第61話 酔ってる?


 可能な限りの情報を得た。


 これ以上のことはきっと知り得ないだろう。


 やるべきことは分かったのだから十分だ。


 問題はタイムリープをどう行うかなんだよなあ。


「……」


 あれから暗い空気になってしまい、仕切り直しにと奏はさらに酒を煽った。


 悲しい気持ちとかを吹き飛ばしたかったのもあるんだろう。そんな話をさせてしまったのは俺なので、止めることもできなかった。


 その結果。


 奏は気絶するように眠ってしまった。


 とりあえず彼女をベッドに運ぶ。明日も仕事なんじゃないのかな? 大丈夫……なわけないか。


 タイムリープをするにはセックスをする必要がある。恐らく彼女のいない俺は風俗に向かうしかないわけだが。


 家には奏がいる。

 彼女が何かするとは思えないので、置いて出掛けることは構わないのだが、起きたときにいないと不思議に思うだろう。


 まあ、行くしかないんだが。


 というわけで、俺はスマホを取り出して近くにある風俗を調べる。普通のお店は本番禁止なのでそういうことができる店となると少し距離がある。


 これ、日を跨いだ場合の起床日時ってどうなるんだろう。最悪、さらに翌日とかになるのか?

 だとしたらヤバいな。


 あと一時間しかない。


 移動とかを考えるとぎりぎりだ。


 焦りを覚え、スマホを触る手を早めた、まさにそのとき。

 

「なに見てんのよ」


 後ろから声がした。


 俺はまるでお化けでも出たようなリアクションでベッドから離れた。どうやら奏が目を覚ましたらしい。


 見られた?


 風俗行こうとしてることバレた?


「……お、起きたんだ?」


「ええ。いつの間にか寝ちゃってたみたいね」


 ぐしぐしと目を擦りながら奏は答える。


 大丈夫そうだな。

 うん、寝起きでぼーっとしていただろうしバレてない。


「それで、何見てたの?」


 話終わってなかった。

 誤魔化さないと。


「えっと、別になんでも。暇潰しのネットサーフィン的なやつだよ」


「へえ、男のネットサーフィンって風俗のホームページも見るんだ」


 バレてた。


「……ま、まあ、ネットの海を徘徊することを言うわけだし、間違いでもないと思うけどね」


 平然を装う。


「行くの?」


「え゛」


「風俗」


「……い、行かないよ?」


 でも行かなかったらどうするよ。

 何としても今日中にタイムリープをしないといけないんだ。


 ここまで覚醒されるともう一度寝るまで時間はかかるだろうし、すぐに帰るとも思えない。


 ここは奏を押しのけてでも出発するべきなのでは?


「嘘ね」


「なぜそう言い切れる?」


「あんたの嘘つくときの顔は見飽きてるから」


 付き合いが長いというのも考えものなのだろうか。いや、これは俺が分かりやす過ぎるんだろうな。


「……別にそんなとこ行かなくても」


 奏はスーツのシャツのボタンを一つ外しながら、四つん這いでじりじりと詰め寄ってきた。


「私が相手したげるわよ」


「は?」


 声が裏返った。


「酔ってる? 酔ってるな。酔ってますよね?」


「当たり前じゃない。どんだけ飲んだと思ってるのよ」


 近づいてきた奏はぐてんと力が抜けたように俺の方へ倒れ込んできた。


「お酒の勢いでそういうことするのはどうなのかと」


 いや、俺としては好都合なんだけど。

 好都合っていうのもなんか悪いな。


 ただ、突然のことに動揺してしまった。


「別に……初めてするわけでもあるまいし。今更でしょ」


 そうなの?


 俺と奏の関係ってなんなの?


 付き合ってるとかじゃなさそうだけど、セフレなのか? そういう雰囲気でもなかったけど!?


「いい、のか?」


「……ええ」


 酔っているからか、奏の顔は真っ赤だった。けれど、彼女がそこまで言うのならば悪いけど相手をしてもらおう。


「あの、ちなみになんだけど……初めてシたときのことって覚えてる?」


「当たり前でしょ」


 少しだけ、彼女の表情が悲しげになったように思えた。


「……あのときは、あんたも私も、紗理奈がいなくなった悲しみで押し潰されそうになってた」


 だから、慰めあった?


 奏はそういうことをするタイプではないと思っていたけど、絢瀬さんの死が彼女にそれほどまでのダメージを与えたということか。


 そして、それは俺も同じか。


 とにかく、何か別のことをして感情を抑えたかったのかもしれない。大事な人を失った者同士、考えが似ていたのかな。


 いや、そんなことはもうどうでもいいか。


 俺は奏のシャツのボタンを外して肌を露出させる。恥ずかしそうに顔を背けたところ、どうやら常日頃の関係ではないらしい。


 セフレの線は消えたな。


 俺が触れると小さく声を漏らす。

 ある程度の愛撫を終えると攻守が交代する。お世辞にも上手いとは言えない攻めからも、彼女の経験の少なさが伺える。


 学生時代に、悲しみを無理矢理忘れるために慰めあっただけかな。


 そして、お互いの準備が終わり、ついにそのときを迎える。

 そういえば、前回のタイムリープは挿入と同時には起こらなかったな。あれには何か意味があるんだろうけど。


「……っん」


 ゆっくりと動く。


 やはり、挿入と同時にタイムリープは起こらない。その代わりに、以前と同様に頭痛が起こる。


 腰を動かす度に頭痛は激しくなり、チカチカと視界が揺らぐ。


「……っあ、ん」

 

 前回の行為よりも更に長い時間、俺は動き続けることになった。もちろん、それだけ体調も悪化するわけだが、何よりも恐れるべきはタイムリープが起こらないことだ。


 きっとこれは前兆だ。


 どういうわけか、タイムリープの能力が俺の中から消えようとしている。


 そんな気がする。


 もう何度も行えるものではないのだ。

 だからこそ、タイムリープなんてしなくてもいい未来を今度こそ築き上げる。


「……や、っ、はぁ」

 

 彼女の抱える問題を全て解決する。


 絶対だ。


「……くっ」


 込み上げてくるものを堪える。

 終わらせてしまうと、もしかしたら本当にタイムリープが出来ないかもしれない。


 どうする?

 一度止めるか?

 いや、でも下手なことは出来ないぞ。


 しかし動き続けることで俺の中のモノは外へ放出されるために上へ上へと昇ってくる。


 さすがにやばいと思い、一度離れようとしたが、それを察した奏で足で阻止してくる。


「……まずッ」


 気づいたときにはもう遅い。

 俺は全てを奏の中に解き放った。


 そのとき。


 視界が奪われていく。

 意識が遠のいていく。

 この感覚は知っている。


 どうやらタイムリープが起こるようだ。


 ――。


 ――――。


 それにしても、奏のやつ、めちゃくちゃエロいじゃん。過去であいつの顔が見れなくなったらどうするんだよ。


 そんな場違いな心配をしながら、俺は意識を失った。



 ――――――。

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