第2話 騎士の話と瞑想
僕たちが救出されてしばらく経過した後、騎士様方に連れられてどこかに向かっています。
僕たちがいたお屋敷は、王都と呼ばれる都市にあると5番に教わっていました。
騎士様からはどこに向かっているかはまだ教わっておらず、「歩いていくには遠いから馬車へ乗っていく」とのこと。
馬車の同乗者には、同じく遊び部屋にいた奴隷たちと共に騎士様がお一人、乗っていらっしゃいます。
僕に優しく言葉を下さった騎士様に似ています。
あのときは不安でしたので、失礼ながら記憶が曖昧ですが、あのときの騎士様だと思っています。
というのも、騎士様方の中には、僕たち奴隷に対して冷たく接しているような方もいらっしゃったからです。
そんな騎士様がいる中での優しい言葉。
あのときの騎士様で間違いないはずです。
そんな優しい騎士様にすら僕は質問をしようとは思いません。
怒られてしまうのでは、と思ってしまうのです。
本当は、僕たちがこれからどうなるのかを聞きたいのですが……。
そうしたソワソワしているような雰囲気が伝わってしまったのでしょうか、騎士様が優しくおっしゃいます。
「どうしたんだい? トイレにでも行きたくなったかい?」
騎士様の勘違いに、さすがに恥ずかしかった僕ですが、今の機会に聞ける事を聞こうと思います。
自分から質問することはないのでかなり緊張しましたが、言いました。
「いえ、どこに向かっているのかと思い、不安になってしまいまして……」
僕の言葉に騎士様はハッとした表情をすると、丁寧に教えてくださいました。
「すまない、どこに向かっているか言っていなかったね。今は王都の中心部にある王族の方々が住まう城、王城に向かっているんだよ」
「王城ですか……。僕たちはどうなってしまうのでしょうか……」
騎士様の答えに、更に不安になってしまいました。
僕たちは奴隷。お屋敷にいた頃に、この国の最底辺に位置する存在だと教え込まれています。
そんな存在がいきなり王城に行くなんて……。
何か罰を受けるのでしょうか。
僕の不安げな様子に、騎士様は優しくおっしゃいました。
「大丈夫だよ。王城に向かっているのは、騎士たちの詰め所で君たちについて聞きたいことがあるからね」
「騎士様の詰め所ですか?」
「そうだよ。ああ、もしかして国王陛下のいらっしゃる場に連れられると思ったのかな?」
「恥ずかしながら、その通りです。何か罰でも受けるのかと……」
「罰かい? 君たちは何も悪いことはしていないし、そもそも被害者なのだから何も不安に思うことはないよ。王城はね。いろいろな区画があるんだ。その区画ごとに、文官や騎士たちの詰め所があるんだよ」
「そうなのですか……。 よかったです」
騎士様の言葉で僕は少しですが、ほっとしました。
そんな様子に、騎士様は殊更に優しく、王城に向かう理由をおっしゃいました。
「騎士の詰め所に向かうのは、君たちがどのように過ごし、どのような扱いを受けていたのかを聞き、今後の生活について相談するためだよ」
「相談ですか?」
騎士様の言葉に、僕の頭の中に疑問が生まれました。
そもそも僕たちは奴隷。
これからの生き方に選択権なんて無いはずです。
ですが、騎士様はおっしゃいました。
「そう。相談だよ。君たちが普通の人と同じように生きるために、いろいろな事を聞きたいんだよ」
「あの、騎士様。そもそも僕たちは奴隷ですので、どこか別のご主人様の元へ連れていかれるのではないのですか?」
疑問に思っていたことを思い切って聞いてみました。
僕の言葉をお聞きした騎士様は、何故か怒りの表情を浮かべておっしゃいました。
「王国、というよりも、この国の近辺の国は奴隷という制度を認めていないんだ。それにはいくつかの理由があるんだけど、奴隷という存在を人と見なさず、ぞんざいな扱いをする人が多かったからなんだ」
「奴隷とは、そういうものではないのですか?」
「奴隷は人だよ。物ではない。そもそもが奴隷を物のように扱うこと自体が時代錯誤なんだよ。難しいかもしれないけれど、元々は皆、普通に生きていい人間なんだと思ってほしいかな」
「普通の人間……。難しいです……」
「そうかい? 君がいつごろから奴隷になったかにもよるから、どういう言葉が正解か分からないけど、君は普通の人間だよ」
騎士様の言葉はよく分かりませんでした。
生まれたころから奴隷だったらしい僕には、気づいたときにはご主人様の所有物だったのです。
普通の人間というのが分かりません。
普通の人間って何なのでしょうか。
僕は疑問と不安で混乱しそうです。
そんな僕に、騎士様は優しくおっしゃいました。
「まだ王城までしばらくかかるから、少し目を瞑って落ち着いたらどうかな? もし寝てしまっても起こしてあげるから」
騎士様の言葉に、僕は素直に頷きました。
僕には勿体ないほどの気づかいですから、断るのも失礼ですし……。
「ありがとうございます。しばらく目を閉じていますので、寝てしまったら恐れ多いですがお願いします」
奴隷風情の僕への気づかい。
本当に申し訳ないですが、久々に深く眠れるかもしれない機会です。
僕は深く眠れるように祈りながら、目を閉じました。
遊び部屋に収容されてから、僕は深く眠ったことがありません。
遊びによる激しい痛みの所為でしょう。
そんなときに僕がしていたのが、自分の内側に意識を向け、身体の痛みや感覚を遮断すること。
5番曰く、瞑想と言うそうですが、詳しくは違うような気がします。
ただ、これをしていると、痛みを気にしないで済むのです。
痛みから解放されるために瞑想をたくさんしていると、いつの間にか瞑想が癖になってしまいました。
無意識に、瞑想してしまうほどに。
だからでしょう。
また僕は無意識に瞑想をしてしまったようです。
いや、瞑想のようなものでしょうか。
なぜ、自分が瞑想の説明を聞いて、詳しくは違うと思ったのか。
その答えは簡単です。
瞑想のようなものをすると、いつしか登場するようになった”彼ら”に出会ってしまうからです。
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