなにに落ち込んでいるのかが私気になるな。よかったら、教えてくれたりしないかな? あ、もちろん話す気が無かったらそれはそれで全然問題ないからね? でも、一人で抱え込むよりも、吐き出した方が楽になると思うなー?」


 青髪男性は優しさを感じられる乾いた笑みを浮かべる。

 それから、神妙な面持おももちを茶髪女性に向け、


「小麦をダメにしてしまったんです……」


「小麦をダメに? 小麦ダメにっていうのは、具体的にはどういうことなの? よかったら詳しく説明してくれる?」


「実は、俺は小麦を育てていたんです」


「あら、そうなんですか? でも、過去形ってことは、なにかあったのですか?」


「はい。二度と実ることのない姿にさせてしまいました」


「あ、私、知ってますよ? より強くさせて、より多く収穫を得れるように、自分の身を削ってまで芽を踏んでいくのでしょう? ちょっとやりすぎちゃうと亡くなるかもしれないリスクを背負ってるので、そういう人を尊敬しますよ」


「よくご存じですね。でも、そうじゃないんです。言葉の通り、小麦を枯らせてしまいました」


「えっと、その……とても残念なことだとは思うのですが、でも、誰にでも失敗はありますでしょう?」


「そうなんです、それです。誰にでも栽培ができる、すごいお手軽な作業だけで収穫までいける小麦の栽培を失敗してしまったんです」


「でも、そのすごいお手軽な作業でも、誰だってうっかりはあるでしょう?」


「湿気はいつものようにジメジメしていたし、勝手に水分補給する環境は整っていたし、虫は最近見かけてなかったし。太陽もちゃんと下からほどほどに照らしてくれてたから、少ない光ですくすく育ってくれてたはず。だから、あとは俺が少し異変が起きたのを発見すれば対処できるんですけど、まさか俺が寝ている間にその何かが起こるとは……」


「え、お兄さんが寝ている間になにか起こったという確証はあるのですか?」


「いえ、ないです。なんとなくです。でも、原因はそれくらいしか見当がつきません……」


「そうですか。ちなみに、お兄さんは正解は何だと推測しますか?」


 青髪男性は腕を組みながら視線を上に向け、岩の天井を見つめながら、


「えっ。えーっと、そうですね。不満が溜まった集団が鬱憤うっぷん晴らしに小麦に当たった、とか? 子供みたいな答えになってしまってごめんなさい」


 茶髪女性は無表情のまま目を見開き、青髪男性をじっと見つめ続けた。


 数秒後、青髪男性は心配そうに小首をかしげ、


「え、あの、お姉さん? 引いちゃいましたか?」


「……あっ、いえいえ! すごいですよ! どんな内容だろうと、ちゃんと自分の頭で考えて答えにたどり着こうとするその姿勢、素晴らしいです!」


 頬の近くで手を合わせながら微笑む茶髪女性。


 青髪女性は照れくさそうに硬い笑みを浮かべながら頭を撫でていき、


「そうですかね?」


「はい! なので、次の失敗の対策ができるはずですよ! 例えば、簡単だけど看板を立てるだけでも人が立ち入らなくないそうですよね」


「俺よりも、お姉さんの方が小麦を育てるのに向いてるんじゃないかな?」


「いえいえ、お兄さんの考えがあっての私の答えですよ」


「ははっ……。あの、ところで、お姉さんのお名前って?」


「私は、ユキコって言いますよ」


「ユキコさんね。俺はメグムです」


 ユキコと名乗った茶髪女性は、顔の近くで軽く手を叩き、


「なんだか、優しさが感じられる素敵な名前」


 メグムと名乗った青髪男性は一瞬笑顔を見せるけど、すぐに肩を落としながら、


「……はぁ、実った黒粒を実際に自分の手で収穫したかったよ……」


 すると、ユキコは語気を強め、メグムの頬を手の平で強く撫でていき、


「メグムさん、しっかりしてください!」


『パツィーンッ!』


 メグム@9は顔をしかめ、頭を横に振り向かせられながら、


「ふぉっぐ!」


 ユキコは眉尻を上げながら険悪な表情を浮かべ、


「そんなくよくよしてたら、前に進めないでしょう! さっさと失敗した過去を忘れて、気持ちを切り替えていきましょうよ! ね?」


 メグムは自分の頬に手を当てながら、目を見開いて驚きの表情を向ける。


 ユキコも手をメグムの手の甲に添えながら、


「ごめんね。ちょっと気持ちがたかぶっちゃいました」


「いえ、俺の為にやってくれたんですよね? 謝らなくても大丈夫ですよ」


「でも、痛かったでしょう? 思いっきりぶっちゃったし。それに、体力も一減らしてしまいましたし」


「あはは。まぁ、一くらい大丈夫ですよ」


 メグムとユキコは視線を一切逸らさずに交差させていった。

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