第16話 変化


 ばしゃばしゃと風呂場で自分のパンツを洗いながら考える。


「……」


 目を覚ましてまずしたことは現代に起こった変化の確認だ。

 最初に確認したのは電話帳……というか、ラインの友達一覧だ。

 前回のタイムリープにより『高峰円香』の連絡先が追加されていたように、何かしらの変化が起こっている可能性はある。


 そこで見たのは『大関奏』の名前だった。前回まではなかったもので、恐らくオリエンテーションの一件によって関わったことで影響したのだろう。


 変わらず職場の人達の連絡先があったので仕事も同じようだ。

 その辺はそう簡単に変わったりはしないということらしい。奇跡的に超ホワイト企業に就職できてないかなと毎度ながら淡い期待を抱いている。


 そして。


 最も重要なことだが、絢瀬さんについてのこと。


 それを確認する手段が今のところ彼女が所属していた風俗店のホームページを見るしかないというのが悲しいが、仕方なく検索した。


 その結果、そこには変わらず彼女の名前があった。


 当然といえば当然だが、あの程度で未来が変わることはないらしい。


 オリエンテーションはあくまできっかけの一つでしかなく、それを潰したところで別のきっかけが生まれるだけ。


 未来を変えたければもっと根本的な、根幹に関わる部分に踏み込まなければならない。


 それは分かっている。

 問題は、その問題が分からないことだ。


 情報がなさすぎる。


「……よし」


 これからするべきことは決めた。

 とはいえ、すぐに行動に移せるわけでもない。

 

 とりあえず社会人として仕事に行かなければならないわけで、どうせ変わる未来なのだしサボってやればいいのでは? とか思ってはいるけど、それを実行できないところしっかりと社畜の精神がすり込まれている。


「……はあ」


 俺は立ち上がり、びしょびしょになったパンツを絞る。

 ていうか、そろそろこの夢精なんとかならん?


 挿入の刺激にそろそろ慣れようぜ……。



 ∀



「出勤しないな」


 仕事を終えて、駅のホームで電車を待っている間、風俗店のホームページで絢瀬さんの出勤情報を確認する。


 そこには一週間の出勤情報が掲載されているが、一度たりとも出勤しない。

 在籍しているのかどうか疑うレベルだが、考えても仕方ない。来週に懸けるしかない。


「……」


 しかし、なんだな。


 こういうとこの写真はもちろん修正とか補正とかかけまくっているんだろうけど、絢瀬さんめちゃくちゃ綺麗だな。


 あのとき見た裸体とさして変わらないように見える。あれか、そういうの必要ないくらい元がいいのか。


 これまで多くの風俗嬢を見てきたが、パネマジを感じなかった人はいなかった。


 顔はモザイクかかってるからそもそもだけど、写真通りのスタイルの人と当たったことは一度もないな。


 その点、絢瀬さんはいい意味で写真通りの人が出てくるので人気も凄まじいことだろう。


 ホームページ上の彼女の評価は非常に高い。あれだけ美人でテクニックもあり献身的となれば、低評価にする男はいない。


 それだけ多くの男にご奉仕してるのかと思うと悔しいというか、悲しい気持ちになるが。


「……ん?」

 

 そのコメントを適当に見ていると気になることが一つあった。


『出勤が少ないから指名できるのがレア。フリーで当たったのが奇跡。もう他の人を指名できない』


 他にも似たようなコメントがある。


 つい最近にされたものもあるのでどうやらまだ在籍はしているようだ。


 そうなると問題は出勤が確定したところで予約できるかどうかだな。秒で予約が埋まるというコメントもある。


「……これは厳しいか?」


 一応、逐一チェックはするようにしつつ、別の手段も考えておいた方がよさそうだ。


 ていうか、なんで奏さんの連絡先はあるのに絢瀬さんのはないんだよ。

 オリエンテーションのときがきっかけなら、同じタイミングで聞けただろ。なんなの、俺チキンなの?


 ……チキンだった。


 まあいい。

 俺がチキンであることなんて誰もが知っていることだ。そんなことを気にしたって仕方ない。


 今は別のアプローチを考えよう。


 如月を頼るか?


 あいつはコミュ障で陰キャだけどイケメンだ。もしかしたら絢瀬さんとの繋がりができているかも……いや、無理か。


 前回の時点で関係薄かったからな。

 そこから何か変わっているとは思えない。


 俺はラインを開いて『高峰円香』とのトークページを確認する。


 最後にトークしているのは一ヶ月ほど前のことだった。

 普通の雑談をしている。

 今は大人な関係とかでもなさそうだな。


 でも結構なトーク量なので普通に仲はいいっぽい。定期的に飲みに行ってるようだし。


 しかし、高峰と絢瀬さんなんてもっと関わりがない。


「おっと」


 電車が来たので乗り込む。

 中々に遅い時間なので車内は混んでいることもなく、難なく座席に座ることができた。


「……」


 如月はダメ。

 高峰もダメ。


 やはり高校時代の知り合いは少ないようで、その辺以外の連絡先は相変わらずない。


 となると、唯一期待できるのは奏さんだな。


 緊張しながら彼女とのトークページを開く。


「おお」


 一番新しいトークは数日前、内容もそれなりに親しい感じである。これならば連絡を入れてもおかしくはなさそうだ。


 ていうか、あの奏さんと何があってこんなに仲良くなってんだろ。

 確かにオリエンテーションで少しは壁がなくなったかな、とは思うけどそこからこうなるか?


 人生、何が起こるか分からんもんだな。


 ラインで訊くか?


 いや。


 直接の方がいいかな。


 とりあえず適当に連絡入れてみるか。

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